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第3話
特別なことなんて何もしていない。
敵の将軍であるシダレの目を引くような振る舞いをした覚えも、気に入られようと媚を売った覚えも一度としてなかった。
ただ……まだ、ここでの捕虜生活が始まったばかりの頃。
「おい! 今日の昼食を作ったのは誰だ!?」
突然、捕虜の監視人が血相を変えて俺たちのテントにやってきた。
―――その日の味付けを担当したのは、俺だった。
何か恐ろしい粗相でもしてしまったのかと、生きた心地がしなかった。
俺は……兵士たちの愚痴を聞いただけだ。国が違うせいだろうが、この土地の特産だという野菜も料理も、どれも味のクセが強くて口に合わない、って話を。
『今度マズい食事を作ってみろ! 貴様らにもゴミを食わせてやる!!』
とくに食事ひとつで機嫌を損ない怒り狂う。そんな酷い兵士たちがいた。
俺はみんなの知恵を借りて、異国人である彼らの口に少しでも合うよう工夫をしただけで……。
そんな言い訳を必死に考えながら、俺は何名かの当番と共に兵士に連行された。
「―――貴様らか」
初めて対面したシダレ将軍は、周囲の空気を一瞬で凍りつかせるような圧倒的な威圧感を放っていた。すべての光を拒むような深く黒い瞳に睨まれ、俺たちは恐怖に身体と声を震わせながら、いくつかの質問に答えるのが精一杯だった。
そして――気づけば部屋に残されたのは、味付けの担当をした俺だけだった。
「正直、俺もここの料理にはうんざりしていたところだ。それを……まぁ、見事に調整してくれた」
「それは、こ、光栄です…」
「……ふん。まあ、見た目も悪くない。気に入った、お前を今夜の相手にしてやる」
――――は?
誰が、将軍の相手をする――だって……?
俺だって知っていた。ヒノワコクの占領下において、兵以上の階級に気に入られる価値を。それが将軍ともなれば……。
運良くシダレ将軍の目に留まり、一夜を共にした者たちは、きつい重労働から免除される。それどころか小綺麗な住まいが与えられて、のんびり暮らすことができると……噂に聞いていた。
だけど、そんなのは……。
「い、いや……ですっ!」
俺にとってそんなものは嬉しくも何ともない。
それより俺は男だ! いつか争いは終わるし、自由になる日が必ず来る。
そしたら、故郷の村に帰ってまた農夫に戻るんだ。将軍の相手に男も選ばれるなんて思ってもみなかったけれど、そんな恩寵なんていらない。
「……いや、か。ここで拒まれたのは初めてだったな」
ちっぽけな村人…それも捕虜から拒絶されるとは思っていなかったのだろう。
シダレは驚いたように眉を微かに動かしたが、すぐにフッと不敵な笑みを唇に浮かべた。
「悪くない。たまにはこういう趣向も楽しそうだ」
「な―――っ!?」
抵抗する俺の身体を容易く組み伏せると、男は軍服の懐から小さな硝子瓶を取り出した。
これは媚薬入りの潤滑油だと言う。
「痛めつける趣味はない。これでお前も、自分が男であることを忘れて愉しめるだろう?」
あの日、無理やり体を暴かれてから……三日に一度。
こうして呼ばれては抱かれるようになっていた。
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