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第3章 撮る側の顔じゃねぇな
編集室の静けさを、吸い殻が灰皿に落ちる小さな音だけが破っていた。
遮光カーテンで日光をすっかり閉め出した室内で、大型モニターの青白い光だけが暁斗の冷たい横顔をしつこいほど照らしている。
その目には、昨日撮影したばかりの無修正データが、何度も、何度も、特定の場面で繰り返されていた。
(……このテイクだ。ここから、視線のピントがズレている。いや、ズレているんじゃない。合わせられているんだ。俺に)
画面の中では、水野の奥を容赦なく攻めていたレオが、不意に、撮影の決まりすら忘れたような獣じみた目つきでカメラを――レンズの向こうにいる俺を――射抜く。
そのたび、暁斗の指先は「一時停止」のキーを叩き、そこから一分間も動けなくなる。
理想の作品を作る。
救済としての官能を切り取る。
そのもっともらしい理由の裏側で、暁斗は自分の中に芽生えた濁った飢えを自覚し始めていた。
(なぜ、俺はこの男の目から逃げられない。俺は監督で、あいつは被写体だ。支配しているのは俺の方のはずだ)
暁斗は荒くなった呼吸を落ち着かせるために、眼鏡を外してデスクに置いた。
視界がぼやける中、股間の奥からせり上がってくる落ち着かない熱。
それは、これまでの人生で「撮る側」でい続けてきた彼が、決して味わうはずのなかった種類のものだった。
(……くそ。仕事に集中しろ。この表情のカット割りを確認しなきゃならないんだ)
そう自分に言い聞かせながら、暁斗の手は無意識に、黒いワークパンツのフロントへと伸びていた。
衣服の上からでも分かる、熱を帯びた硬い質量。
暁斗は喉の奥を鳴らし、震える指先でベルトを緩めた。
布地をずらし、潤滑のオイルを指先に絡める。
モニターの中で、レオが水野の腰を強く掴み、野獣のような勢いで突き上げている。
その音、水野の絶叫、そしてレオの低い唸り声。
それらが編集室のスピーカーから、暁斗のナカへと直接流れ込んできた。
「あ……っ、ん……んん……っ」
暁斗は椅子に深くもたれかかり、自身の前を強く握りしめた。
同時に、もう片方の手を後ろへと這わせる。
衣服を完全に下ろし、オイルをたっぷりなじませた中指が、後ろの入り口をそっとなぞった。
冷たい刺激に、身体がびくりと跳ねる。
しかし、内側から突き上げてくる熱は、その冷たささえも快楽のきっかけに変えてしまう。
(俺は、クリエイターだ。……この画が、どれだけの破壊力を持っているか、自分の体を使って確かめているだけだ。……そうだ、これは、仕事だ……)
指を一本、慎重にナカへと沈める。
熱く、きつく、内側が入ってくるものを拒みながらも、吸い付くように絡みついてくる。
一本では足りず、二本目を強引に押し込む。
モニターの中のレオが腰を回すタイミングに合わせて、自分でもナカの壁を何度も探った。
「はあ……あ、っ! れ、お……っ、轟、レオ……っ!」
無意識のうちに、その名前を呼んでいた。
モニターの中で自分を射抜いているレオの目と、今まさに自分の指が抉っているナカの感覚が、頭の中で危ういカットとして結びつく。
後ろが熱くヒクつき、指を締め付ける。
そのたび、腰が勝手に小さく震えた。
暁斗の理性が、「撮る側」としての立場が、自分の指の動きとともに、少しずつ、しかし確実に削られていく。
その時だった。
『カチリ』
電子ロックが解除される、冷たい金属音。
暁斗の心臓が、喉元まで飛び出しそうなほど激しく跳ねた。
