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第39話 北の風運ぶ
「セド、ルベル、――大変だ」
「聞いたよ、魔獣対応終わったらしいな。俺らもういいって……、なんかあった?」
部屋に入ると、のんびりくつろいでいたセドリックが、ノアの顔を見て表情を変えた。
無言で電報を差し出す。
部屋の隅で装備を整備していたルベルも立ち上がってこちらへ来た。
「ルベル、すぐに帰還するぞ。室長が大変だ」
「室長?あの人大変なことになることあるか?」
ノアはさっそく帰還の準備を始めた。
まだ昼前だ。このまま準備すれば、夜までには馬を替えられる村に着けるだろう。
電報に目を通したルベルも、無言で頷いた。
「部屋の片付けは俺やっとくから、二人はモズさんたちへの引き継ぎと馬の手配とかよろしく。――もう、いいんだよね?」
「大丈夫。魔獣も片付いたらしいし、雪崩も対処できてる。急ごう」
「セド、俺は引き継ぎして、本部に連絡入れてくる」
全員で頷きあい、そのまま、すべきことに取り掛かった。
室内に持ち込んだものを片付け、雪山用の装備も一通り片付ける。
馬上で使う外套などを出して、最後に、寝台の毛皮を剥いだ。
よし、行こう。
暖炉の火を崩して広げ、部屋で使わせてもらった茶器などをまとめて持ち、部屋を出た。
食堂へ立ち寄り挨拶をして、馬上で食べられるものを少し分けてもらう。
食堂の向こうがサウナ小屋だ。
そちらからほのかに香る、甘い草の香りと、森の匂い。
ノアは一瞬足を止めて、そちらを見た。
「ノア坊、もう行くんか」
回廊を来たじい様に声をかけられた。
「あ……、はい。」
「そりゃ残念やったな。オルさんぶっ倒れて寝ちまったと」
「……え?」
言葉を失って目を見開いたノアに、じい様は肩を揺らして笑った。
「そりゃお前、こっちについてから毎日山登って、昨日は徹夜で山ごもりだ。
ほんで、でけえ魔法使ってから穴掘りだろ。俺らだってぶっ倒れちまう」
「ブラントルさん、帰還するんだって?」
サウナ室からもモズがやってきてノアに声をかけた。
「はい。緊急の帰還命令でして」
「モズお前、北方 のディッカーなのに、オルさんに全部助けてもらってんじゃねえか。おかげでノア坊がオルさんにも会えずじまいだぞ」
じい様の言葉にモズが情け無い顔をした。
ノアとしては、そんなことでモズを責めるつもりもないし、ローグに挨拶をしたかったわけでもない。
「じいさんも自分が流されてみてよ……」
「俺は別にいいですって。昔少しお世話になったんです。それだけで」
「ノア坊、そういうのはな、大事なことなんだぞ。ちゃあんと儂らが伝えといてやるから、安心して帰んな」
「本当に、別に大丈夫なんです。元々任務も違いますから……」
会いたかったわけではない。
本当に。
ただ――
少しでいいから、顔を見られたら良かった。
また回廊を風が通り、甘い草の香りがした。
この日ノア達は北の砦を出発し、急ぎ本部への帰途に着いた。
冬に埋もれた北方から帰還すると中央はまだ秋で、朝日射す雪山の景色は、まるで幻だった。
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