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第39話※
「……んんっ……」
雅の唇が首筋に滑る。
唇は、無防備な俺のうなじをくすぐる。
「っ……」
ぞくり、と背中が震えた。
もう発情期は終わっているはずなのに。
たまらなく雅がほしい。
「ふ、あぁ……」
ぴちゃぴちゃと音を立て、雅は執拗にうなじを舐める。
思わず声が漏れる。
俺はシーツを握りしめる。
「み、雅ぃ……っ」
彼は俺に覆いかぶさって、キスを落としていく。
首筋、耳、鎖骨……。
「んっ……ふぅ……」
全身余すところなく、雅の唇が降ってくる。
俺は身をよじる。
くすぐったくて、気持ちよくて、幸せで。
「んっ!」
チリ、と痛みが走る。
見ると、雅が俺の鎖骨のあたりに小さなキスマークをつけていた。
「泰斗さん……」
雅が、その小さな赤に舌を這わす。
「もっとつけたいです。いいですか」
「うん」
俺の返事と同時に、また痛みと赤が生まれる。
雅はそれを何度も繰り返す。
次第に、痛みは快楽に変わる。
もう何個目か分からないその赤が俺の肌に生まれたとき、俺は胎の奥がずんと濡れだしたのを感じた。
「み、雅……」
俺の胸は雅がつけた赤でいっぱいだ。
花びらのように散ったそれを、雅はひとつひとつ愛おしげについばんでいく。
「んっ……」
「泰斗さん……泰斗さん」
雅は俺の足に手を這わす。
俺は大きく股を広げる。
雅の手が、何度か焦らすように行き来したあと、ゆっくりと、中心に触れる。
「んんっ……」
「泰斗さん。すごい、もうとろとろだ……」
「はぁっ、ああっ」
指が入ってくる。
背中を甘いものが駆け上がる。
じんじんとそこが脈打ち、次の刺激を待つ。
「泰斗さんも、期待していてくれたんですね」
「……3日間、長かった、ぞ……」
「僕も、僕も、もう……我慢できません」
雅の目が、俺を捕える。
ぎらぎらとした、あの目。
俺はくすりと笑う。
「雅」
俺は雅の頬を撫でた。
かわいいやつめ。
「入れてくれ」
「――っ!」
尻に熱いものが宛てられる。
ああ、そう。これだ。
こいつの、この狂暴なもので突かれたいんだ。
3日間、ずっとこれを待っていた。
「あぁ……つ、ぅ……」
「泰斗さんの中、熱くて……」
雅のそれが、俺の奥まで届く。
「泰斗さん、わかりますか? 僕たち、ひとつになっています。ああ、中がびくびくしてる……」
「あぁ……っ……」
少し雅が身動きしただけで、目の前に星が散る。
「……もしかして、イッちゃいましたか? 入れただけなのに」
俺の股間のそれは痛いくらいに立ち上がり、だらだらと白いものを吐き出していた。
俺は頬をかっと赤くした。
「し、しかた、ないだろ……!」
「気持ちいいですか?」
雅が腰をぐりぐりと押し付けて来る。
「ひぁっ……! ま、まだ、動くなって……」
「無理です」
雅は容赦なく腰を動かす。
「ああ、んっ……!」
思わずあられもない声が口からこぼれた。
しかし、それを恥じ入る余裕もない。
雅はぎらぎらとした目でこちらを見下ろしている。
いや、きっと、俺も負けないくらい、ぎらついた目をしているはずだ。
俺は、おあずけをくらった犬みたいだ。
恥じらいも、我慢も、いまはいらない。
雅も、頬は赤く火照り、前髪は汗ではりついている。
彼も、余裕がないのだ。
あんなに堅物な雅が。
余裕を失うくらいに、俺を求めている。
それくらい、彼は俺のことを――。
そう思った瞬間、また胎の奥がずんと熱くなる。
雅は腰を振る。
「ああ……あ、ひぁ、ああっ!」
俺の口からこぼれる嬌声は、どんどん大きくなる。
それにつられるように、雅の腰の動きも速くなっていく。
「ああっ! ひやぁっ……! あっ……」
「……泰斗さん!」
「あああんっ」
胸を吸われると、俺の声はいっそう高くなる。
熱い。溶ける。しびれる。どうにかなってしまう。
顎が上がり、背中が反る。
何度も何度も俺の奥は痙攣して、雅を悦ばせる。
彼は泰斗の足を抱えなおすと、いっそう激しく奥を突いた。
「ああっ……ひ、あ……ん!」
「泰斗さん、泰斗さん!」
そのとき。
ずん、と雅のそれが、俺の奥の奥にまで入ったのがわかった。
「かっ、はっ……!」
俺は目を見開き、浅い呼吸を繰り返す。
「ああ、すごい……!」
ひと突きされるたびに腰から下の力が抜けていく。
奥の奥まで彼に差し出す。
「だ、め……もっ……あっああっ! おかしくなる!」
俺は首を振る。
雅はあやすようにキスをする。
「おかしくなってもいいですよ」
「みやびっ……!」
もう抑えられない。
彼が好きだ。
「あ、あ……みやびぃ……」
でも、こいつにやられっぱなしも、なんか癪だ。
俺は雅の耳元でささやく。
「もっと、激しく、しても、いいぞ」
「……!」
雅はそのまま真上から腰を打ち付ける。
