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第4話:線香花火とのこりかす
なぁ壮太。俺、なんでお前と付き合ってるんだろ?
この一言がもし言えるなら俺たちのわけのわからない関係は終わるのだろうと思う。
けど司は思い悩んだ。
肝試しをやって以来、まともにアイツと話してない…。
それにまんざらでもない自分がそこにいた。
あの日、竜二と正義が仲睦まじい様子で一緒にいるのを見て、無意識に自分も…と考えていたのだ。
こんなこと考えてるようじゃあ、俺らしくないなぁ…。
司はため息をつき、自室で敷いて寝ていた布団から起き上がり朝食の支度をする。
ただでさえ家事と学業をこなして忙しいのに頭の中は壮太のことでいっぱいだ。
こんな女々しい自分かっこ悪いと思い、無意識に舌打ちをした。
「司ー、母さん今日も帰り遅いから…ってあら?舌打ちなんて珍しい」
「か、母さん…なんでもねぇよ。わかった。夕飯はラップかけて冷蔵庫入れておくから」
「そーお?学校で何かあった?大丈夫ならいいけど…。ご飯よろしくね、いつもありがとう」
早朝から夜更けまで働く黒木司の母はまだ若い。
司を産んで早々に離婚した夫からは養育費はろくすっぽもらえず、一人で司を育て家庭を支えている。
長い髪の毛を後ろに結び、スーツに着替えた母にスクランブルエッグとトーストを出してやると母は嬉しそうに笑う。
けど目の下にはクマができており、いつか過労で倒れないかと心配になる司とは対照的に母はマイペースに食事を摂り始める。
「うーん美味しい!アンタ高校卒業後は調理師目指してもいいんじゃない?」
「そうか?」
「母さん、アンタの料理好きよ~。じゃ、会社行ってくるわね!」
食べるのが早い母はあっという間にカバンを持って先に家を出ていく。
司は遅れて食事を摂り、学校へ行く準備をした。
***
「おはよう」
「…おはよう」
唐草壮太が暑そうにシャツを腕まくりをし、学校からの最寄り駅で自分を待っている。
最早見慣れてしまった光景に、この生活が毎日当たり前のように続くのだと思い込ませてくる。
二人で学校までトボトボと歩き、他愛のない話をする。
すると壮太が突如、司の肩を引っ張ってきて思わず司は驚いてのけ反ってしまった。
「なっなんだよ!」
「花火!!!」
「花火ィ!?」
素っ頓狂な声が出て目を見開き壮太の表情を見る。
とても愉快そうに大きな目をさらに大きく開かせこちらを見つめている。
「夏と言えば花火だろ!?今日やろうぜ!!決定~~~!!」
「はぁ……」
何でこんな奴に振り回されてるんだろうと司は呆れた。
けど夏に花火か…、悪くないなぁと思い壮太の誘いに乗った。
今年の夏は友達と恋人?と仲良く花火…これも良い思い出だ。
学校へ到着し、花梅竜二にさっそく壮太は声をかける。
竜二は相変わらずこっそりバイク通学を続けており遅刻ギリギリに来る。
「なぁ!竜二…!!今日花火やろうぜ!!」
「はぁ?花火?俺予定あるから無理」
「ええええええええええ!?」
あっさりと断れ、壮太はがっくりとうなだれ、司のほうを見ると少し申し訳なさそうな顔をする。
それを見て司は察しがつき、花火は中止だなと思った…が。
「じゃあ司、二人で花火やろう!!!!」
「えっ」
唐草壮太は諦めの悪い男だと思った。
普通ここは二人じゃ寂しいから中止するとこだろーが…と言いたいが司は言えなかった。
「お~いいんじゃね?お前らもいい加減ハッキリしねぇーとなぁ」
竜二がニヤニヤしながら二人を見て愉快そうにしている。
この野郎…本当に予定なんてあるのか???
