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第2話:ヒートダウン

「あっちぃわ~」 「口に出すな、余計暑くなる」 「なあ黒木、お前の服装が一番暑苦しいわ!」 「これはポリシーだ!」 暑い太陽がサンサンと照り付ける今日も学校は当然の如くあって、気だるい暑さがやる気を削いでいく。 季節は7月で、寒さなんて等の昔に過ぎ去ってしまった。 そのはずなのに、唐草壮太と共に歩いている身長180㎝はある筋肉質なこの男は学ランを着ているのだ。 やせ我慢か、格好つけたいのか、改造制服である長ランを羽織って、苦し紛れの腕まくりをしている。 それを見て、唐草壮太は、黒木司という意地っ張りな男を見てため息を一つ吐くのであった。 「お前それ、暑くねーの?」 教室に入って真っ先に言われたのが、涼し気な半袖シャツを着て、片手に下敷きをうちわ代わりに仰いでいる友達、花梅竜二が直球で黒木に尋ねた。 当たり前だがエアコンはなく、扇風機もないこの教室は大変暑く、湿気の多いこの国では中々に厳しい環境を作られている。 皆が涼しい場所を求め、ロッカーに頬ずりをしたり、ひんやりとした廊下の床で横になったりしている。 「これは俺のポリシーなんだ。脱ぐわけにはいけねーよ」 「朝からずっと同じこと言ってん。アホやろ、コイツ」 額から汗を流し、一人だけ厚着をしているアホの子、黒木司は鋭い目で唐草壮太を睨み、椅子に座って腕を組んだ。 もうこれは誰から何を言われても意地を張る気満々のスタイルである。 この様子を見た竜二と壮太はため息をつき、諦めた。 「ネッチュウショーになっても知らんからな」 「痛い目見るまできっとわかんねーだろ」 「そんなことあるわけないだろ!俺は大丈夫だァ!!」 「はいはい」 「どーも」 こうして学校の一日が始まり、黒木司が本当に熱中症をおこして倒れるのも時間の問題であった。 いつまでも意地を張る自分の恋人を見て唐草壮太はうんざりした気持ちになるのである。 *** 教室の温度は38度超えており、ムシムシとした熱気と湿気でサウナ状態だ。 ノートをとっていると、自分の汗で紙が濡れてしまいふやけてしまう。 窓は全開だが、風は全然入ってこなくて、授業を教えている教師も汗だくで教鞭をとっている。 唐草壮太は、好きな美少女キャラの絵を切り抜きして張り付けた下敷きをうちわ代わりに仰いでうなだれた。 授業内容は全然頭に入ってこないし、ノートはふやけてしまい、消しゴムこすったら破けてやる気がなくなった。 水分とりたいけど、授業中は水分補給は禁止だと言われ、この学校は色々遅れているなぁとぼんやりと考えた。 男子が多く、女子が2~3名しかクラスにいないのが原因か知らんが、臭い。 もうしんどい、無理、そう思いつつ下敷きで仰いでいると背後で”ゴスン!”とすごい音がした。 教師もクラスメイトもみんな自分の後ろに注目し驚いている。 唐草壮太が振り返り、様子を見ると…。 顔を真っ赤にした恋人・黒木司が椅子からひっくり返って倒れていたのだ。 「おい!誰か保健委員の奴!黒木を保健室へ連れてってやれ!」 「そんな学ラン着てるから倒れるんだ!何やってん!」 クラスがガヤガヤし、壮太は椅子から立ち上がり、黒木の学ランを脱がせると、汗でヌルヌルしていた。 自分は背の高い黒木より幾分か小さく、けどなんとか肩に黒木の腕をひっかけ、背負う。 「先生、俺が黒木のやつ保健室つれていきます」 ほんと、バカな奴だ。 飽きれた気持ちで、暑い中、とても熱い黒木の体温を直に感じ、唐草は眼を細めた。 クラスの女子はキャーキャー言っており、こちらを熱いまなざしで見ている。 ああ、めんどくさい。 普段筋トレばかりしている図体ばかり重たい黒木をかついで、唐草壮太は教室を出て行った。 *** チリーーン 保健室はエアコンが聞いており、風鈴の音がしていて耳に心地よい。 担当教諭は今いないようで、誰もいない保健室に黒木を連れて入った。 「少し、休ませてもらおかなぁ…」 ベッドへ黒木を運ぶ頃には、壮太も疲労がピークでそのままベッドへなだれ込んだ。 