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第7話
その翌日。セージは見張りの立つ仮住まいのテントで、形ばかりの荷物の整理をしていた。
こんな惨めな気持ちになるときだけ、父と母がもうこの世にいないことを幸運だと思ってしまう。もし健在だったら、焼け落ちた家と、敵国の将軍に抱かれ囲われる息子の姿……そして、脱走という無謀な賭けに出るこの背中を、どんな顔で見ただろうか。
(大丈夫だ。きっと……うまくいく)
俺が進んで、何度も水場へ水を汲みに通っていたのは、なにもあの男への反骨精神だけが理由じゃない。
睡眠薬の原材料になる水草を兵の目を盗んで少しずつ摘んで、薬を作っていたからだ。
これは、もしシダレの機嫌を損ねて殺されそうになったとき、護身用に使うつもりだった。
(やっと一人分ってなったところだったけど……)
水のように透明な液体……だが、これが結構強力なんだ。薄い布に薬を垂らして相手の鼻を塞いで嗅がすだけでいい。
今は捕虜たちが労働へと一斉に駆り出され、兵士たちの見張りが最も手薄な時間だ。
――機会は、ここしかない。
「おい。いつまで時間をかけている!」
「……あっ、すみません。昨日、あの方にに使われた媚薬が、っ、まだ抜けていなくて……身体が、うまく動かないんです……」
「はっ!?」
苛立った見張りの兵がテントに入ってくるなり、セージは床にへたりこみ訴えた。
身体が熱くて、火照る。
―――これを、自分じゃ……どうにもできない。
「たすけて、くれませんか……?」
(とんだ、変態だな……)
潤んだ瞳で上目遣いに見つめれば、男の目の色が変わったのが分かった。
とんだ生き恥だ。あの男に仕込まれた視線や、熱を孕んだ身体の使い方は……こんなにも屈辱的で、望まない形で役に立った。
「冗談じゃない! キサマに手を出せば俺が処罰されて…、っ」
「大丈夫ですよ、ちゃんと黙ってますから……。それより、俺はモノのように扱われたいんです…っ。ずっと、我慢してて……」
男の体をツタのように這い上がり、にんまり猫のように微笑む。
貪欲に甘えて、快楽へ誘う。
『……シダレ大将は、こうやって人を弄ぶのが好きなんだ』
―――俺が我慢できなくなって、他の男を誘ってみだらな行為に耽るのを。
そして、他の男とした感想を俺に語らせるのが。
「ま、まさかっ!」
「ええ、疑ってもらっても結構です。でも男は妊娠しませんからね……そういう性癖に目覚めたのかもしれません」
はは……。 嘘でも、シダレを馬鹿にできる状況に笑ってしまいそうだった。
それに俺だって自分の命がかかっているせいか、言われたことも体験したことのない内容がペラペラと自然に口から出てくる。
「お願いですっ、ください……」
「……チッ。大将のお手つきが、そんな顔で俺を誘うなよ」
下卑た笑みを浮かべた兵が、そそのかされるように覆い被さり、顔を近づけてきた――その一瞬。
セージは強力な睡眠薬を染み込ませた隠し布で、男の鼻と口を迷いなく覆った。
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