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第6話:スパークリングソーダ水
あの花火での件以来より一層、俺は壮太を意識するようになった。
けど肝心の張本人はいつも通りにふるまい、何を考えているのかわからない。
俺ばかりが手のひらで踊らされている感じがしてチクチクした。
学校は相変わらず変わりなく、平凡な日常が続いている。
「はぁ……」
最近ため息が増えている気がする。
先日母にも指摘されてしまった。
学校がつまらないのかと思われていて、弁明するのが大変だった。
どうして俺だけこんなに頭を抱えないといけないんだ。
だんだん壮太に対して苛立ちが立ち込めてきた。
ハッキリしない男にこんなにモヤモヤさせられている自分が情けない。
苛々しつつ朝食の支度を済ませ、慣れた手つきで自分の分と母の分の弁当を用意すると司は乱暴にエプロンを脱ぎ捨て、学校の準備を始めた。
***
「おはよう」
学校の最寄り駅につくと、見知った男が立っている。
夜遅くまでゲームでもしていたのか眼の下にクマができていた。
そして何食わぬ顔で司に挨拶をする。
「…おはよう」
この前のアレ、何なんだよって聞きたいけど、いざ本人を目の前にすると言いにくいなぁ。
二人で一定の距離を保ってトボトボと歩き、朝なのに熱い日差しが照り付ける。
セミがけたたましく鳴いており、なんだかなぁと頭をぼんやりさせる。
「帰りさ、駄菓子屋寄ろうぜ?」
呑気な声で壮太が提案をしてきて、司は二つ返事でOKする。
もうどうにでもなれよ…。
俺は知らねぇぞ。壮太のバカ。
ふとすると花火のときのキスを思い出してしまい、頭がモヤモヤする。
こんなんで授業に集中できるのだろうか。
ここ数日自分の意識だけどっか遠くへ行ってしまったようだ。
「大丈夫か?黒木」
そう、壮太が声をかけてきて顔を覗き込んでくる。
動く薄い唇を見て、またこの前の出来事を思い出してしまう。
思わず距離をとってしまい、避けるような形になってしまう自分にげんなりする。
「な、なんでもねぇよ。それよりお前、駄菓子屋で何をするんだ?」
「そりゃあ遊ぶに決まってるだろ」
「高校生にもなって駄菓子屋かよ…」
「小遣い少ないんだから行く場所が限られてるだろ?」
「そうだけどよ…」
何気ない会話のリレーが続き、壮太の無邪気な表情を見ていると朝の苛々はいつの間にか溶けていき、自分も知らずに笑みがこぼれる。
なんだってこいつは、こんなくだらないことで俺を振り回してくるのか。
もう本当にどうでもよくなってきて、司は犬に噛まれた程度にしておこうと思った。
学校へ到着し、冷房のあまり効かない教室で下敷きを仰いでいると竜二が入ってきた。
よほど楽しいことでもあったのか上機嫌な様子だ。
きっと恋人の正義と上手くいっているのだろうなと司は思った。
「みんなー!おっはよう!」
「お前は元気で羨ましいよ」
とても楽しそうに挨拶をしてくる竜二に司はげんなりした顔で声をかけると、竜二はポカンとした表情をする。
「花火二人でやってからお前ら様子おかしくね?」
「……」
「……」
「なんかあったんだろ?な?な?俺に教えろよ」
竜二が興奮気味に司と壮太の肩をバンバン叩き大声を出すためクラスメイトの視線が突き刺さって痛い。
ついでに叩かれている肩も物理的に痛い。
「うっせーよ!」
思わず切れた司が竜二の手を払いのけ、教室を出ていく。
竜二はそれを見て、壮太に駆け寄った。
「なぁなぁ、壮太。司のやつ様子変だよなぁ?お前なら教えてくれるだろ?」
「プライバシーの侵害になります」
「えっ?あ、お前なんか耳が赤いっ…痛い痛い!」
壮太の耳を指摘した竜二を、壮太が掴みかかり仕返しとばかりに肩をバンバン叩く。
それを見た竜二は痛みに耐えつつも、これは何かあったなと察しニヤニヤが止まらなかった。
自分が親御さんだったら赤飯を炊きたいくらいの気持ちである。
***
「竜二のやつ、俺らのこと見て面白がってやがる」
「…お前が悪いだろ」
「えっ……ああ……」
昼食時、教室で弁当を食べていると不機嫌そうに壮太がポツリとつぶやくと司が反撃をする。
反撃された壮太はハシを机に思わず落としてしまい気まずそうにする。
またそれを見て竜二が反応し、楽しそうにこちらを見ているのだ。
「なぁー早くお前らさぁ、形だけじゃなくてよー、さっさとくっついちまえよ」
机から身を乗り出した竜二が壮太と司に声を掛け、二人とも目を見開く。
司は顔を真っ赤にし、壮太はへらへらと笑いつつも耳は赤くし、目線が泳いでいる。
竜二は我慢できないとばかりに色々二人に熱弁していた。
