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第33話

 ダーダリオンと再会を約束したあと、俺たちは獣人の村を出た。  カリマの背に父と俺とファが乗り込んでいる。ボリスは俺の首飾りの中だ。  カリマはその翼にありったけの力を込めて、一直線に谷を目指した。  俺たちは振り落とされないように必死にしがみついていた。  谷に着いたのは夕暮れ時だった。  カリマの背中から降りて、第二の故郷の土地を踏む。久しぶりだ。これほど長くこの土地を離れていたのは初めてだった。  俺は自分の長い旅路を想った。 「楽しかったな……」  ヴァンパイアの里、ワイバーンの島、獣人の村、そして人間の町。  この世界を見て、触れて、会った。旅は俺にこの世界を理解させて、そして――俺に居場所を与えた。  太陽が沈んでいく。谷の底ではそれより一足さきに夜が来る。夜は俺にとって特別な時間になる。 「夜……」  俺がつぶやくと、父がうなずいた。 「やっとボリスに会えるね」 「そ、それは……」 「はあ、新婚だね~。会えるのを今か今かと……私たちにもそんな時期があったよね?」  父がカリマを見上げる。カリマは首をもたげて父の頬に寄せた。 「いまも私はそうだ」 「そうだね」  カリマの言葉に父はよろこぶと、そのままカリマの首に抱き着いて言う。 「さて、私たちは散歩に行こうか」  カリマは羽をぐっと伸ばす。俺は驚く。 「え? 散歩? いまから?」 「うん。――配慮できる父だから」 「え?」  意味が分からなくて困惑する俺を置いて、ワイバーンは飛翔する。  俺は夕暮れの薄霞の奥に消えていく影をぽかんと見送った。  谷は静まり返っている。いまこの谷には誰もいない。  いや――。 「ボリス」  呼びかけると、首飾りがきらりと光り、その中から夜の貴公子が姿を現す。  彼はゆっくりとあたりを見回した。 「……この谷に来たのは、お見合いのためにあなたを迎えに来たとき以来ですね」 「そうだね」 「あなたはお見合いを嫌がっていらっしゃいました」 「……そうだね」  俺は少し照れ臭くなった。  嫌だ嫌だと言いながら、結局彼と結ばれて帰ってきたことが、自分でも信じられないくらいだ。  俺はぽつりと言った。 「連れ出してくれて、よかったよ」  俺がそういうと、ボリスは俺を抱きしめた。  ボリスの金色の髪が俺の顔に落ちる。俺はその髪をほんとうに美しいと思った。 「ハル様……」  吐息とともに低く名を呼ばれ、腰が熱くなる。彼はゆっくりと俺の首筋に唇を寄せる。 「ま、待って……」  さすがに、俺は制止の声をあげる。しかし、ボリスは構わずシャツのボタンに手をかけた。 「かなり待ちました」  彼は言う。その目は熱を持ち、肌は燃えるように熱い。 「もう待てません」     *  俺たちは転がるように谷の奥にある家に入った。そして勢いよく風呂に入って旅の汚れを落とした。  俺が体を洗い終わった瞬間、浴室にボリスが乱入してきて俺はそのまま寝室に攫われた。  俺は緊張していた。これほどどうしたらいいかわからないことはない。 「……っ」  小刻みに震える喉に気が付いて、ボリスが手を止めた。 「ハル様?」 「……俺、その……」  勇気を出して、俺は言った。 「できるかな……」  ボリスは俺の頭を撫で、あやすように言う。 「大丈夫です……。私に任せて……」 「ボリス、あの、俺、俺はね……」  唇はボリスのそれでふさがれてしまった。 「何も心配いりません。いま私はあなたとつながりたいのです。あなたもそう思ってくださいませんか?」  俺は息を吐いた。そしてボリスに身を任せた。それが俺の答えである。  ボリスは俺の眦に唇を落とす。そして次は鼻先、頬、首筋、鎖骨……。彼は俺の全身にくまなく唇を寄せた。  彼は俺の胸に舌を這わせ、へそをなぞる。手は俺の尾骶骨を押す。