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第4話
(きもち、わるい……っ)
今夜も寝台に押し倒され、乱暴に服を奪われた。
裸で―――四つん這いの体勢のまま、いつもの媚薬入りの潤滑油を身体に塗り込まれていく。
直に触れれば薬効が己の肌からも浸透してしまうのだろう。シダレの大きな両手には、黒い革手袋が嵌められたままだ。
皮膜を隔てた無機質な感触。ひんやりと冷たく、べっとりとした液体はまだ肌に馴染まない。けれど、
「ひっ、や……っ!」
「ここも、男にしてはよく育ったと思うだろ?」
「ちがうっ、俺は……っ!」
「まだ素直にならないのか」
とっくに、乳首で感じるようになっているだろ―――?
耳元で囁く低い声とは裏腹に、シダレの手は驚くほど熱い。
尻の穴を無慈悲に弄られながら、同時にツンと尖った乳首を愛撫される屈辱。そして、望まない快感が頭を支配していく感覚……。
「はぅっ、あっ……っ!」
「体勢を崩さなくなったな。えらいぞ」
「―――ッ」
―――愉しげに笑う満足げな声に、この男の頬を殴りつけたい衝動に駆られる。
解されなければ後で自分がつらい目に遭うと、身体はもう分かっている。
でも、嫌だっ、こんなのは……っ。
脳をマヒさせるように響く快楽も、ぜんぶ媚薬のせいだ。
「んっ、あっ…やだぁ、っ」
乳首だけではなく、下半身にも熱が集中しているのが分かる。
絶対に屈しない。男なのに、そんな触れることもない箇所で快感を得ているなど、何度抱かれても認めたくなかった。
(いやだっ、はやく…終わってっ)
シダレは自分に加虐趣味などないと言っていたが……いっそ暴力的な痛みが勝っていたほうが、心は救われたかもしれないとセージは思った。
「―――ひ゛っ!? 」
「ああ。ここだったか」
「やめっ! や゛、そこは……あ゛ぅっ!!」
がくんっと上半身がシーツの上に崩れ落ちる。その様子をシダレは「しっかりしろ」と嘲るように笑った。
セージが心の中で何を思い、この快楽から必死に思考を逸らそうとしている。
それは、このやせ細った村人でしかないセージを徹底的に弄び、心すら支配したいシダレにとって、面白くない抵抗の一つだった。
「もっと声を出して俺を求めろ」
「しっ、だれ…、さま」
”シダレ様”、と縋るようにその名を繰り返す。
そうだ。抵抗なんて、どうせ無意味だ。これ以上、黒革の手袋で弱点を蹂躙されるくらいなら……嫌なことは、一刻も早く終わらせたい。
シダレの執拗な愛撫が、俺の理性をごりごりと削り取り、身体を芯から溶かしていく。
身を捻って今すぐここから逃げ出したい。だけど、そんなことをしたって無意味だということも、俺の身体は嫌というほど知っていた。
「しっかり、奥まで受け入れろ」
「……ふ、う……っ」
俺はうなずくと必死に歯を食いしばり、ただ嵐が過ぎ去るのを待つように、じっと息を殺した。
(だれか、たすけて……)
何度、願っただろう。
シダレの熱い吐息が首筋に、鎖骨に触れ……身体の奥深くに刻まれていく。
――シダレ・ユウギリという存在の手で、俺の「日常」は音を立てて崩れ去っていった。
『食事にうんざりしていた』
――それは事実だったのだろう。
俺には、シダレ将軍が喜ぶ料理を提供する代わりに、他のあらゆる強制労働が免除されるという命令が下った。
『褒美は何がいい? お前も、この居館に住むことを許してやろうか』
そう言われたとき、俺は慌ててそれを断った。
心のどこかで、あの夜のことは一度きりの気まぐれな慰みだと思い込もうとしていたんだ。
彼らが自分たちの国に戻り、そして俺が元の生活に戻れたときに……男の俺が将軍に身体を開いて、その存在に囲われていたなんて―――いったい村人たちにどう思われるか。
それなのにだ。俺のささやかな抵抗など無視するように、少しずつ呼ばれる回数が増えていき……気づけば、今の三日に一度という頻度に落ち着いてしまっていた。
「セージ、お前は本当に強情でかわいいな。それに有能だ」
「っ、」
身を清め終わっていても、朝まで解放されることはない。
事後の静寂の中、シダレは満足げに俺の白い肩を指先でなぞった。
―――有能?
貴方も、有能だから……将軍として、命令して、ニィル村を焼いたのか?
俺は抱かれるたびに、村を焼いたあの炎を思い出す。
嫌悪と、逆らえない無力感。生き延びるための屈辱が、俺の心をじわじわと削っていった。
「お前は何も望まないな。……いっそ、絹と宝石をつけて壁に飾ってやろうか」
「っ、!?」
その陶酔を孕んだ言葉に、俺の肩が小さく震える。
それが、愛着の表現なのだろうが……。
「悪くはないと思うぞ? これでも所有物は大事にする性格だ。部屋の奥に仕舞ってやろう」
壁に飾られる肖像画のように、意志も命も剥奪され、ただ愛でられるだけの存在に…。
そんな考えただけで恐ろしい台詞を、この男はよくも平然と言えたものだ。
「っ、嫌です、やめてください……」
そんな弱々しい拒絶さえ、シダレは楽しんでいるように見えた。
俺の身体を引き寄せ、少し伸びたその髪に深く口付けを落とす。
「決定権はお前にはない」
愉悦を含む冷たい声。
窓から差し込む月光が……この血も涙も感じられない、美しき征服者を白く照らしている。
冷徹な将軍が最愛の所有物を慈しむその光景は、客観的に見ればさぞかし残酷で、絵になるのだろう。
(……狂っているのは、俺じゃない。この男の方だ)
俺は、まだ諦めるつもりはなかった。
いつか必ず村に帰るのだと、そう信じていたから……。
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