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7-テイクツー ※R-18

ギシ、と安っぽいベッドのスプリングが佐倉の体重で軋む。 エグチとヨコヤマはいなくなったが、俺は相変わらず無様に横たわったままだ。 「こんなレイプまがいの商売がまだ横行してたんですね。引っかかる方も骨董品級ですけど」 カメラの液晶を開いて閉じてと繰り返したり、ズームの精度を確かめたりしながら、佐倉が溜息混じりに言った。 「お前、どうして……?」 もしかして俺が佐倉の名前を呼ぶ声が聞こえたのだろうか。いけすかない奴だと思っていたが、そんなドラマチックな展開を予想して、不覚にもドキリとする。 佐倉は呆れたように、むしろ哀れなものを眺めるように、横目で俺を見下ろした。 「イツキくんのスマートフォンの位置情報を調べました」 「位置情報……ってそんなの、俺、何も設定してないけど……?」 「ええ。イツキくんが昼寝してる間に、俺が設定したんです。元々は紛失用の機能ですが」 「はあっ!?」 プライバシーも何もない行為に、俺はわなわなと震えた。否、震えたくても身体は動かなかった。 「飼い犬だって、最近は迷子札を着けますよ。……感謝されてしかるべきでは?」 淡々とした佐倉の答えに、ぐうの音も出ない。 佐倉が踏み込んでくれなかったら、俺は今頃、さらに悲惨な目にあっていた。想像したくも無いが、処女を失っていたかもしれないのだ。 「こういうのは建物側もグルなんですよ。小遣いもらってそうな従業員を問い詰めたら、部屋番号まで一発でした」 「やけに詳しいじゃねぇかよ。お前まさか……」 もちろん、本気で言ったわけではない。せめてもの憎まれ口を叩くつもりだったのだが、せせら笑う暇も無く、佐倉に顎を掴まれた。 佐倉の顔は相変わらず笑っているが、目は笑っていなかった。 ぞくりと寒気がする。 「世間知らずのイツキくんよりは、少しだけ常識を心得ているだけですよ」 「わ、わかったって、ごめんってば!」 「口で言っても解らないなら、躾るしかないですね。まったく手がかかる」 「……え?」 シュル、と佐倉が締めていた黒いネクタイを解く。そのまま人差し指でシャツのボタンも躊躇なく外した。 そして次に聞こえてきたのは、絶望的な電子音だった。 「お前、今、録画……押した?」 「ええ」 「あっ……ちょっと、待てって!」 「待ちません」 とんっと軽く肩を押される。俺の身体はたったそれだけの衝撃でも、まるで木の枝のようにベッドへと倒れた。 「っつーか警察来るんだろ?どうすんだよっ!」 「来ませんよ。嘘ですから」 嘘だろ正気かこいつ、と俺は目を見開いて、佐倉を見た。佐倉は表情一つ変えやしない。 俺を押し倒すように覆いかぶさって、さっきのエグチと同じようなことを始める佐倉。これじゃ、何も状況は変わっていない。 「ん、ぅ……!?」 俺は何回も何回も、もういいってくらい与えられる佐倉のキスに抵抗さえ許されず、ただ口の端から飲み込め切れないよだれを垂らして答えるのみの人形になっていた。 しかもタイミングが悪いことに、薬の効果が薄まってきていて、俺は動けないのは相変わらずだが、身体の感覚だけは徐々に取り戻していた。 「ぷはっ!」 はぁはぁ、とみっともなく息が上がる。酸素が足りなくて頭がくらくらした。 「これだけしてあげてるのに、いつになったら鼻で息するのを覚えるんですか?」 「うるせぇし、余計なお世話だわ!……も、いーだろ、早くどけっ……」 「次の仕事までまだ3時間もあるので」 3時間、このまま。最悪の展開に俺は絶望した。 「冗談じゃねえ!せめて、アレ止めろっ!アレ!」 少しだけ持ち上げられるようになった手をぷるぷる震わせて、ベッドのすぐ隣にあるサイドテーブルを指差した。 そこには先ほど佐倉が録画を開始した、ビデオカメラがセッティングされている。俺たちの様子が、しっかりと収められているのだった。 「嫌ですよ。また同じこと繰り返さないように、あのまま放置されてたらどんな惨事になるかを思い知らせるための映像なので」 「言われなくても、しねーよ……あっ!」 佐倉が俺の首元に顔を埋めたまま、もう片方の手で俺の胸あたりを撫でた。上半身の服はとっくに剥かれて、あられもない姿がビデオに映っているはずだ。 ぞわぞわ、となんとも言えない感覚に身をよじった。 「駄目。イツキくんが本気で反省するまで、止めてあげません」 「うわっ、や、へ……変なとこ触んな!変態っ!」 俺にできることは、佐倉が戦意喪失しそうな暴言をできるだけ沢山吐くことくらいだった。それなのに佐倉は全く動じず、慣れた手つきで行為を進めようとする。 「真正面から向かって汚い言葉を吐かれると、さすがに萎えそうですね」 溜息をついた佐倉が、そのまま俺の足と肩を掴んで反転させる。