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第7話:これからのこと
唐草壮太に家に遊びに来ないかと誘われた。
どうしてつい最近キスを突然されたばかりなのにここまで考えを口に出さず誘えるだろう?
黒木司の心を激しくかき乱し、溺れてしまいそうな気持になった。
ああ、俺は自分が思っている以上にコイツに心を占領されているんだ…。
ぐっと握りしめた拳はごつくて大きい成長途中の男子の手で、ギャルゲーを好んで遊んでいる女好きのアイツに俺はどこまでの価値があるんだ。
一人で考えても埒が明かず、眠れぬ夜を過ごし、あの日の出来事が頭を駆け巡る。
駄菓子屋で飲んだラムネの味。
何を考えているのかわからないアイツの瞳と交差する俺の瞳。
「けど、あっさりいいよって言った俺ももう後戻りはできねぇーんだな…」
誰もいない部屋に独り言をポツリ。
聞いてくれる人は誰だってこの部屋には存在しない。
静かな声は空白の空間に溶けて消えていくだけ。
***
空は相変わらず綺麗で大きい雲が空を泳いでいる。
セミがけたたましく鳴いており、夏が熱を浮かしてかき立てる。
楽しそうに手を繋いで歩く男女を見て、やはり自分たちはおかしいのではないのだろうかと疑問に感じてしまう。
それでも最寄り駅に着くとアイツは立っており、恋人の俺を待っている。
ああ、この関係にピリオドを打つ日がいつか来るのだとしたら…
それはハッピーエンドなのか、どうなるのか検討もつかない。
「おはよう、黒木」
「ああ、おはよう」
唐草壮太はニカッと笑い、俺の筋肉質な肩をポンッと触れる。
コイツは本当に何を考えているのかわからねぇ。
家に来てくれっていうのだって、ただ遊びにいくだけでは?
悩んでしまう自分が女々しく感じて折角高校デビューした自身の風貌とはかけ離れていて情けない気持ちになった。
「あのさ、俺の家遊びに来るの…週末でいい?」
「………週末」
「うん。週末」
壮太が眠そうな重い目蓋で目を開けこちらを見てへらへらとしている。
ああ、ああ…へらへらしてんじゃねぇよ、人の気も知らないくせに…。
「わかった」
なんだかんだと不満はあり、けれど了承してしまう自分に司は胸がモヤモヤとする。
そういえばどうしてコイツと付き合うことになったんだっけ?
思い出そうとした瞬間に壮太が話しかけてきて気がそれる。
「泊まりはできる?」
「へっ?泊まり…?」
「夏の醍醐味だろ、夜通し遊ぶのは」
「親に聞いておくわ」
突拍子もない発言に、思い出そうとしていたことは消えて吹き飛び、泊まり?という言葉に脳が支配される。
何か起きてしまうんじゃないかと思ってしまう微かな期待と恋人とは名ばかりの友達付き合いのお泊りで終わることを想定している自分がいる。
「お前はホント、たっぱがあっていいよな」
ふいに呟いた壮太がどういう意図か、わからず表情も見えなかった。
確かに俺と壮太は身長さがあって、俺のが背が高い。
15センチは優位に離れている身長差にこいつは今何を考えているのか、けど口下手な俺はそれが聞けなかった。
***
あれから授業の半分は頭に入らず、技術の授業では怪我をしそうになって先生に怒られた。
壮太は壮太でマイペースに過ごしていて教室でうちわ代わりの下敷きを仰いで竜二と駄弁ったり好き放題で…。
やっぱり意識してるのは俺だけで、こんな自分みっともなくて水道の蛇口でぬるい水を顔にかけて流した。
週末が近づいてくるたびに心臓はドキドキして、筋トレにも身が入らず悶々とした感情が立ち込める。
俺は唐草壮太のことが好きなんだ。
自分がノーマルだとかなんだとか関係ない。
ただ唐草壮太という一人の人物に心をかき乱されて振り回されて、それでも悪くないと思ってしまうのは…
まぎれもない、『恋』なんだ…!
いつから好きだったのかとか、いつから惹かれていたのか、どうでもいい。
ただアイツという一人の人間に重力のように引き寄せられていつの間にか傍にいた。
自身の武骨な手を眺めて、ぎゅっと握りしめる力強い拳に自身の想いを寄せる。
「俺が女だったらもっと違ったのかな」
「こんなゴツイ女いねぇか…ははっ……」
認めざるを得ない感情を人は受容するとここまで寛容に考えてあれこれ考えてしまうのだなと思い、胸が少し軽くなった気がした。
今日は金曜日の朝。
ついに明日は壮太の家に泊まりに行く日だ。
俺は何を着て行こうか、何を持っていこうか、悩んで自身のタンスをあさり綺麗めの服を探す。
意外とくたびれた服しか出てこない俺のタンスに、まぁこんなもんかと無難な衣服を取り出しカバンに詰める。
今回の泊まり、当たり前なのかわからないけれど竜二は誘わないんだなぁと思い、少し緊張してくる。
明日はどんな事が待っているのだろうか?
なぁ、壮太、俺はお前に会うのが少し怖くなってきたよ。
お前は何を考えているのか、俺にはさっぱりわからないんだ。
あの日のキスの意味さえ…。
部屋には無機質な扇風機の音だけがして、時間が止まったように見えた。
これから先待っているのは長く感じる一泊二日の出来事。
すっかり冷えていた麦茶がぬるくなって、それを飲み干して俺は口元を乱暴に拭った。
おわり
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そろそろ、今度こそ進展させられるかな。てか進展してるの?って思うくらいスローで書いてる私がドキドキしてくる。
壮太サイドの話も書きたいけどここはあえて伏せておきましょうかねぇ。
次回、お泊まり会です!わーい!男子高校生のドキッ★二人っきりのお泊りだぁ~~~!!ドンドンパフパフ
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