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第5話
蒼汰曰く、ホテルにあの実父が現れ、フロントで大騒ぎしたのだという。
おかげで蒼汰は追い出されるように強制チェックアウトをさせられたらしい。
母親が実父と離婚した理由は、蒼汰に手を出そうとしたから―――って、再婚相手も同類とか冗談じゃねぇ。
本当に笑えねぇな。
「ほ、本当にいいの?」
「ホテルだと、またアイツが来るかもしれねぇだろ」
「……っ、うん」
数日だ……。俺が、たった数日耐えればいいだけだ。
よく換気して、抑制剤を飲む。それで問題ないと、どうにか考えていたとき。
「……っ、恭介っ」
「お、おい? どうした…!?」
ぺたんと蒼汰が腰を落とした。
慌てて近寄れば、まるでおすわりするかのような格好で俺のズボンの裾を縋るように掴む。
「恭介…っ、あつい…、よ…っ」
「は、発情期か!? っ、ちょっと待て……!?」
ごくりと鳴る喉を殺して、とにかく抑制剤を―――と、焦る俺。
しかし、
「―――Ωを家に招いた、恭介の失態だよ?」
「げっ、おまっ!?」
しまったと思った時には、すでに遅かった。
至近距離からオメガの発情フェロモンを狙い撃ちされて、なだれ落ちるように俺の体が床へと崩れた。
「きょう、すけ」
「……っ、てめぇ…っ」
頭がガンガンする――。
オメガのフェロモンだ、それも……頭が狂いそうなほど強烈な……。
「恭介、好き。大好き……愛してる」
「そう、た……っ」
「だからね。ぜんぶ、恭介がいい」
――――っとに。ふざけんなよ、お前……。
見上げてきた蒼汰の瞳は熱っぽく潤み、上気した頬をとろけたように火照らせている。
俺を真っ直ぐに見つめる、――――小悪魔的(クソガキ)な、微笑み。
その仕草で、俺の理性が、完全に吹っ飛ばされた。
* * *
「やっちまった」
即落ち2コマとは、まさにこれだ。
ああ。αなんてのは愚かで悲しい生き物だな。Ωからの誘いには逆らえない。
さらにあのクソ野郎との一件のせいで、完全に感情が昂っていたらしい。
「変態じじぃは俺もか……」
顔を両手で覆う俺の隣から、くすくすと笑い声が聞こえる。
……気のせいだと思いたい。
「両思いなのに?」
「待ってくれ、今とても自己嫌悪タイム」
「むぅ。そこまで病むんなら、噛んでくれたらよかったのに」
く、クソガキが過ぎる……。
俺がどんな想いで、それだけはと――必死に耐えたか分かってんのか。
「噛むとか噛んでほしいとか軽々しく口にするな。お前はもっと自分を大事にしろ」
「恭介以上に、俺を大事にしてくれる人がいたらね」
「……」
「幸せにしてくれないの?」
ベッドのシーツにくるまったまま、そう言って幸せそうに微笑まれると、返す言葉がない。
―――ったく、厄介なΩに捕まってしまった。
「ねぇ、今度デートして?」
「あ?」
「えー!?そんな嫌そうな顔するの!?」
「ったりまえだ。もうすぐ三十二になるおっさんとのデートだぞ? 傍から見たらパパ活案件だ」
「―――そんなことない! 恭介はめちゃくちゃ格好いい!!」
「む゛ぅ~」って……。そんな恨めしげに睨まれても、客観的に見ればそういう関係にしか見えない。よくて歳の離れた兄弟だろう。
恋人同士には見えねぇよ。
―――そう思うのに、蒼汰は不満そうに頬を膨らませている。
「昨日、好きって言ってくれた!」
「あれは……まぁ、はい」
確かに、流された感は強い。
ずっと俺のことを、好きだ好きだと押しかけてきた蒼汰相手に……ここで負けてしまった。
だが、だってしょうがないだろ。
飯はうまいし、綺麗好き。言われたことやルールは守る。あんなヘンな男が現れて、全力で守ってやりたくなって……この感情をなんて呼ぶのかくらい、俺だって知っている。
「お前に、もっといい奴が現れたらな。俺なんておっさんだし」
「それって、セフレが都合いい……ってこと?」
「んな゛っ!?」
「…それで、恭介がいいなら、俺はいいよ……?」
お前の将来を思っての発言のはずが、目の前でしょんぼりと肩を落とされれば――俺がただのクソ野郎である。違う、断じて……っ!
と、フォローしようとした瞬間、蒼汰の俯いた前髪の隙間からニヤッとした笑みが見えた。
「~~~~~分かったよっ。んじゃあ、プランはお前に任せた」
「へ?」
「するんだろ、デート。行きたい場所くらいお前が決めろ」
「……うんっ! うん!! 明日、じゃあ明日!」
「発情期が終わってからに決まってんだろ!?」
ぱぁあっと顔を輝かせた蒼汰が飛びついてくる。
「恭介、めっちゃ好き! ありがとう! キスしたい!」
「うおっ!?」
「大好き!!」
「くっつくな! あと、おっさんはもう限界だ!」
(本編終了)
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