司はグッと思うも少し高鳴る胸に動揺が隠せず耳が熱くなる。
今日は母さんも帰り遅いって言ってたし…。
「じゃあ学校終わったら花火買いに行こうぜ~!な!黒木!」
「ああ…」
未だに苗字呼びの俺たちに名前を呼ばれるたびドキッとしてしまい、司はぎこちない表情で応えた。
***
「俺、この花火がいい」
「それダメだろ。値段が…」
スーパーで壮太が打ち上げ花火付きの豪華な花火のスペシャルパックを眺めている。
自分たちが購入するのは手持ち花火の安いやつだ。
バイトもしていない自分たちは親からもらった小遣いでやりくりするしかないのだ。
「残念だなぁ。打ち上げ花火、見れたら楽しかったのに」
「花火大会があるだろう」
「あんな人混み嫌だよ。家にいるほうがいい」
「ワガママだな…」
朝起きたときは何故か壮太を妙に意識していた司だが、いざ会うとこうしてすんなり会話ができる。
しかしまさか二人で花火をするとは思わなかったので気にしてしまうと脈が速くなる気がした。
結局壮太は折れて安い手持ち花火のパックを二人で折半して購入し、スーパーを後にする。
「おい唐草、どこで花火すんだ?」
「決まってんだろ?」
「んん?」
「海だよ」
電車に乗り込み、夕暮れの空を眺め、地元から一番近い浜辺へ向かう。
なんだこれ?と思い司は手に汗を握り、ガタンガタンと揺れる電車の音がやけに大きく聞こえた。
「見ろよー!海だぜー!泳ぎたかったなぁー!」
「もう日が沈むから泳げねーよ」
「また今度だなー!」
バケツとライターを手にし、走って騒ぐ壮太を見て、ふと笑みがこぼれる。
まだまだガキっぽいなアイツは…。
勝手に意識した俺がバカみたいだ。
バケツに水をため、さっそく花火を袋から取り出す。
壮太がワクワクしながら花火を持ってライターに火をつけると勢いよくキラキラと光る火花が散った。
「うおおおおおお!!!」
「こっち向けんなよ。あぶねーかんな」
「黒木も早く遊ぼうぜ!!すっげー!!めっちゃ綺麗だー!!!」
司も適当に出した花火を手に取り、ライターに火をつけると火花が散って流星のように降り注ぐ。
壮太と眼が合って、お互い無意識に笑ってしばらく花火で遊んだ。
***
ひとしきり遊ぶと花火もあっという間に消費し、バケツには残骸が溜まる。
壮太が残った花火を手に取り、残念そうにつぶやく。
「もう後は線香花火だけかぁ」
「ちょっとしか入ってないやつだったからなぁ」
「まぁいいか。さ、やろうぜ」
すっかり真っ暗になった浜辺に男二人が身を寄せ合い線香花火をする。
ヘンテコな光景かもしれないけど、悪くないとも思ってしまう。
やっぱり俺は、唐草壮太…こいつのことが……。
「なぁ、線香花火ってさ、綺麗だよな」
低音でややかすれ声で話す壮太の声に少しドキッとし、壮太の横顔を見る。
パチパチと静かに輝く宝石のほうな花火が壮太の顔色を控えめに照らし、いつもより男前に見せる。
「あ、落ちた…」
思わず壮太の顔を眺めていた司は線香花火なぞ見ていなかった。
壮太の一言にハッとし、自身の線香花火を見る。
「司」
「え?」
手を重ねられ、壮太が真剣な表情で司の顔を見る。
下の名前で呼ばれたとか、手を重ねられたとか、どうでもよくなる瞬間だった。
線香花火が役目を終え、光を失いポトッと地面へ落ちる瞬間に、重なる唇。
手は重ねられたままで真っ暗な夜に唇に当たる湿っぽい生暖かい感触。
しばらくすると唇はもどかしげに離れ、重なっていた手も離されて行く。
「……っし、帰るか」
いつも通りの何を考えるのかわからない笑顔で壮太は司に声をかける。
司は顔から首、耳まで熱が集まっていくのを感じ、咄嗟に返事ができなかった。
夏はまだまだ長い。
おわり
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久々に更新できました!遅くなってもう誰も待っていないと思いますが!すいません!
線香花火って萌えますよね!大好きです!浜辺で口付けとかロマンティック!
テンション上がりますね!もう早くこの二人にはくっついてほしいんです!
更新頑張ります(;;)
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