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第38話 今からしようよ*
「……結局、俺はレーシュに嫌われてないってことだな?」
「むしろ好きなんだけど」
「はいはい家族としてだよな、わかってるよ」
「いや家族なんだけど、男として? ――誰よりも信頼してるし、何かあったら命がけで助けたいって思うし、触れられると恥ずかしいけど触れたいって思うし、心臓は苦しくて息は詰まるし、普通に恋愛って意味なんだけど……」
「待て待て待て情報量が多い」
レーシュがラツィエルに対して思っていることを挙げ連ねると、目の前の顔はあっという間に桃色になり、最終的には真っ赤な苺色になった。
その変化をおもしろいな、と見ていると「まじで? でもこいつが嘘言うわけないか……」とぶつぶつ独り言を言っている。
しばらくすると両腕が伸びてきて、レーシュの肩はぎゅっと握られた。翠の眼差しに射抜かれる。
「……俺も、好きだ」
「家族として?」
「それもあるけど俺はお前にずっと恋してるし抱きたいっていつも思ってる!」
「いつも思ってるんだ……」
「あ。ちが……わないけど違う! 愛してる!」
やけっぱちみたいな言い方で愛を叫ばれて、「あはは」と笑う。言われなくても、特大の愛を向けられていることはもうわかってしまった。
不思議だな、と思う。恋とか愛とか、長年理解できなくてどうでもいいものだと思っていた。
でもラツィエルに対する恋心を自覚したとたん、同じ気持ちを返してくれたら嬉しい、嫌われたら嫌だと考えるようになってしまった。
せっせと構ってきたり世話を焼かれたり、当たり前だと思っていた日常がなぜか嬉しく、失われたら悲しいと感じる。
これまであらゆる人からレーシュに向けられてきた感情は、ただの迷惑なものだと思っていた。
もちろんその中には利己的なものも含まれていたことは分かっているけれど、一部は純粋に恋焦がれて、ドキドキしたり苦しくなったりしてレーシュに思いを告げてきた人だっているのかもしれない。
三十にしてやっとそこまで思い至った。でも今から過去に戻ったとしても、レーシュは他の誰かの想いに答えることはできない。
利害の一致で結婚したとはいえ、ラツィエル以外に十年もレーシュの相手をできる人はいなかっただろう。
こんな自分が好きになれる相手は、一生涯にひとりくらいだ。そしてその相手は、ラツィエルに違いない。
「じゃあ、しようか」
「ん?」
何を? という顔のラツィエルに顔を近づけて、自ら口づけをした。素面 では初めてだからさすがに緊張したが、やってみると案外できるものだ。
柔らかい部分同士が触れ合って、鼻が軽く擦れる。くっついた、と感じた瞬間に顔を離せば、目を真ん丸にして固まるラツィエルがレーシュの唇を凝視していた。
したくないのかな? と思ったが、いつも抱きたい発言を聞いたばかりだ。レーシュはまだ少し動きづらい指でガウンを肩から下ろす。
「今からしようよ、僕はしたい」
「……ッ、いいのか? 病み上がりってか、まだ療養中だろ」
「激しい運動はだめだって言ってたけど……大丈夫でしょ?」
「いや、大丈夫か……? ……?」
ラツィエルはやけに考え込んでいるが、今回は薬を飲まされたわけでもないし激しくなりようがないと思うのだ。
レーシュは正直なところ、溜まっていた。色々あって最近は忘れていた性欲が、穏やかな生活でむくむくと育ってきている。
失敗してそれきり機会も失われてしまったけれど、初夜も素直に受け入れたくらい若い頃は性的なことにもそれなりに興味があった。
それ以降は義務的に処理するくらいだったのに……媚薬で前後不覚になっていたとき、抱かれた記憶は鮮明だった。
こうしてラツィエルが傍にいて欲が高まっていくと、否応なくあの気持ちいいやり方で発散したくなる。
レーシュもしたいし、ラツィエルもしたい。ならいいと思うのだが……
(ま、やる気にさせてしまえばいいか)
レーシュはラツィエルの履いていたシルクの室内着の上に手を置いた。お互い寝台の上に座っている状態だったからちょうどいい。
