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第2話

梅雨入り前のからりと晴れた日曜日の朝、京一郎の住むワンルームにはコーヒーの香りが漂っていた。 「はい、京一郎」 「……ありがとう」 京一郎は湯気のたつコーヒーの入ったマグカップを受け取ると、一口すすった。 モネの淹れるコーヒーは美味い。猫のくせに生意気だ、と京一郎はコーヒーを飲むたびに、複雑な気持ちになる。 「なんでそんな変な顔してるの?  コーヒーまずかった?」 モネは京一郎と色違いのピンクのマグカップを口に運ぶ。 自分の淹れたコーヒーを一口飲むと、満足げに頷く。 京一郎はマグカップをテーブルに置くと、テーブルを挟んで正面に座るモネに向き合った。 「コーヒーは美味いよ。  むしろそこが問題だ。  お前は猫なんだろ?なんで美味いコーヒーを淹れれるんだ」 「京一郎はまじめだなぁ。  美味いならそれでいいじゃないか」 まずかったら恩返しにならないだろ?とモネはコーヒーをすする。 モネを拾ってきた日からなんのかんのと居座られ、奇妙な同居生活が続いていた。 「なぁ、なんでそのマグカップを使うんだよ。  もっと他にもあるだろ」 京一郎が渋い顔でモネの持つピンクのマグカップを見る。 持ち手のところがハートのモチーフになっているかわいらしいデザインだ。 「かわいいじゃん。  京一郎とおそろいだし」 モネはマグカップを顔の前に掲げ、しげしげと眺めながら言った。 むっつりとだまりこむ京一郎に、 「使われたくないなら、使うなって言えばいいじゃん」 モネは呆れたように言った。 「べつに……そういうわけじゃ……」 「まだ未練あるんだ?」 「……ないよ」 ずばり聞かれ、京一郎はぼそりと答えた。 「京一郎は嘘が下手だなぁ」 あきれたようなモネの声に、ますます眉間のしわを深くした。 「まあ、8年も付き合ってたなら、そう簡単に切り替えられないか」 「なんでそんなこと知ってるんだよ?!」 モネは京一郎の険のある目と声をどこ吹く風で受け流し、 「猫だから」 と答えた。 「説明になってない!」 声を荒げる京一郎に、モネは肩をすくめた。そのしぐさが妙に様になっていることが、京一郎をさらに苛立たせた。 「ねぇ、なんで別れたの?浮気された?」 「どうせ知ってるんだろ?  なんでも知ってる猫様は!」 モネの遠慮もデリカシーもない発言に、精一杯の皮肉で返す。 モネはおしゃれなインテリア雑誌の登場人物であるかのような雰囲気で、マグカップをかたむけた。 「知ってるよ。  元カノを親友に取られて、その上二人の結婚式で友人スピーチまで引き受けたこと」 痛みを感じたように苦し気に顔を歪める京一郎に、モネは大きくため息をついた。 「なんで?人間ってバカなの?」 「仕方ないだろ……。なりゆきだよ」 「いや、どんななりゆきがあるとそうなるの?」 ぷいとそっぽをむく京一郎に、モネは呆れたように再び、 「バカなの?いや、バカだね」 言った。 「バカバカ言い過ぎだよ!  人の気も知らないで!」 京一郎は瞳を潤ませ、唇をかみしめた。 モネはそんな京一郎をじっと見ていたが、仕方ないなぁというようにごろりと京一郎の膝の上に頭を乗せ、寝そべった。 京一郎は困惑の表情で、膝の上のモネを見下ろした。 「撫でていいよ」 モネは京一郎を澄んだ瞳で見上げて言った。 「待って。全然わかんない。どういうこと?」 京一郎は目の前の現実から目を背けるように、目を閉じて額に手を当てた。頭痛がしてきそうだった。 「癒されるでしょ?」 当然というように言い切られ、撫でるまで動く気配のない自称猫に、京一郎は大きなため息をついた。

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