「もうすぐ夏休みだぜ?夏と言えば恋の季節!お前らもいい加減変わらないと!」
「ははは…」
「俺なんて正義との仲はもう長いぞ?くっつくのもあっという間だったし!」
花火のフラッシュバックが頭をチラつかせ、空笑いしかできない司に壮太は相変わらず何を考えてるのかわからない表情で黙っている。
花梅竜二の熱弁は最終的に正義との惚気話に突入し、司も壮太も何とも言えない気分にさせられた。
半分以上は話を聞いてなかった気がする。
***
「じゃあな!お前ら頑張れよ!」
上機嫌な竜二がさっさと荷物をまとめ、教室を飛び出していく。
残された壮太と司はお互い何も言わずに帰る支度を始めた。
「駄菓子屋、行くか」
「ああ、もう買うもんは決めてるぜ」
呑気に不敵な笑みを浮かべる壮太を見て、司は自分たちは竜二みたいに突っ走った恋愛は自分らには向かないだろうと思った。
壮太はマイペースだ。何事も呑気に考えており、スローペースだ。
スローペースだからこそ司を振り回し、手のひらで転がすように踊らされて困らせる。
「そういえば新しいゲームやってるんだけどよ、ヒロインが中々攻略できないんだ」
「はぁ」
俗に言うギャルゲーである。小遣いは自分と違って多くもらっているが、そのお金をゲームに投資しているためいつも金欠。
司はゲームといってもあまり興味がなく、それよりも外に出て運動をしたり体を鍛えるほうが好きだ。
壮太が色々ゲームの話をしているが、複雑な心境で話を聞いておりいたたまれない。
「黒髪で、ムチムチした体形のヒロインなんだけどさ、なんか口下手で中々素直になってくれないんだよなぁ」
「はぁ」
口下手かぁ、自分も口下手だから何とも言えない。司は壮太の話す中々攻略できないヒロインに気が付くと自分を重ねていた。
できるアドバイスなんかない。いや、あるか?言ってみるか?司は少し考えると口に出してみた。
「相手が口下手ならこっちがハッキリ言えばいいじゃねーか」
「…ああ、そうか。わかった」
何をわかったか知らないが、壮太は眠そうな眼を珍しく大きく開き、司のほうを見る。
納得したそうでギャルゲーの話はそこで終わった。
駄菓子屋へ着くと、壮太は真っ先に冷蔵庫からキンキンに冷えたラムネ瓶を手に取っている。
ああ、あれが飲みたかったのか。
司は特に買いたいものがなかったため、壮太が買い物をしている間に棚に陳列されている商品を眺める。
子供の頃によく好んで買っていたきなこ棒や10円ガムが売られており、まだまだ童心な司を楽しませる。
「よし、買い物終わった!黒木ー!そこのベンチで休もうぜー!」
「…!おう」
壮太が袋を片手に手を上げてこちらを見て、駄菓子屋の前にあるベンチを指さす。
高校生の男二人が狭いベンチに座ると、ギシッと音が鳴り少し狭い。
「ほら、やるよ」
「え?いいのか?」
手に渡されたのはキンキンに冷えたラムネ瓶で、司は驚く。
壮太は嬉しそうな笑顔で、二本目を取り出し見せてくる。
「一人だけ飲むのはさびしいだろ?それに…」
「…?」
「俺、お前のこと、ちゃんと考えてるからさ」
意味深な言葉を言い放ち、壮太はラムネ瓶をグイッと飲み始め、司はポカーンとした表情でその光景を眺める。
ちゃんと考えてる?何を?頭が混乱して手が止まっていると、それを見かねた壮太が司の手に触れてくる。
「早く飲まないと温くなっちゃうぜ?」
「あっ……ああ」
慌ててラムネ瓶の蓋を開け、グイッと飲むと爽快感のあるソーダ水の甘い味が口の中に広がる。
知らずのうちにどんどん流されて行く自分に司は悪くないと思いつつ若干の期待を持ってしまう。
一時はどうにでもなれだとか、犬に噛まれたと思うことにするとか、考えていたけど、この男と一緒に行動する限りそんな思考は無意味なのだと思った。
もらったラムネ瓶はとても美味しかった。
「なぁ、黒木」
先に飲み終わった壮太が司のほうを見る。
気のせいか耳が赤い気がする。
「今度、俺の家に来ないか?」
夕暮れの空にセミの鳴き声がずっと聞こえていた。
長い夏に、近づいてくる夏休みに、俺はどう答えれば良かったのだろうか。
おわり
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よっしゃーーーーーー!!!
お泊りとは行くか知らぬが、告白もまだしとらぬが、進展させていってるぞーー!!!
竜二くんは正義とラブラブしてるからいいんだけどね^^
しかしモヤモヤさせる二人だなくっそーーーー!!!
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