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第24話

 エートル様は続ける。 「いくらだ?」 「へ?」 「いくら払えば叔父上と別れると誓う?」 「えええ!? そそそ、そういう話になる!?」  予想外の話に、俺は盛大にのけぞった。小さな貴族は矢継ぎ早に言葉を続ける。 「叔父上を愛していないんだろう。なら、金だろう。いくらなんだ」 「だめだって! まだ十歳なのにそんな悪役みたいな台詞言ったら……!」  俺はちょっとこの子の将来が心配になる。 「なんでもかんでも金で解決はよくないんじゃないか!? たぶんだけど!」 「なら、なにが目的だ?」 「目的って……」 「叔父上をたぶらかして、どうしたいのだ? 地位か? 名誉か?」  ――この子ほんとうに十歳か!?  俺は冷や汗をかきながら否定する。 「俺はそんなものには興味ない! ただお側にいたいだけなんだよ!」 「意地でも別れない、ということか……」  俺は「別れる」という言葉を聞いて反射的に首を振った。 「いやいやいや! 別れるもなにも、俺とオルム様はそんなやましい関係ではなくてですね! 俺が一方的にめちゃくちゃ忠誠を誓っているだけです!」  小さな貴族は傲慢に言う。 「忠誠を誓っているというのなら、自発的に身を引くべきでは?」 「えええ?」 「叔父上はシャテニエ領の領主だ。結婚して、子どもを為す義務がある。そして、いずれはその子がシャテニエ領の領主を継ぐ」 「そ、それはそうかもしれませんが」 「辺境伯から、オルム叔父上のもとに結婚の申し込みがあった」 「は、はあ」  話の方向性がわからず、俺はあいまいにうなずくことしかできない。  エートル様は真面目な顔で続ける。 「辺境伯のご令嬢と叔父上は幼馴染だと聞いている。お相手として、これ以上ないと思う」 「……そうなんですか」  エートル様はきっ、と俺を睨んだ。 「叔父上がお前みたいなのと遊んでいるとお相手に悪印象だ」 「だからそれは誤解で……!」 「忠誠を誓う臣下ならば、オルム叔父上に今回の結婚話を受けるように言うべきでは?」 「ほえええ!? な、なんで俺が!? と、というか、そんなのはオルム様が決めることで、とやかく周りが言うことではないですよ! 勝手すぎますよ!」  俺の言葉を聞いて、エートルは顔をゆがめた。 「叔父上は、私の父、そして先代が亡くなってから、ずっとおひとりで領地を支えられてきた。彼に心安らげる家庭をもってほしいと願うのは、勝手なことだろうか……」  「でも」と言いかけて、しかし次に続ける言葉が見つからなかった。  ――心安らげる家族。  それは、あなたはちがうんですか。とは言えなかった。彼の後ろの侍女たちはずっと俺を睨みつけていて、俺が対応を一歩間違えたら今にもつかみかかってきそうだ。  しかし、かといって俺からオルム様に「俺は身を引くので幸せな結婚をしてください」と言うのも変だ。なぜなら俺とオルム様は健全な関係だからだ。添い寝をしているだけだ。しかし俺がそう言ったところでエートル様は信じてくれそうにない。 「とにかく、すぐにでもオルム叔父上と別れ話をして、ご令嬢との結婚をお勧めしろ。お前がこの城を去るというなら、それなりの金銭も払う」  俺が動揺しているうちに、エートル様は「それではな」と言って去って行ってしまった。  書庫のドアが閉められたあと、俺はようやく言葉を絞り出すことができた。 「なんで?」  ノワイエは「まあ……ええ、はい。お疲れ様」と慰めともなんともいえない言葉をかけてくる。  エラーブルはため息をついた。 「結婚前によからぬ虫は排除せねばならぬだろうに」 「よからぬ虫」 「そうだろう。そう呼ばれるのが嫌なら、さっさとやってしまって側室の席だけでも確保してこい」  俺は頬を掻いた。まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。  俺は自分に尋ねる。  ――どうしたい?  俺はオルム様のことが大好きだ。でも、独り占めしたいわけではない。それに、彼の邪魔をしたいわけでもない。彼は悩みがある。俺には理解できない悩みだ。彼には傍に理解者が必要だ。俺のような政治のかけらもわからないような者ではなく。  ぐるぐると回る思考は最後に結論にたどり着く。出した結論はすとんと俺の胸の中に落っこちた。  俺はつぶやいた。 「エートル様が正しいよ」  誤解されているところもあるが、まあ、オルム様の結婚において俺が邪魔だと言うのは正しい気がする。  さみしいが、それもまたオルム様の幸せのためなのだ。 「俺、オルム様に今回の結婚の話を受けたらどうですか、って言ってみます」

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