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第38話 山の祈り
終わらせた。
雪に埋もれかけたアルファのそばで。
もう一度、強い風が吹いた。
ノアは思わず目を細める。
雪煙の向こうで、騎士が剣を払って鞘に収めた。
――その時。
低く、くぐもった音で、山が鳴った。
斜面に、一本の線が走る。
「崩れるぞ!」
声とともに、朝日に光る斜面が滑った。
小さな点のようだった騎士たちが、尾根一帯の雪ともに滑っていく。
番いたちの眠る斜面に、雪崩が迫る。
その時、騎士の顔が一瞬だけこちらを見下ろした。
息が喉の奥で引っかかり、ノアは両手で口を覆った。
騎士はすぐ山に向き直り、手を振り上げる。
次の瞬間、滑る斜面が割れ、騎士を境に左右へと裂けた。
騎士が斜面を見下ろし、さらに下でも一度、二度、同じように雪の勢いが削がれる。
やがて山はおとなしくなり、騎士たちは斜面のあちこちに転がっていた。
「……止まった……?」
強い風が吹き、雪煙で辺り一面が白くなった。
ようやく息ができるようになった時、
一人斜面に立つ騎士がじっとこちらを見ていた。
「――あいつら細えことうるせえんだ。なんで来ただと。いつものことじゃねえか」
砦に戻ってきた騎士たちをサウナに押し込めに行ったじい様二人が、爽やかなハーブの匂いをさせながら補給部へと戻ってきた。
「それに比べてオルさんは器がでけえな。雪崩だって結局オルさんが止めたじゃねえか。その上こっちのことは心配しとらんかったとさ」
肩を揺らして笑うじい様に、ノアはそっと声をかけた。
「オルさんて、さっきの、オメガを討った方ですか」
雪山で見た、長い黒髪が脳裏をよぎった。
「おお?そうだとも。ノア坊会っとらんか」
「あれは大した男だな。応援部隊の指揮官だがよ、雪山潜伏も平気なツラしてこなしやがる」
「いや昨日は少し風邪ひきかけだったろ」
「さっきはピンピンしてたぞ」
あちこちからじい様たちがオルさんのことを話しだし、室内が騒がしくなった。
近くのじい様にもう一度尋ねる。
「オルさんて、ここの方じゃないんですか」
「応援の騎士だよ。西のだったか、なあ?」
ノアは、下唇を噛んだ。
唾を飲み込む。
「名前、オル……オルブライトさん。ですか?」
じい様が首を傾げる。
「そんな名前だったか?お前覚えてるか?」
「ああ?んー、そんな感じだったか?オルライト?」
「オルブライト、さん」
もう一度、その名前を舌に乗せる。
この名を口にするのは、二年ぶりだった。
「なんだノア坊、オルさんの知り合いか!」
近づいてきたじい様が言い、ノアの頭をぐりぐりとなでた。
「今サウナつっこんできたから、後で挨拶でもしてこい」
「いや、俺は別に……」
「このあとは寝かしてやれよ。さすがにオルさんもクタクタだぞ。でかいの何人掘り起こしてきたか」
その言葉に、思わずノアは深く頷いていた。
「おい、ノア坊。中央から電報だ」
扉が開き、じい様がノアに声をかけた。
立ち上がって電報を受け取る。
「――大変だ。」
師団の任務でアーネストが重傷を負い、現在師団を離脱していること。
それにより人員が不足しているため、魔獣対応がひと段落したら即時の帰還が指示されていた。
師団長の件は不用意に漏らすべきことではない。
ノアは確認した電報をすぐに折りたたんだ。
「今回の件で、魔獣対応は終息でしょうか」
じい様に聞いてみると、じい様は少し首を傾げてから頷いた。
「まあ、多分そうだが。――オルさんにも確認だな」
ノアは深く頷いた。
ディッカーの二人に急ぎ伝えなければならない。
「師団の方と話をしてきます。あとお願いします」
「おう、行ってこい」
セドリック達は魔獣対応の報告を待って砦にいるはずだ。
ノアは回廊を足早に通り抜けた。
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