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第3話:肝を試すとは
※正義も登場します。
「なぁ肝試し、してみないか?」
黒木司が楽しそうに壮太と竜二に声をかける。
だが二人とも興味は無さげで、どうでもよさそうな顔をしている。
「司、一人で行けよ。俺はいい」
「俺もいいや。詰みゲー消化したい」
素っ気ない友人と恋人に、黒木はつまんなさそうにし、さっさと諦めて席へ戻りふてくされた。
それを見た竜二は、漫画本に夢中になっている壮太に肩をトントンと叩き声をかける。
「何?」
「お前、司と言ってやれよ。肝試し」
「ええ~!?なんで俺が!!」
「司の恋人だろ?」
「恋人って言ったって…うー…」
壮太は耳を少し赤くし、少しうなだれた後、無言で席を立ち、ふてくされている黒木司の前へ立った。
そして照れ隠しに後ろ髪をガシガシと撫でて、こう言った。
「なんか、食わせてくれるなら肝試し言ってやってもいいよ…」
「なにか?」
「その、弁当とか……」
少し初々しい感じの雰囲気を出し、竜二が笑いをこらえて二人の様子を見ている。
面白くて仕方ないのだろうけど、当人の2人は複雑な心境になった。
「べ、弁当…」
「やっぱりいい。弁当とか、いらないから、肝試し行ってやるよ」
「本当か!?」
目線を逸らして耳を赤くし、壮太が言うと、司は嬉しそうに笑い飛びついた。
突然抱き付かれた壮太は驚いてひっくり返りそうになったが、まんざらでもなかった。
***
深夜0時、校舎前にて。
「んで、どこで肝試しすんの?」
「おい、竜二、なんでお前まで来てるんだ?一緒にいる人は?」
ちょっと驚いた様子で壮太と司が竜二と一緒にいる眼鏡をかけた長髪の男を見る。
寄り添って立っていて、堂々と手を繋いでいるため、聞くまでもないが聞いてしまった。
「ん、正義。俺の恋人」
「は、初めまして…」
長髪の艶やかな黒髪をポニーテールにし、Tシャツにジーンズというラフな服装をしている。
眼鏡をかけているが、レンズ越しから見える目は綺麗で、女性的な顔立ちである。
クラスで仲良くしている友人の、いつも話だけ聞いていた年上の恋人を初めて見て少しドキマギしてしまう2人。
「だ、だよな…聞かなくてもなんとなくわかったわ」
空笑で司が返し、竜二はうんうんと頷く。
「竜二くん、僕、肝試しなんて嫌だよ…」
「大丈夫だよ、正義、俺がついてる」
勝手に2人の世界に入り、イチャついている竜二とその恋人に2人は呆れた。
とりあえずほっといて、司は肝試しの説明を始めた。
「ここの校舎裏の雑木林を通り抜けるだけだ。なんでも昔、自殺した人がいるらしいんだってよ。それで夜に出るとか…」
「うえ~まじかよ~怖いな…」
「竜二くん僕やっぱり帰りたいんだけど…」
「大丈夫だって!正義!!」
こうして各々カップルが移動を始め、どっちが先行するかじゃんけんで決めた。
勝ったのは壮太で、先に進むのは竜二と正義だ。
壮太はこの竜二の恋人の正義が今にも泣きそうな様子なので内心可哀想だなぁと思った。
だが、壮太自身も結構ビビりのため、不安が強い。
司は大丈夫なのか?と思い、司のほうを見ると、普通にしている。
なんかつまんないなぁと思ってしまう自分に、あれ?と思いつつも肝試しは始まった。
「じゃあ俺たち先に行ってるから、林を抜けた先で待ってるぜ」
「ひっ…竜二くん…待って…!!」
懐中電灯を持った竜二がさっさと歩きはじめ、正義が慌てた様子で後を追いかけていく。
後ろ姿だけ見ると男女カップルに見える二人に苦笑いし、そっと見送った。
しばらくして見えなくなったあと、壮太と司も覚悟を決める。
「行くぞ、唐草」
「うん黒木…よろしく」
懐中電灯を片手に持って、暗い夜道を2人で歩いて行く。
2人は恋人同士と言っても、形だけで、竜二と正義のようには振舞えない。
肩と肩がぶつからない距離感で、司が懐中電灯を持って夜道を歩く。
「なあ、黒木。俺たちさぁ」
「ん?」
ガサッ
物音がしてビックリした壮太はとっさに司に抱き付き、焦る。
懐中電灯を向けると猫だったので、ホッと胸をなで下ろし、司に抱き付いていたことを思い出して顔を真っ赤にする。
司も耳まで顔を赤く染めており、恥ずかしさのあまりお互い無言になった。
「ご、ごめん…」
「いや、仕方ないよな…」
トボトボと歩き、暗い雑木林の中を進んでいく、夜空の月も林で隠れて見えなくなり、不気味さが際立つ。
時折聞こえる獣の唸り声に、壮太は冷や汗をかき、気が付くと司の手を握っていた。
司はそれに気づいたが、怖がっている壮太を見て、何も言わず、手を握ってあげた。
ギャァギャァギャァ……
突然のカラスの鳴き声に壮太は驚きのあまり司の手を引っ張って勢いよくひっくり返った。
視界が反転し、司を押し倒すような形になってしまい、壮太の顔が司の厚い胸板に埋もれる。
「…は、ははは……」
「……ははは……」
恥ずかしさが絶頂天に達し、お互い身動きもとれず、ゼロ距離で密着するお互いの身体にドキドキしてしまう。
最早笑うしかなく、2人とも視線を合わせることはできなかった。
「ご、ごめん。俺、ビビりで……」
「大丈夫だ、俺こそすまん、誘ったりして…」
土汚れを払って、お互い起き上がり、なんだかイケナイことをしてしまったような感じになり心臓の動悸が早くなる。
司が意を決して、壮太の自分より一回り小さい手を握り、懐中電灯を握り直してスタスタと歩き始めた。
「さっさと終わらせよう、唐草」
「そうだな…」
お互い顔面に熱が集中し、心臓がバクバクしていて夢中になって雑木林の中を通り抜けていく。
もう肝試しのことは頭に入っておらず、さっき密着した余韻が体に残っているような感じがする。
手汗でお互いの手が湿ってヌルヌルとし、暑さと湿気にくらくらしてしまう。
「もうすぐ出口だ」
「ああ」
当初は何か話そうかと思ったが、すっかり頭が真っ白になってしまい、早く出口へいく事だけを考えてしまう。
ざくざくと進み、出口が見えてきたら2人して早歩きになった。
「やったぁー!!出口だーー!!」
「おう!!やったなぁ!!!」
雑木林から2人して飛び出してきて、待っていた竜二と正義が笑顔で待っていた。
正義のほうはよほど怖かったのか、竜二にしがみつき、うつむいている。
けど心霊現象とかは何もなかったため、良かったと思った。
「おい、お前ら。随分仲良くなったんじゃねーの?」
竜二が楽しそうに2人の大事に結ばれた手を指さして笑うと、司と壮太は慌てて手を離し、顔を真っ赤にするのだった。
こうして肝試しは何もトラブルもなく終了し、各々帰って行った。
司と壮太には忘れられない思い出となって…。
おわり
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