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第5話:ここから見る景色

※「第4話:線香花火の残りかす」の唐草壮太視点の話です。 肝試し以来、黒木司のことを妙に意識してしまい、唐草壮太は悩んでいた。 いつも喜んでやっているギャルゲーにも身が入らず、考えてしまうのは黒木のことばかり。 あの肝試しだって友達と遊ぶ感覚でみんなとやったはずなのに、何故あんな結果になったのか…。 「はぁ……」 思わず出るため息に壮太は楽観的な自分らしくないと首を横に振り、部屋の窓から身を乗り出して景色を見た。 今は夏の真っ盛り。青い空が広がり、大きな雲が空を泳いでいるのを見ると悩みなんか消えてしまいそうだ。 「そうだ…、花火だ…!」 突拍子もなく思い浮かんだ夏の風物詩に壮太は胸を躍らせ、学校へ行ったらいつものメンバーを誘おうと張り切った。 *** 「はぁ?花火?俺予定あるから無理」 「ええええええええええ!?」 竜二と正義を含めて4人で花火をしようと思って誘ったら、あっさりと断られてしまって壮太はうなだれた。 黒木司のほうを見ると、気まずそうな表情をしていてそれが何故か癪に触り、壮太は大声で叫んだ。 「じゃあ司、二人で花火やろう!!!!」 思わず下の名前で呼んでしまい、あっと思ったが黒木司は二人で花火のほうに意識が向いていて気づいていない。 竜二のほうを見るとニヤニヤとした視線で自分たちを冷やかす態度に少しムカついた。 登下校はもちろんいつも黒木と二人っきりであるが、いざ二人で花火となるとどうなるんだろう? このお互いの関係に進展と後退はあるのだろうか? そもそも自分はなぜ、女の子が好きなのにコイツと付き合っているんだ? 疑問ばかりが立ち込めてしまうが、楽観的な壮太はそこまで深く考えず、さっさと放課後の花火のことを考えていた。 「じゃあ学校終わったら花火買いに行こうぜ~!な!黒木!」 やけになった笑顔で黒木司のほうを見ると、ぎこちない笑みで返す表情に妙にドキッとしてしまう。 今日は花火。夏の思い出作りにと、思ったはずだが、壮太の中で何かが変わる気がした。 *** 「俺、この花火がいい」 「それダメだろ。値段が…」 スーパーで打ち上げ花火の入ったゴージャスなスペシャルパックを手に取って駄々をこねてみた。 折角花火をするのだから楽しみたいし派手なのがいい。 けど現実的に考えて自分たちのお財布事情を見ると、これに金を注いでしまうとすかんぴんになってしまうのだった。 壮太は黒木の言う通りに、手持ち花火だけ入ったお安いパックを割り勘で買ってスーパーを出る。 打ち上げ花火はまたいつか、お金があるときにやればいいか…、そう考えていると黒木が花火大会の話を出してくる。 人混みが嫌いな自分は即却下し、黒木と一緒に電車に乗り込んだ。 「おい唐草、どこで花火すんだ?」 「決まってんだろ?」 「んん?」 「海だよ」 花火と言えば海!壮太は張りきっていた。二人しかいないけれど、なんとかなるだろう。 もう夕暮れの空に、電車から景色を眺めている黒木の横顔をチラ見する。 高校デビューした不良で、けど母親思いで、イマイチつっぱれない黒木司。 俺はこいつのどこがいいんだろう? 手に持っている花火パックに汗がにじみ、電車の中の冷房はあまり効いていない。 *** 「見ろよー!海だぜー!泳ぎたかったなぁー!」 「もう日が沈むから泳げねーよ」 「また今度だなー!」 海を見て心が躍り、花火を持って浜辺へ駆け出す。 昼間は太陽光で高温だったはずの足元も温くなっていて踏み心地が良い。 本当なら海辺で遊びたいところだが服が濡れてしまうので我慢する。 黒木のほうを見るとマメな性格なのかバケツに水を汲んで黙々と花火の準備をしている。 コイツ見た目はガタイよくてゴツイわりに中々意外性があるよなぁ。 壮太は黒木のほうへ戻り、一緒に花火の準備を手伝った。 ライターは家から持ってきたもので、太めの花火を手に取り先端に火をつける。 すると火花が出始め、キラキラと輝いて浜辺へ降り注ぐ。 「うおおおおおお!!!」 「こっち向けんなよ。あぶねーかんな」 「黒木も早く遊ぼうぜ!!すっげー!!めっちゃ綺麗だー!!!」 なんだこれ、二人でも全然楽しいじゃん。 そう思い、壮太は黒木と一緒に夢中になって花火で遊んだ。 大きな手で花火を手に取り、遊んでいる黒木の姿は滑稽だと思った。 夕暮れの日差しが黒木の全身を照り付け、少し眩しく見えた。 暑くて脱いだシャツからタンクトップ姿になった黒木に少し胸がドキドキして、花火に集中する。 俺、なんか変だ…。 ひとしきり遊ぶと花火も残り僅か、バケツには残骸が溜まっている。 後で片づけが面倒だなぁと思いつつ、次の花火を手に取る。 楽しいことがもうすぐ終わってしまう喪失感に残念な気持ちになってしまう。 「もう後は線香花火だけかぁ」 「ちょっとしか入ってないやつだったからなぁ」 「まぁいいか。さ、やろうぜ」 すっかり真っ暗になった浜辺。 そこに俺と、黒木司という男が広い浜辺で身を寄せ合い線香花火をする。 随分とおかしい光景かもしれないけど、悪くないと思った。 思わず声が出た。自分でも驚く低音のかすれた声だ。 「なぁ、線香花火ってさ、綺麗だよな」 黒木のほうを見ると花火の輝きで、うっすらと上気した肌が見え、意識がぼやぁとする。 ぼんやりとした拍子に線香花火は輝きを失い呆気なく落ちて行った。 「あ、落ちた…」 何故だかぼんやりとして、そして目の前には黒木がいて、俺は気が付くと黒木司の手を自分の手に重ねていた。 「司」 「え?」 間抜け面でこちらを振り向く黒木が無性に可愛いく見えて、線香花火が落ちた瞬間に口づけをする。 初めて触れる唇は厚ぼったくて少し湿っていて、背筋がぞわっとした。 どのくらいしていたかわからなくなる感覚で、黒木も抵抗はしなかった。 ハッとした俺は、ゆっくりと唇を離し、なんでもなかったように話す。 「……っし、帰るか」 作った笑顔で自分を隠し、黒木の表情は暗くて見えなかった。 ただ自分の中で今までわかなかった気持ちが少しずつ形作って行く感じがした。 俺は、俺は黒木司が好きなんだ。 おわり ---------------------------- 壮太視点の「線香花火の残りかす」でした! 楽しんで読んで頂けたでしょうか? ここから進展させていくのが楽しみです。

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