「あ、あっ……あ……ぁあっ」
「煽ったのは! あなたですからね!」
容赦のない挿出がはじまる。
肌と肌がぶつかり合う音と、水音が重なり合う。
「ああ、あっ、んん……ん……!」
「泰斗さんっ、泰斗さん!」
「ああっ……あああ! あ……! んぅ…!」
「くっ……」
「ああ、ぁ、ああっ!」
「泰斗さん、出しても、中に、いいですか? いいですよね?」
目が合う。
俺は彼にしがみつく。
「出せっ、奥にいちばん、奥に……っ!」
「泰斗さんっ!」
「ああああああっ!」
――俺たちは同時に絶頂を迎えた。
それから、雅は俺の隣に倒れ込むと、ずっと俺の頭を撫でていた。
そして荒い呼吸が整ったころ、俺の名前を呼んだ。
「泰斗さん」
俺は横目で雅を見る。
彼は俺をまっすぐに見つめていた。
「僕は……あなたを探して、ほんとうにあちこちに行きました」
「うん」
「最初は、あなたの職場へ行って……それから新宿の、あなたが住んでいた家に行って……」
「……うん」
「家の前にパン屋さんがあったんですね」
「……ああ」
新宿でひとり暮らししていた家。
俺が長く住んだ場所に雅が行ったと思うと、不思議な気持ちだ。
雅は続ける。
「いつだったか、あなたが言っていたじゃないですか。おいしいパン屋さんがある、と」
「……そんなこと、言ったか、俺……」
「言ってましたよ。新幹線のホームでした。僕はちゃんと覚えてます」
胸が熱いものがこみ上げる。
そうか。
嘘だらけの関係だったけど、そこには確かにほんとうのこともあって。
雅は、それをちゃんと覚えていてくれたのだ。
「それで、そこのパン屋さんにあなたのことを訊いてみて、そしたら、そこのご主人が泰斗さんは八王子に住んでいたと聞いたことがあると言っていたんです。……八王子といえば、僕が18歳のときに入院していた病院があります。初対面のとき、泰斗さんに言い当てられました」
「……ああ」
「それで、今度はその病院に行ってみて……」
雅の言葉が途切れる。
「思い出したんです」
「なにを?」
「……入院していたときのことです」
俺は息を飲む。
それは、ずっと知りたかった、俺と雅の最初の話。
雅の声は少し震えていた。
「あの日、僕は高熱で意識が朦朧としていたんです。でも、夜になると匂いがして」
「匂い……」
「僕はそのとき、まだ自分がアルファだとも知りませんでした。でも、その匂いにつられて廊下に出て……」
雅が、俺のうなじをゆっくりと撫でる。
「僕が噛みました」
「……そっか」
そのときの情景を思い浮かべる。
俺も、そのときはまだ自分がオメガだと知らなかった。
知ったのは、退院したあと、バース検査を受けてからだった。
「あのときは、俺も熱でうなされててさ。でも、発情期って感じじゃあなかったんだけどなぁ」
ひとりごちる。
しかし、雅は発情期以外でも俺の匂いを嗅ぎ分けているし、事実として番は成立し、いまに至っている。
「なんでなんだろうな」
「すみませんでした」
雅は目を伏せる。
俺はそんな彼の頬を撫でて、笑う。
「なにをそんなに神妙になってるんだよ」
「……僕が本能に流されたせいで……」
俺は噴き出した。
なにをいまさら。
「10年前は、本能で俺に寄って来たけど、いまは、違うんだろ?」
雅はまた俺を見る。
泣きそうな目をしている。
「泰斗さん」
「それを、3日かけて証明したんじゃないのか?」
「……はいっ……はい!」
雅が俺を抱きしめる。
俺は雅の背中をぽんぽんと叩く。
そう。
俺たちの最初は、きっと本能だった。
でも、いまは、俺たちはもっとちゃんと深いところでつながっている。
「出会いなんて、どうでもいいさ」
俺がそう言うと、雅は何度も頷いた。
俺はうなじに残る歯型をゆっくりと撫でる。
もう決心はついている。
「噛むか?」
尋ねると、雅は息を飲んだ。
「――いいんですか」
「当然だろ。いま発情期終わってるから、番にはなれないだろうけど。ああ、違う。俺たちはもう番なのか」
照れたように笑うと、雅は俺の上に覆いかぶさった。
「泰斗さん!」
「雅……?」
彼の股間は、もう硬く屹立している。
「もう1回、もう1回だけいいですか……!」
「理性はどこにいったんだよ!」
「泰斗さんのせいですよ……!」
それから。
俺は朝まで雅に抱かれた。
そして朝が来る頃、雅は俺の首筋に、歯型を残した。
それは、10年前のものと、ぴったりと重なり、それでも、もとのそれとは大きく違う意味を持った。
「泰斗さん」
「雅」
「――愛してます」
「愛してるよ」
やさしい朝の光のなか、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
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