6 / 6

第6話(蒼汰視点)

その後:蒼汰視点 ――――――――――――――― 恭介兄ちゃんが、好き。 とっても、大好き。 『ね、約束して』 大きくなったら、俺を――――。 * * * もうすっかり慣れたものだ。蒼汰が恭介の家に上がり込んで二カ月になる。 その蒼汰が昼間、何気なく口にした言葉が、 「恭介。俺、数日留守にするけど作り置きはなにがいい?」 「は??」 「え?」 ――あれ? もしかして聞こえなかったのか? 怪訝そうな顔をしてこっちを見る恭介に、もう一度繰り返す。 「だから、俺が留守にする間の作り置きの話を」 「いや、意味が分からん。なんで留守?」 「なんでって…もうすぐ発情期が来るんだってば」 「ああ、そうか」 「もー。ちゃんとカレンダーに印つけてんじゃん」 「でかでかと丸しているのにさ」と言えば恭介は謝ってくれたけど……ちょっと驚いた。一瞬、恭介が不満そうに眉をひそめた気がして……。 『共同生活のルールだ。発情期はΩ専用のホテルで過ごせ』。最初に約束させたのは恭介のほうなのに。 「いいよ。ここで過ごせよ」 「――!? そんなの…っ! え、本気で言ってるの!?」 「冗談でこんなこと言うか」 恭介の態度に、蒼汰は目を丸くした。 これは夢だろうか? 本当に夢かもしれない……。 「だって、だって…、また恭介に迷惑かけるかもよ…?フェロモンの、匂いだって…」 「お前、普段からうちで過ごすってわがまま言ってるくせに、今さら遠慮するのか?」 「えっ!?」 「あー勘違いするなよ。俺はまだ、あのクソ野郎を警戒してるだけだ」 実父に蒼汰を会わせたくないんだと恭介は言うが、その言葉は蒼汰の耳には届いていない。 (それってさ、つまり…) ずっとずっと番になりたいと願っていた恭介が、現在、俺と付き合っている。 そしてついに―――発情期を一緒に過ごしたいと言った。これってつまり、俺と番になってくれるという合図だろう(そこまでは言ってない)。 「蒼汰。もし、心配事があるなら言え」 「へ?」 「ねぇわけないだろ? 俺はなるべく反応しないようにするけど、不安ならホテルを」 「おい、そこは「孕ますまで蒼汰を抱く」くらい言えよ」 「……悪い。やっぱ、ホテルに行ってくれ」 「ひどい!!」 俺の発言は冗談だけど、恭介のは冗談じゃない。 不満だと頬を膨らませたって、恭介には効果がない。 (俺は、もう何も知らないお子様じゃない。恭介だって……知ってくるくせに) ―――本能的に、「Ω」の求愛に「α」弱い。 でも、恭介が俺を抱いたのは俺がフェロモンテロを仕掛けた、あの一回きりだった。発情期でαに抱いてもらえるか、もらえないかはΩにとって重要な問題なのに…。 俺は生半可な気持ちで恭介にアタックしてるわけじゃない。まだガキって理由だけで『NO』を突きつけられたら傷つく。 「蒼汰。なんでそこまで……こんな、おっさんがいいわけ?」 「それは――」 「お前はまだまだ若いし、綺麗な顔してんだ。その年齢でふけ専とか将来困るぞ」 「………じゃあ、俺が恭介を捨てても平気なんだ」 拗ねたような俺の言い方に、恭介がぴくっと反応するのが分かる。 …………俺は、ずっと好きだったんだもん。 恭介がまだ田舎の実家にいたころ、俺は恭介と会うことが多かった。 だけど恭介が都会に就職して、なかなか会えなくなって、とても寂しかった。 法事で…、数年ぶりに帰省した恭介を見た俺が、どんなに嬉しかったか知らないだろ? ずるいと分かってたけど……。酔いつぶれて眠る恭介に囁いた。 『大きくなったら、オレ、恭介兄ちゃんと結婚したい』 したら、恭介は答えてくれた。 『―――お前が……、十八になったら考えてやるよ』 その言葉に心が揺れた。 そのとき、俺はなんのために「Ω」に生まれたのか知った気がする。 ずっと、俺には分かってた。 恭介が――――俺の、「運命の番」だって。 だから、他の誰に笑われても否定されてもいい……恭介だけには「違う」って否定されたくない。 「俺は恭介の理想じゃないし、早く別れてほしいよな…」 「あ゛ー…。悪かった、そんなつもりじゃなかったよ」 「やだ、許さない。俺の機嫌直して」 バカ恭介。既成事実があるんだから、年の差なんて今さらじゃん。 俺が気にしてないんだから、早く諦めてくれればいいのに……。 でも、恭介からの『好き』って一言で……俺の暗い気持ちが消し飛ぶのも、よく分かっていた。 「あー…蒼汰がそんなに一緒にいたいって思うのって……運命なのかもな、俺ら」 「――へ?」 え……、なんで、……? 運命……って、言ってくれた……? 恭介から? 「はは。とか、思ってたり――……?」 「…………っ」 かーっと顔が熱くなるのを感じた。 ――――――うれしい、恥ずかしい。 今、どんな顔をしたらいいんだろ……。 「蒼汰、お前……かわいいな」 「―――っ!?」 からかうな!! と、つい真っ赤な顔で怒鳴ってしまった。

ともだちにシェアしよう!