その手が、舌が触れた場所が熱を孕む。俺は胎の奥からこみあげるものを感じた。  こんなの、予想外だ。  ボリスと俺の寝室にいっしょにいることも、ボリスに体を許していることも。  ボリスの唇が内腿に触れたとき、俺はついに我慢できなくなって「ぁっ……」と声を漏らした。  艶のある声だった。それが自分の口から出たことに俺自身が戸惑う。  しかし、その戸惑いはあっという間に溶けていく。  ボリスが俺の内腿に舌を這わせ、敏感なそこに息を吹きかけた。  俺はのけぞった。  いままで感じたことのない快感だった。体は貪欲にそれを拾ってぐずぐずととけていく。  俺はボリスにぎゅっとしがみつく。ボリスはまだガウンを着たままだった。 「ぼ、ボリスも脱いで……俺だけ、恥ずかしい」  ボリスはその言葉を聞いて、勢いよくガウンを脱ぎ捨てた。 「あ……」  窓から月光が差し込んでいる。彼の鍛え抜かれた体が闇に浮かんで、俺は息をのむ。  男の体を見て、欲情する日がくるとは、俺は思いもよらなかった。  しかし、俺は確かに欲した。  ボリスのきれいな体を見て、俺の胎はずん、と熱くなる。 「すごいですね……とろとろです」  ボリスが俺のそこに触れる。いつもなら窄まっているはずのそこであるが、いまは抵抗なく彼の指を呑み込んでいく。 「ん……くぅっ……」  俺は浅く呼吸を繰り返しながら、ボリスが与える刺激に酔った。胎の奥が溶けていくような、そんな感覚があった。 「体、変……」  知らない。こんな感覚は知らない。  俺が首をいやいやと振ると、ボリスはまた俺の頭を撫でた。 「精霊の体は敏感なんですね……」 「せ、精霊の、体……これが……?」 「ええ。私を受け入れる準備ができています……」  彼が指を抜き差しすると、くちゅりと淫靡な音が耳朶を弾いた。俺はかっと赤く頬を染め、ボリスは股間のそれを屹立させた。  ボリスは辛抱できない、といった様子で言った。 「いれたいです……いいですか?」  切羽詰まった声音だった。それを聞いて、俺は安心した。気持ちよくて、ぐずぐずに溶けて、それでいて切羽詰まっていて、わけがわからなくて心臓が破裂しそうなほど脈打ってどうにもならないのは自分だけではないのだ。  俺はくすりと笑ったあと、ボリスの首にしがみついた。  そして言う。 「うん。俺もボリスとひとつになりたい」  宛がわれたそれは熱く、硬く、大きかった。  俺は喉を鳴らした。恐怖よりも、これでこの溶け切った腰を突かれたいという欲求が勝った。  俺は腰をくねらせ、尻の穴をうねらせる。貪欲に奥へ奥へとそれを誘う。  ボリスのそれが、胎を押し広げていく。 「ああぁ……んんぅ、ふっ……ああ……」  しびれるような感覚に、俺はのけぞる。足先にまで力がはいり、ぴんと伸びる。 「入った…………」 「……っぁ、ぜ、ぜんぶ? ぜんぶ……?」 「ほら……」  ボリスは俺の手を取って、そこに触れさせる。 「あ……」  俺の尻穴は、皺がいっぱいいっぱいまで広がっていた。そしてその中心に、熱いそれが突き立てられている。  思わず、ぎゅうぎゅうとそれを締め付ける。胎の奥に昂るボリスのそれを感じた。  いる。  俺の中に、ボリスがいる。  それは不思議な感覚だった。人生において、こんなことが自分に起きるとは思わなかった。しかし、嫌ではなかった。  むしろ、この状況が幸せだった。  ボリスにも、同じ幸せを感じてほしいと思った。  俺はボリスに尋ねた。 「き、気持ちいい?」 「……ええ。もちろん……。でも、それよりもずっと、幸せです」  ボリスが尾骶骨の上に指を這わせる。 「ああっ」  思わずあられもない声をあげ、恥ずかしさがこみ上げる。両腕を顔の前で組み、顔を隠す。 「顔を見せてください」 「う……」  俺は薄目をあけてボリスを見あげる。  彼の金色の髪は美しく輝いている。そして口の端に覗く白い牙。