「……っ!?」
慌てて手を引き抜き、椅子から立ち上がろうとした。
だが、ナカを弄っていた指は粘つく液体で濡れ、下半身は完全に無防備な状態だ。
もつれた脚が、床に落ちた眼鏡を踏みそうになる。
暗い室内。
モニターの青白い光が、デスクに手をついて喘ぐ暁斗の姿を、容赦なく、はっきり照らしていた。
「……随分と熱心なチェック中だな、監督サマ。俺の顔を大画面に映しながら、自分でナカを弄って……どんな絵コンテを想像してたんだ?」
ドアの影から、レオがゆっくりと姿を現した。
その目は、獲物を完全に行き止まりへ追い詰めた獣の楽しげな光に満ちている。
「ち、違う……っ! これは、視聴者の視線の流れを……カットの切り替わりの、生理的な反応を確認していただけだ。お前は……なぜ、ここに」
暁斗は必死に声を低くし、冷静な顔を保とうとした。
だが、衣服の乱れ、濡れた指、そして何よりも、快楽に甘く崩れて潤んだ瞳が、その嘘をあっさり崩していた。
「生理的な反応、か。傑作だな。……今の顔、絶対にカットできねぇぞ」
レオが低く笑いながら、暁斗との距離を詰めてくる。
一歩、また一歩。
圧倒的な「雄」の重みが、暁斗の逃げ道を物理的に塞いでいく。
背中が冷たい壁にぶつかり、暁斗は身を縮めた。
そこで、レオの足が止まった。
「本気で嫌なら、今ここで言え。監督として『撮影中止』って命じろ。言えたら、俺は止まる」
「やめろ……。入る前に、声をかけなかったのは、マナー違反だ。お前のNGだ。離れろ、レオ……っ!」
「それは中止命令じゃねぇな」
レオの目が、低く熱を帯びる。
「お前、さっきから指二本突っ込んで、俺の目を見ながら腰振ってただろ? 認めてるじゃねぇか。お前が今まで、レンズ越しに『救いたい』なんてもっともらしく言いながら堕としてきた男共と……今、お前はそっくりそのまま同じ顔をしてるぜ」
レオが暁斗の両手首を掴み、力任せに頭上の壁へと押し付けた。
強い腕。
暁斗の細い手首が悲鳴を上げる。
「うるさい……! 離せ、っ! 俺は、監督で……お前を、支配する側の……っ!」
「支配? 笑わせるな。支配されてんのは、どっちだ」
レオのもう片方の手が、暁斗の腰を乱暴に引き寄せた。
そして、すでに自分で触れたオイルと熱で濡れていた入り口に向けて、太い指を三本、ためらわず一気に根元まで沈め込んだ。
「あ……っ! うあ、ぁぁ……っ!!」
「熱いな……。ナカが俺の指に絡みついて、壊れそうにヒクヒク波打ってるぜ。自分で弄ってた指じゃ、全然足りなかったんだろ。本当は俺の、これくらい太いのが欲しくてたまらなかったんだろ?」
レオの指が、ナカの壁を激しく掻き乱し、いちばん弱い場所を何度も叩く。
ぐちゅ、ぐちゅ、という卑猥な水音が、静かな編集室に響いた。
「やめ……ろ……っ! 俺は、そんな……っ! あ、あぁぁ! そこ、だめ……っ、熱い……っ!」
「ほら、編集室じゃ消せねぇ声が出てきたぜ。お前が現場で水野に『もっと啼け』って煽ってたのと同じ声だ。今、自分がどんなカットに収まってるか自覚させてやるよ」
暁斗は必死に首を横に振った。
監督としての美学が、プライドが、レオの荒々しい指の動きによって、ずるずる崩れていく。
怖い。
自分が自分ではなくなっていくのが、ひどく恐ろしい。
なのに、ナカの奥は、レオの指の衝撃を欲しがるように受け入れ、もっと深く、もっと強くめちゃくちゃにされることを、体が勝手に求めてしまっていた。
(俺は……支配する側のはずだ……。なのに、なぜこの男に触れられるだけで、こんなに頭が真っ白に……!)
