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第5話

 一度で終わるはずもなく、屋敷へ到着するまで三十分もの間、車体を揺らしてしまうのも構わず貪るように求めあった。  馬車が減速し始めた頃になると服は乱れに乱れ、車内は淫靡な匂いが立ち込めていた。   「ルイ殿下、ケイシー様、ご到着いたしました」    到着したところは、エインズワース家の所持している郊外の屋敷だ。ケイシーが成人した際に贈られたものだそうで、やや年季は入っているがどっしりとした頑丈な造りをしている。今や俺の避難所として使わせてもらっているところでもあり、ここへ来ると自室よりもよほどに安心できる。   「三日後にまた来てくれ」 「承知いたしました」    ケイシーは屋敷の前でジョンを帰らせると、いきなり俺を抱き上げて屋敷のほうへと向かい出した。   「なっ……んんっ」    なにごとかと思いきや、ドアを閉めるがいなや抱きかかえた状態のまま俺を扉に押し付けてきた。   「申し訳ございません」    切なげな声で言ったケイシーは、いまだ収まらずにいた肉棒を再び沈めてきた。   「っ、こんなところで……」    何度しても足りないというように揺さぶられ、ドアが音を立て始めた。人気のない邸内は物音ひとつでも響くというのに、擦れる性器の音までもが反響してどうしようにも興奮が高ぶってくる。   「……あなた様がわたしを迎え入れてくださるのは、今だけのことでありますから」    発情したオメガの前ではアルファのほうも衝動を抑えられない。だからケイシーは、俺がヒートの間はそばから離れず、慰めてくれながらも自身の欲も吐き出しているのだ。   「っ、……俺じゃなくても同じように感じるはずだ」    ただし、俺との行為はどれほど繰り返してもケイシーにとってなんの意味もなさないことだった。俺に精液を注いでも、番にならなければ孕むことができないからだ。  アルファとオメガの性行為は、本来うなじを噛むことから始まる。噛み傷は上書きが可能であるために何人もと番うことは可能だが、跡は刻印のように残ってしまう。   「わたしはあなた様のためだけのアルファとしてあればいいのです。あなた様をお守りするとの目的以外に、他の誰かに触れるようなことは決してありません」    ケイシーは俺を抱き上げたまま動きを止めて、耳の後ろに鼻を押し付けてきた。  初めて抱いてくれたときから、ケイシーは幾度となくこういった言葉を俺に向けてくるようになった。まるで番う相手に向ける永遠の誓いのように聞こえて、俺は耳にするたび堪らない気持ちになる。  彼を早く解放してやらねばと、快楽や喜びの感情以上に、罪悪感を刺激されてしまうのだ。   「いい加減に、オメガを見つけたらどうだ? おまえなら公爵令嬢でも喜んで応えるだろう?」 「……なぜいまそのようなことを……わたしには必要ありません」 「しかし、おまえは二十二だろう?」    貴族令息の婚期は三十前後と言われている。しかし、アルファとオメガはその限りではない。オメガのヒートは十五歳前後に発症するため、なるべく早くの婚姻を望まれているからだ。   「お気遣いいただきありがたく存じます。ですが、わたしには優秀な弟が二人おります。なにもわたしが爵位を継ぐ必要はないのです」    ケイシーは年齢的に結婚していてもおかしくない年頃である。それなのに、婚約者のひとりも見繕わないばかりか、令嬢に意味深い視線を送られてもてんで相手にしようとしない。俺のそばから離れず、俺を第一として、まるで俺のことしか目に入っていないかのように守ってくれているのだ。  彼にとっての俺は人生を豊かにする相手であるどころか、ただの足枷でしかないというのに。   「……おまえの忠義には感謝している……しかし……だからこそおまえを解放してやりたいんだ」    なるべく平静に聞こえるよう言ったものの、ケイシーは小さくうめき声をあげて肩に顔を押し付けてきた。   「ですから、なぜいま……おっしゃるのですか」    思った以上の苦しげな反応に胸がずきりと痛む。この状態で止められては、いくら従順な男とはいえ不服に感じるのは無理もない。   「三日しかないんだ。……ヒートに流されている場合じゃない」    俺のほうとて本音ではやめたくない。ケイシーのものしか知らない中は、彼のために濡れて、彼の放つ種をさらにと求めて収縮を繰り返している。しかし、刻々とケイシーの時間を無駄にしていることが後ろ暗くてたまらず、彼のためにと無理やり自分を抑え込んだ。   「……申し訳ございません。お飲み物と……試作をご一緒にお持ちします」    ケイシーは物言いだげにしながらも俺の中から出ていくと、すぐ近くの応接室へと連れて行ってくれた。  俺たちの行為はいわば快楽のためだけのものである。ヒートを鎮めるためのものであり、たかがそんなものでしかないのに彼を縛り付ける主因となっている。  もし俺が転生者でなければ、ケイシーは攻略対象者として恋愛するなりして、主人公とでなくとも貴族令息としての幸福を享受していたはずだ。  俺以外のオメガと番うなど考えるだけで苦しくて堪らないが、一刻でも早く解放してやらねばならない。  それが俺のケイシーに対してできる、唯一の愛情表現であるのだから。

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