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もっと知りたいな

「あの……昔のことって覚えていたりする?」 「?」 「あ、ううん!なんでもない!」  どうやら回帰前のことは覚えていないようだ。  それが唯一の救いのように思える。 (覚えてないってことはもう一度はじめからやり直せるってことだよね?だとしたら……俺がレアの道を踏み外すのを止めたらいいんじゃないか?そしたら死ななくて済むんじゃ……)  そこまで思い立った瞬間、リューリュはレアの痩せ細った手を強く握りしめていた。 「お、俺が、レアのご飯を作ってあげる!」 「ご飯?」 「うん。いままで大変な生活をしていたんだよね。たくさん食べて元気にならないと」 「別に興味ない」 「いいから、い、一緒に来て」  リューリュは引きこもりだが本来割と行動力のある気質だ。  その本領が処刑ルートからの脱却という目標を得て開花した。   追い出そうとしていた事実は放り投げて、レアの手を取り屋敷の中にぐんぐん進んでいく。 「お坊ちゃま!?部屋から出てこられたんですか?」 「あ、う、うん……あの、料理してもいいかな?」  まるでお化けを見たみたいな料理長の反応に困りながら頼むと、快く調理場を貸してくれた。 「レアは、す、好きな食べ物ある?」 「好きってなに?」 「うーん……手に入れると心が温かくなったり、う、嬉しくなったりするもののことだよ」 「そんなものないし、わからない」  冷めた様子のレアにリューリュは戸惑いながらも適当に料理を始めた。  リューリュは夜まで部屋にひきこもっていて、夜中になると調理場に来て一人でご飯を作って食べるという生活を続けていた。  初めこそは心配した使用人が声をかけてくれたが、今となっては治らないと諦められている。 「座って待っていて」  自分よりも背の高いレアの頭を背伸びをして撫でる。  それを大人しく受け入れたあと、レアは素直に椅子へと腰掛けた。本当にあの残忍なレア本人だとは思えない。  レアは愛する人(シノン)を手に入れるために邪魔な人間を片っ端から殺していった殺人鬼だ。  人の心がなくそのやり口は残酷で、王太子とシノンの結婚式に乗り込んで堂々と王太子を殺そうとした。  その前にも何度か王太子の命を狙っているけれどすべて失敗に終わっている。 (そんなふうには見えないのにな)  ぼーっと宙を見つめながら椅子に座っているレアは残虐非道な人間には思えない。  鍋に入れた水が沸騰する音に気がついて意識を調理へと戻した。  一口大に切ったキャロップ(人参)オニタマ(玉ねぎ)ポテポテ(じゃがいも)、それからロックバードの肉を入れて柔らかくなるまで煮込む。  野菜に火が通ったらロックバードの出汁を粉末にしたものやパセリ、塩などの香辛料を加えて弱火でコトコトと十分ほど再度煮込んだら完成だ。 (口の中に野菜の甘さと香辛料の香りが広がって美味しい。濃さも丁度いいな)  味見をすると大きめのお皿に盛ってレアの前に置いた。 「は、はいどうぞ。俺特製の野菜煮込みスープだよ。野菜もお肉も一緒に取れるから、その、栄養も取れて美味しいんだ」 「温かい」  レアの一言に胸がぎゅっと詰まる感覚がした。  伯爵が亡くなってから伯爵家の領地も屋敷も国に返還することとなり、レアは行く宛もなく彷徨っていたらしい。  リューリュの父親が現状を聞きつけてレアを引き取らなければ今頃は亡くなってしまっていたかもしれない。 (そんな彼を追い出そうとするなんて俺は最低だ……)  ゆっくりとスープを食べているレアを観察しながら、リューリュは彼を本当の弟のように大切にしようと決めた。  愛情を注いであげればきっと真っ当に生きていけるはずだと思いたい。  ──あとはシノンにさえ会わなければきっと大丈夫だよね!  回帰前は部屋にひきこもっていたら突然処刑を言い渡されて抵抗することすらできなかった。  処刑台に上がった瞬間「あれは誰だ?」と言われるくらいには人との交流がなかったうえに、レアの周りの人たちは平凡な見た目のリューリュとは違いみんな派手で人気だったため、リューリュはいわば空気のような存在でしかなかった。 (今回はなにもしないまま終わってたまるもんか!)  外は怖いけれど自分や家族の命を守るためには怖がっていられない。 (そういえばさっきはなにも考えずに外に出たけど、陽の光を浴びたのは久しぶりだったな……)  窓から射す太陽の眩しさすら懐かしい。  だからなのか少しだけ気分が良かった。 「お、美味しい?」 「よくわからない。ただ、胸が温かい気がする」  そう言って不思議そうに目を瞬かせているレアに、リューリュは思わず満面の笑みを向けた。 「そっか。それならきっと美味しいってことだね。これからもレアのために沢山料理を作ってあげる」  リューリュの笑顔を見たレアが切れ長の赤い瞳を見開いて丸くさせた。  その反応がどういう感情なのかをリューリュにはまだわからない。  それでも少しずつ彼のことを知っていきたいと思った。

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