「最後に聞くぞ、暁斗。……本気で嫌なら、俺の顔を見て『撮影中止』って言え。今なら、まだ止まる」
レオの声は低かった。
煽るようでいて、その目だけは暁斗の反応を逃さず見ている。
「……っ、言える、わけ……」
そこまでで、暁斗の声は喉の奥で途切れた。
「なら、お前の本音にピントを合わせるぜ」
レオはそう囁くと、いきなり指を引き抜いた。
代わりに、熱く、脈打つ重みを、濡れた入り口へ直接押し当てる。
暁斗の短い拒絶の声を置き去りにして、レオは一気に、その熱を根元まで押し込んだ。
「うあぁぁぁっ……! ふ、太い……っ! 抜け、レオ、っ……壊れる、あ、あぁ……っ!!」
「締まりのクオリティが半端じゃねぇ……。お前、今まで俺が抱いてきたどの男よりも、最高にエロいメス顔をしてるぜ」
レオは壁に暁斗を押し付けたまま、荒々しく腰を打ち付け始めた。
ひとつ動くたびに、暁斗の視界は火花が散るように白く弾ける。
暁斗の黒いワークシャツを捲り上げ、胸の突起を強い力で摘まみ上げ、捻り、吸い上げる。
「んあっ……! 胸、触る、な……っ! やめろ、れ、お……っ!」
「口では拒否しながら、ナカはおれの指を……いや、俺のモノをギュウギュウ締め付けて離さねぇじゃねぇか。本当はこれが欲しかったんだろ? カメラの後ろという安全な場所に隠れて、いつか俺に、こうやってめちゃくちゃにされる日を、毎日編集しながら待ってたんだろ!」
レオは不意に暁斗を床へと押し倒し、四つん這いの姿勢に固定した。
腰を無理やり高く引き上げられ、顔を床に押しつけられる。
屈辱的なバックの体位。
レオは少しも緩めず、暁斗の最奥へ向けてガン突きを再開した。
「どうだ……? お前がよく指示してた、一番深く入る体位だ。ほら、自分から腰を引いて、俺のを咥え込もうとしてるぜ。……最高に画になるメス堕ち顔だ、暁斗」
「うあぁぁっ! 深、すぎ……っ! 熱い、あ、あぁぁ! 壊される、壊され、る……っ!」
暁斗は涙で視界を滲ませながら、拒む言葉を絞り出したが、身体はすでにレオの手の中にあった。
レオの動きが激しさを増すごとに、自身の腰は意思に反して、より深く、より淫らに、レオの衝撃を欲しがるように波打つ。
そのどうしようもない事実を突きつけられた瞬間、暁斗の胸に、鋭い恐怖と、同時に耐え難いほどの愉悦が突き刺さった。
(俺は……今まで『救済』なんて美しい言葉で飾って、彼らを堕としていたんじゃない。……俺は、彼らの中に、こうして暴かれる自分自身の姿を、見ていたのか……?)
レオが後ろから暁斗の髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。
「目、逸らすなよ、暁斗。お前が今、俺のでどんなに無様な顔をしてるか……俺がしっかり見届けてやる。今までレンズ越しに、他人事として楽しんできた『本性』だぜ」
「ん、んん……っ! あ、あぁぁ……っ!!」
激しい動きの衝撃と、強引に奪われる唇の熱さの中で、暁斗の理性の壁が音を立てて完全に崩れた。
内側から湧き上がる、初めて味わう、弾けるような白い熱。
「……だめ、いく……っ! れ、お……っ、俺、いく、あ、あぁぁぁぁっ!!」
身体が激しく震え、奥がレオの存在を、壊れそうなほど強く締め付ける。
編集室の青白い光の中、暁斗の意識は、真っ白なノイズの中へと沈んでいった。
初めてのメスイキ。
プライドも、知性も、監督としての誇りも、すべてが快楽という名の波に押し流され、粉々に砕け散っていく。
レオも低く、野獣のような唸り声を上げ、暁斗の最奥に向けて、熱い精を大量に注ぎ込んだ。
「……出すぜ。お前のナカ、たっぷり白く塗り潰してやる……」
床の上で、激しい余韻に震える暁斗の耳元。
レオは荒い吐息を吹きかけながら、冷たく、しかしどこか満足げな声で囁いた。
「まだ本番の一テイク目だ。お前がこれまで安全な場所から逃げてきた分、たっぷりとお前の本性を引きずり出してやるよ」
暁斗は床に崩れ落ちたまま、涙を流して、ただ小さく震え続けていた。
レオが黙って暁斗の腰にタオルをかけ、乱れたシャツを直そうとする。
その手の熱ささえ、今の暁斗にはどこか遠かった。
(俺は……俺が撮ってきた男たちと、同じ……。レオに暴かれて、こんな、汚い声で……)
胸の奥に、引き返せない場所まで来てしまったという深い恐怖。
それと同時に、自分がずっとカメラの後ろに隠してきた「本性」を、ついに見つけられてしまったという、ひどく恐ろしい……そして、微かな「安堵」が、暁斗の心にじわじわ広がり始めていた。
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