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第51話 赦し

 しばらくの間、  ――ローグに触れているところから、もうビリビリが伝わってこなくなるまでの間、  体を捻り、こぶし一つ分の間を空けて座っていたローグの胸に、  ノアは頭を押し当てながら、必死にしがみついていたけれど。  息の整わないノアを見かねたのか、  ローグが一言断ってから、ノアを抱き寄せた。 「――っあ」 「力抜け。もたれてたらいい。無理するな」  ローグの腕に背中を支えられて、体のこわばりも、緊張もほどけていってしまう。  そして、時を同じくして、ローグから伝わるびりびりも落ち着いてきた。 「ローグさん、大丈夫です。……多分もう、魔力は落ち着きました」  なんとかそう言葉を繋ぐと、「ああ」と疲れたような声が頭上から聞こえて、  それでも、支える腕は緩まなかった。  ローグの背中からそっと腕を離す。  服の下から腕を抜くと、空気の冷たさを感じた。  もたれていた体重を取り戻すために、片手で背もたれに手をつく。  しがみつくために力を入れていた腕に、少しだけ気だるさを感じた。 「――このままやるぞ」 「え……?」  ローグの腕に、少し上に引き上げられて、言葉の意味を察した。  慌てて見上げると、ローグの顔が近づいてくる。 「っあ、ローグさん」  ぎゅ、と胸の内がその大きな手に掴まれたように縮み、  思わず体を起こそうとして、ローグの腕に阻まれた。   「しがみつける方が楽だろ。  悪いが、――俺もこの方がずっと楽だ」    そのまま、お守りの場所――道の場所に唇を寄せられて、  仰いた喉の奥から、堪えきれなかったため息が、音をなして抜けていった。 「……あ、ぁっ、ぁ、っや!」 「――そうだ。我慢するな」  違う。  我慢していないわけじゃない。  ただ、我慢できなかっただけだ。    ローグがそれを分かっているのか、そうじゃないのかがわからなくて、  どうしようもなく恥ずかしかった。  服の下、素肌で触れ合ってお互いの熱をやり取りし、  抱き寄せられて体を支えられて、  感じてしまうままに声を上げて、    身体中の血管が開いて、背中が一気に汗をかいて、  思わずしがみついた腕に、力が入る。 「…………っ、ぁ、う、……んんっ!」  ひときわ大きく悲鳴が上がると、ローグはそこから唇を離した。  少し体が離れて、支えが心許なくて、ローグの胸元に顔を押し当てる。  くくっと、押し殺した笑い声が降ってくる。 「――必死に我慢してる時より、ずっと分かりやすくていいぜ。  ちゃんとそうして教えてくれ」 「や……、やだ、……っ」  小さく頭を振ると、ローグの腕にもう一度しっかりと引き寄せられた。  それから、ローグは捻っていた体ごとノアを持ち上げて自分の膝に乗せ、  ノアに自分の足を跨らせるようにした。 「え、……あの」 「体横向きで一時間は、お互いきつい。悪いが乗ってくれ」  そんな馬鹿な。  ローグの言うことがわからないわけではない。  ノアの肩や首は、昨日ローグに指摘された通り少し重だるくて、  我慢も横向きの姿勢もあまり良くなかったのだと知ったけれど。  それに、ローグに無理をさせたいわけでもないけれど。  さすがのノアだって、こうして膝に乗せられて、正面から抱き寄せられることが、  どれだけ親密な距離感なのかくらいは、嫌でもわかる。  顔に熱が集まって、視線を落とすしかなかった。 「――ローグさん……」 「……悪いな。だが、――すまん。さすがにこのままは持たん」  少し間が開いて、ローグの声が落ちた。 「……許せ」  少し固い、――押し殺した声だった。    それから、背中に腕を回され、引き寄せられて、  ローグに体を預けさせられた。  力抜けよ。耳元でそう囁かれて、体が揺れる。  ――そんなの、無理だ。  だけど、ローグの唇が耳の下に触れて、軽く吸い上げられて、  ローグの体に思わずしがみつく。  ぞくぞくが背中を走り抜けて、腰が逃げをうつようにうごめいた。    その背中をあやすように優しく叩かれたら、  もう、ローグに縋り付いて、か細く溢れる吐息を、声を、無理に我慢することなんてできなかった。 「――――ぁ、ん、ん、――ふ……ぅ」 「――いい子だ」  耳の下に舌を這わせる合間、ローグからかけられた言葉さえ嬉しかった。  こんなにも、許されて、受け止められることが、    嬉しかった。  ――どうしようもなく。  

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