俺はベッドにうつ伏せる体勢になった。 「それじゃビデオに映らないでしょう。ほら、膝立てて。腰も上げて」 「ひっ!?」 ばちん、と佐倉が俺の尻のあたりを平手打ちする。大して力が込められていたわけでは無いのだが、無駄に良い音がして恐怖感を煽った。 俺はガクガク震える膝を一生懸命立てる。腕を立てる気力は無く、佐倉に高く腰を突き出すような体勢となってしまった。 「べとべとですね、ここ。入れられる準備できてるじゃないですか」 「入れ……?」 「男のあれを、君のここに」 背中越しに降ってくる佐倉の声に、俺は愕然とした。 「えっ、入んの!?嘘だろ!俺、男だよ?無理だろ、無理無理っ」 「本当に危機感が無いと言うか、ただの馬鹿だったんですね」 信じられなかった。舐めさせられるくらいだと思っていたのに。佐倉が来てくれなかった未来を思うと寒気が止まらない。 突如、ローションの染み込んだパンツの布越しに、尻の穴の上を指でなぞられる。 「うえぇっ!?」 「入りますよ、ちゃんと。試してみます?」 「やだ!絶対やだっ!」 「俺がなんで怒ってるかちゃんと解るまで、イツキくんが嫌がることは何でもしますよ」 きゅっ、と指先に力が込められる。布ごと穴を押し開かれるような感覚。 「ひ、ぐぅっ!?」 もう無知です駄目ですもう限界です、キャパシティを超えてます。 「も、むり……本当、怖い、からっ……!」 「小銭に目が眩んでいかがわしい撮影に出ようとした人が何言ってるんですか。ほら頑張って」 「だから、それは騙されたんだって!」 「こんなのまだまだ優しい方ですよ」 「……は?」 俺は恐る恐る、後ろの佐倉を振り返る。 「俺は自分の手で撮りながら酷くしないと、興奮しないタイプなので」 「……!?」 まるで好物を紹介するかのように、一層笑みを深くする佐倉を見て、全身の血の気が引いた。これはヤバイやつだ。怒らせてはいけない人間を怒らせてしまったのだ。 股の隙間に、佐倉の膝が無遠慮に差し込まれたのを感じて、俺は声にならない泣き声を上げた。 「はい。それじゃあ……何か言うことは?」 「ご、ごめ……なさっ……」 「そんなんじゃ伝わりません。ほら、ちゃんとカメラの方見て」 まるで犬みたいに、また顎を掴まれて、無理やり横を向かされる。視線の先にはビデオカメラがあった。 楽しそうな佐倉の声とは裏腹に手の力は強くて、逃げ場が無いことを悟る。恥ずかしさでまた涙がこぼれた。 やっとの思いで途切れ途切れに言葉を紡ぐと、押し殺すような笑いと、震える「よくできました」の声が降ってくる。髪の毛をわしゃわしゃと撫でられて、俺は気が遠くなりそうになった。いっそ気絶してしまった方がマシだ。 : : : 『お、俺は、佐倉のものなのに、変な奴らに着いていって、えーぶいに出……』 「やめろおおおおおおおおおっ!?」 車内いっぱいに流れるビデオの音声をかき消すよう叫んだ。運転しながら、佐倉は声を上げて笑う。 「いやぁ、なかなか興味深い素材が撮れました」 「素材って何!?それ、流出させたら恨むからな!末代まで恨んでやるっ!」 「はいはい、イツキくんを脅すためにしか使いませんよ」 「それもそれで、嫌だ」 いつか佐倉の寝込みを狙ってデータカードをぶっ壊してやる、と助手席で膝を抱えながら俺は決意した。今世紀最大の屈辱がまた更新される。 佐倉はひとしきり思い出し笑いをして、ふと口にした。 「そういえば、なんで俺の名前を呼んだんですか?」 「……聞こえてたのかよ」 「扉が薄かったんですよ」 悪態をついておきながら、そういえばなんでだっけ、と俺は思い返す。あの時は意識が朦朧としていたし、混乱して記憶が曖昧だった。 「あっ」 目を閉じて、エグチとヨコヤマの会話を思い出す。辿り着いた答えを深く考えずに、リピートした。 「そう言えば、好きなやつの名前がどうとかって……言われた……気、が……」 言っている途中で気がついた。なんてことを言っているんだろう俺は。まさかそんなはずが。 反射的に顔が真っ赤になるのを感じていると、佐倉が何の前触れもなくゴンッとハンドルに額をぶつけるのが見えた。 「えぇっ、佐倉!?」 信号待ちでなかったら、危ないところだった。何よりも、佐倉の意外なヘマに俺は驚く。 「イツキくんのそういうところ、どうかと思いますよ」 「な、なんで俺のせいだよ!……つーか、さっきの違うから!そういう意味じゃないからな!」 「……」 「おい、無視すんな」 佐倉はしらばっくれて運転を続けたかと思いきや、しばらくして少しだけ機嫌が良さそうに、カーオーディオから流れてくる曲を口ずさむのだった。とんでもなく上手いし絵になっているしで、俺はもやもやする。 ちくしょう。俺がこいつに勝てる日は、きっと簡単にはやって来ない。

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