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初めての夢

 レアが公爵家に来てからリューリュの生活は百八十度変わった。  一日中部屋に引きこもり、夜中に起きてご飯を食べてまた寝るという生活とはおさらばだ。 「レ、レアおはよう。今日は、すごく良い天気だよ。モ、モーニングを作ったから一緒に食べよう」  早起きをして朝食を作り、レアを起こしにいくのがすっかり日課だ。 「ん……食べる」  起き上がったレアが着替えもせずに部屋を出ていく。すっかり艶を取り戻した黒髪があちらこちらに跳ねている様子が可愛らしくて目で追ってしまう。  料理をテーブルに並べながら、いまだに感情の起伏がわからないレアの顔を観察する。 「ねぇ、に、義兄様って呼んでみてよ」  名前で呼ばれるのも嬉しいが、それよりも義兄と呼ばれることに憧れてしまっていた。  レアが屋敷に来て二週間は経っているが、いまだに呼んでくれないためすっかり痺れを切らしてしまった。 「リューリュ」 「あの……義兄様は……」 「リューリュと呼びたい」 「あ、うん……。レアがそう呼びたいのならそれでかまわないよ」  ガックシ肩を落としながらも笑顔に努める。  整いすぎている顔がリューリュの方に向けられると「リューリュ、朝食食べたい」と言葉が発せられる。 「ご、ごめん。はい、用意できたよ」  たまごサンドに、アカトマ(トマト)グリーフ(レタス)、それから辛子マヨを挟んだサンドウィッチ。  そこにモーニングコーヒーとポテポテのスープを合わせたら満腹間違いなしのモーニングが完成だ。 「アカトマは嫌な感じがする」 「き、嫌い?」 「たぶん」  そう言いながらもレアは、アカトマとグリーフのサンドウィッチにかぶりついている。  それが嬉しくて心が綿毛のようにふわふわと飛んでいくような気持ちになった。  リューリュもたまごサンドにかぶりつくと、甘さと酸味が丁度よく口内を満たしてくれた。 「リューリュついてる」  口元についたたまごをレアが指先ですくい取ってくれた。 「ありがとう。はい、チーフ」  ハンカチーフを手渡すと、指先とハンカチーフを交互に確認したレアが迷うことなく指先を口にふくんだ。 「え゙っ!?な、なな、なにしてるの?」 「もったいない」 「う、うん??」  たまごがもったいないってことなのだろうか。  けれどそれはリューリュの口元についていたものだ。掴みどころのないレアの行動に翻弄されてしまう。 「美味しい。リューリュの作る食事は俺に温かいって気持ちを教えてくれる。こういうのってなんていうんだろ」  レアの言葉が嬉しすぎて口元がにやけそうになってしまった。  だらしない顔を手で覆いながら質問の答えを探し出す。 「それってもしかして、し、幸せってことなのかも、なんて」  流石に見惚れすぎただろうか。  黙っているレアに視線を向けると、彼が自身の胸を片手で押さえているのがわかった。 「……これが幸せってことなのか……」 「う、うん。そうだと嬉しいって俺は思う」 「幼い頃に亡くなった母上はいつも、父上と俺が居るから幸せだと言ってた。でも俺にはその感覚がよくわからなかった。昔から感情を読み取るのが苦手だったし、母上が亡くなってからは父上は俺に興味を示さなくなったからますますわからなくなった。……そうかこれが幸せってやつなんだ……」  普段は自分のことをあまり話さないレアが家族のことを聞かせてくれたことが喜ばしくて、リューリュは泣きたくなるような幸福感を感じた。  命を守るためにレアを真っ当に育てようと思っていたけれど、いつの間にか彼は大切な義弟になっていたんだ。 「リューリュありがとう」  相変わらずの真顔だけれど、感謝の言葉を発したレアはどこか喜んでいるように感じる。 「ど、どういたしましてっ」  泣きそうになりながらスープを飲み込んだ。  もっともっと大切にしてあげたい。沢山の感情を教えてあげたい。  それは七歳の頃から引きこもりだったリューリュの初めての夢になった。

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