中心に向かって形を確かめるように手を滑らせれば、そこがビクッと震え「ハッ」と息を呑む音が聞こえた。撫でただけで硬くなってきたことに気分が良くなり、ラツィエルの下着の前も寛がせてしまった。
「わお。こんなに大きかったっけ?」
「レーシュ! や、やめろ……!」
やめろと言う割に抵抗しないんだから、続ける一択だ。縮み上がるでもなく立派な質量を持つものを緩く握り込み、手を動かす。簡単に熱さと硬さが増してくる。
初めて他人の性器に触れたが不快感はない。ラツィエル限定なんだろうけど、むしろ触れるだけでここまで反応するんだから愛おしいような気までしてきた。
もっと強く握った方がいいんだろうなと考えつつ、今のレーシュの手はオイルでマッサージされた後とはいえ皮膚が硬い。少し考え込み、かつてラツィエルにされたことをやってみることにした。
髪を耳に掛け、そこに唇を寄せる。焦った声で名前を呼ばれるが、レーシュは舌を出し先端を舐めた。またピクリと反応する。
そうしながらラツィエルの顔を窺うと、目が合った。驚いたように目を瞠っている。
(そんなに意外だった? ま、いいか)
レーシュは茎の根元を舐めあげた。先端の張り出した部分を輪にした指で刺激しながら丹念に舐め、それから先端を口に含む。
そのまま茎まで呑み込み、限界まで呑みこむ。舌を使って刺激し出し入れすれば、さらに硬く大きくなった。
しばらく刺激を続けていると、ラツィエルの手がレーシュの頭に遠慮がちに触れた。髪を撫で、指先で耳の形をなぞる。
「ん、ぅ」
突然耳に触れられたことで喉の奥から声が漏れてしまう。なのに指の動きは止まらず、耳の裏までくすぐってから首筋を下りてくる。
「んっ……ひ、ぁ……」
ラツィエルが触れた部分から性感帯になっていくような心地だった。思わず口から性器を出して喘いだレーシュは、涙目で犯人を見上げる。
しかし見下ろしてくる男は、獲物を検分するような目つきでこちらを見ていた。目尻を赤く染め、瞳に情欲を滾らせ、低い声で尋ねてくる。
「本当にいいんだな?」
「だから、したいって言って……わぁ!?」
体がふわりと浮いて、次の瞬間には背中からマットレスに着地している。驚いたものの、やる気にさせることに成功したらしい。
よかった。ラツィエルのものを舐めているだけで、自分もどんどん高まってきていたのだ。触れてない部分が熱くなっているのを感じる。
「レーシュ、愛してる」
「ん、……ぅ」
優しく重ねられた唇は、巧みにレーシュを蕩けさせた。舌が絡み、気づけばレーシュの腕はラツィエルの首に回って引き寄せている。
息が苦しいのに、自在に動く舌に翻弄されるのが気持ちいい。舌同士を擦り合わせたり、上顎をくすぐられたりすると明らかな快感が走って腰が震えた。
「あっ……そこ……ぁぁっ。なんで……?」
胸元に直に触れられて、いつの間にか服がはだけられていることを知った。薄い肉を揉まれ、尖りを指の腹で転がされる。
以前あれだけ感じたのは薬の効果だと思っていたのに、今も気持ちいいから不思議だった。
どんどん体が熱くなり、レーシュは腰を浮かせた。昂りをラツィエルのものにぶつけ、早くしてとアピールする。
「は、ぁっ……ん、ラツィ……」
「くそっ……脱がせるぞ」
レーシュの下履きを脱がし、ラツィエルも暑いのか上半身裸になった。レーシュは体に力が入らず、くたりと横たわってそれを見ていることしかできない。
ラツィエルの腕には包帯さえない。ダアトによって縫われた場所はもう抜糸されていて、剣を振るのはまだ禁止されているが生活に不自由はないという。
でも桃色になって膨らんだ傷痕は一生残るだろう。レーシュのためについた傷。
手を伸ばしてそこを撫でると、ラツィエルは片眉を上げてレーシュのもう片方の手を取った。手のひらにキスされる。
「んっ」
「俺の傷は勲章だ。レーシュは……綺麗に治してくれ」
「……ずるい」
何も言っていないのに申し訳ない気持ちを霧散させてくる。全くもって自分らしくないけれど、この男のことが心の底から好きだと感じた。
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