俺は唾を飲み込んだ。  ――ヴァンパイア……。  夜の貴公子が、俺の中にいる。彼は俺に欲情し、勃起させている。  彼の瞳は欲望に濡れ、俺を捕えて離さない。 「……愛してる」  俺は思わず愛の告白をした。するりと、自然に。あふれた気持ちが勝手に言葉になって飛び出してきたのだ。  俺は叫び出しそうになる。熱い。溶ける。好きだ。  ボリスがゆっくりと腰を押し込む。  俺の顎が上がり、背中が反る。  初めてだというのに、俺の穴は貪欲に快楽を拾った。そこは濡れそぼり、ボリスが動くのにあわせてぐちゅぐちゅといやらしい音を立てる。  ボリスが激しく腰を振りはじめる。いやらしい水音に、ぱんぱんという肌と肌がぶつかる音が重なる。 「ああっ……ひ、あ……!」  声を抑えたいと思っても、あられもない声が自分の意思とは関係なく零れ落ちる。それを聞いて、ボリスはますます激しく腰を打ちつける。  ひと突きされるたびに俺の腰から下の力が抜けていく。だらしなく両足を大開にして、彼を奥まで迎えいれる。  激しい抽挿に合わせて腹の上で揺れ動いていた俺のそれから白い液をとろとろと吐き出される。それはぴくぴくと小刻みに震えている。  ボリスは俺にのしかかり、腹と腹でそれを押しつぶす。俺は激しく首を振った。 「だ、め……もっ……あっああっ、ァ、……!」  ――おかしくなる。  抱きしめられ、腹の上でそれを押しつぶされ、胎の奥まで蹂躙されて。 「きもちっ……いい……!」  ゆさゆさと体ごと揺すられ、尻の穴で彼のそれをしごく。腰全体が震え彼を悦ばせる。  ベッドの軋む音と二人の吐息、卑猥な水音。  頭がくらくらした。  俺はわけがわからなくなって、ただもう喘ぐことしかできない。  ボリスの動きはやがてぎりぎりまで引き抜いて最奥まで押し込まれるようなものに変わる。俺はもう指一本動かせない。ただ彼に揺さぶられ、奥の奥まで味わわれる。 「ああ、あっんん……ん……!」  口をだらしなく開け、そこから嬌声を漏らす。俺は何度か口を閉じようと試みたが、それは叶わなかった。  ボリスのそれが胎の奥を突くたびに、俺の声は大きくなった。 「ああっ……あああ! あ……! んぅ…!」  ボリスのそれが胎の奥で小さく震える。ボリスが「くっ……」とうめく。目が合う。唇を重ねる。すぐに舌が入ってきて口内を蹂躙する。 「んんっ、俺、もう……」 「ああ……」  ぱん、ぱん、ぱん――。 「あああああっ!」  二人は同時に絶頂を迎えた。     *  終わったあと、気だるく天井を見上げながら俺はつぶやいた。 「ボリス」 「はい?」 「好きだよ」  体を重ねるというのがどういう意味を持つのか、俺はようやく理解した。  世界の中に自分の居場所が認められたような、そんな感覚だった。  俺は言った。 「俺は精霊になったんだな」 「もちろんです」  ボリスは喉の奥でくつくつと笑った。そしてこちらを流し見る。そのまつ毛の先から色気が匂い立つようだ。  俺はまた尋ねる。 「ボリスは子どもがほしいと思う?」 「え?」 「だって、子どもがほしかったら、また俺みたいに人間の子どもを攫ってこないといけないんだろう?」  俺の言葉を聞いて、ボリスは少しだけ首を傾げた。 「あなたは、私の子どもがほしいと思ってくださるのですか?」 「それは、まあ」  その瞬間、ボリスはまた俺の上に乗り上げた。 「わっ!」俺は慌てる。  ボリスの赤い目はまた欲情に濡れはじめている。  俺は両手を突き出して彼の胸を押しのける。 「ちょ……だ、だめだよ、そろそろ父さんたちが帰ってくるかもしれないし!」  俺の言葉を聞いて、ボリスは「はあああ」と深いため息をもらして言った。 「ヴァンパイアの里に戻ったら、またたくさんしましょうね……孕んでしまうくらいに」

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