涼しい風が気持ちよく、汗で濡れた体を冷やしてくれる。 横で気絶している黒木を見ると顔が真っ赤で辛そうにしているため、壮太は怠い体を起こして、氷嚢をつくり、黒木の額に当ててやる。 着ているシャツからは汗で濡れて肌が透けており、黒木の肉付きの良い体がくっきりと見えている。 何がなんだかわからないが、壮太はそれを見て、気が付くと黒木の日焼けした肌、胸板を舐めていた。 しょっぱい汗の味と、黒木の匂いがして、舐めた瞬間、黒木の身体がピクッと動いたので壮太は体がゾワッとした。 「な、なにしてたんだ。俺…」 自身の頭を手で触り、狼狽えるも、誰もおらず、見ているものも、聞いているものもいない。 黒木も眠っており、氷嚢のおかげか、顔も少しずつ正常な色へ戻っていっている。 今の行為を知っているのは自分一人だけか…と唐草壮太は思い、顔へ熱が集まる。 暑さで自分の頭がおかしくなってしまったか? けどこの男は、一応自分の恋人である。 なんで付き合うキッカケになったのか、しょうもない話すぎて笑えないが…。 「お前、もう迷惑かけんなよ…」 ギシッとベッドに体重をかけ、黒木司の頬を手のひらでソッと撫でた。 こいつは本当に目つきは悪いし、意地っ張りだし、どうしようもない。 授業は、まぁコイツのおかげでブッチできたけど…と考え、壮太は眠ってる黒木の顔を見つめた。 薄いけど少しふっくらした唇が目に入り、思わず指先で触ると弾力があり、壮太はゴクリと生唾を飲み込んだ。 なんでかわからんけど、今、コイツの唇みて、触りたいって思ってしまった…。 ゾワゾワした感覚が這い上がってくるようで、少しむず痒い。 そうこうしているうちに授業終了のチャイムが鳴り、廊下が賑やかな音になっている。 壮太はため息をなぜかつくと、ベッドにかけていた体重を床へうつし、立ち上がった。 「そろそろ教室もどるか…。ここ涼しいから離れるの嫌やけどなぁ」 出入り口のドアの前に立ち、保健室を出て行こうとする前に、もう一度眠っている黒木を見る。 寝ているとまぁまぁ可愛いもんじゃないの… 自分で自分のモヤモヤした気持ちがわからないまま、唐草壮太は保健室を後にした。 *** 放課後になると、黒木を心配したクラスメイトが数名ほど保健室まで訪ねてきた。 大概はからかいで、満足するとぞろぞろと帰って行く者ばかりだ。 今日は珍しく颯爽と帰って行く花梅竜二が保健室に顔を出した。 「司。大丈夫か?」 「ああ、悪かった…」 竜二の顔を見ると黒木はいたたまれない気持ちになり、ぬるくなった氷嚢をどかし起き上がる。 それを見て竜二は黒木の傍に寄り添う。 「お前まだ無茶すんなよ。いま壮太くるから。待ってろ」 「なっ、………ああ、わかったよ…」 「氷嚢作ってお前を看病したのも壮太だぜ?ここまでお前を運んだのも。案外力持ちなんだな」 竜二は楽しそうに話し、氷嚢を黒木の手から取りあげ、中身を捨てて洗って干している。 ずいぶんとまぁ友人の恋仲を楽しそうに見ているものだなぁと黒木は思い、不思議な気持ちだった。 そういえば竜二にも恋人がいるって以前話に出ていたなぁ…。 「おし、俺はそろそろ帰るぜ。司、もう学ラン着てくるのはやめろよ?」 「わーったよ…本当に…」 「そういうことは壮太に言っておきな。じゃあ」 竜二は快活に話し、用が済むと笑顔で手を振って保健室を出て行った。 しばらくして黒木の荷物をまとめてくれていたようで、カバンを二人分持った壮太が顔を出した。 「元気になったか?アホの黒木」 「…迷惑かけました」 「わかればいいんや。ほれ、これ荷物」 少し目元を赤くして、唐草壮太はぶっきらぼうに言葉を返し、荷物を渡す。 それを黒木は丸い目で見つめ、今日は何かあったのか?と疑問に思う。 「さあ、帰ろうか」 「ああ」 誰も見ていないし、知らないことがある。 黒木本人も気づかないし、知らなかったことがある。 ただ、言葉だけの恋人という関係が少しずつ変わり始めて色がついてきている事だけはわかるのであった。 おわり

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