27 / 43
第27話
「北神もここにあるとしっているのなら、自分で見つければいいものを」
乾いた大地を進みながら、鶏明 は苛立たしげに髪を掻きあげる。鬱屈とした谷のよどみが肌にあわないようで、少し前から言葉の端々はざらついていた。
袖や羽を好ましい風に吹き当たらせて空を飛ぶ彼にとっては、魚が水を取り上げられた苦しさと等しいだろう。韶華は気の毒に鶏明を見た。
「仕方がないよ。北神は忙しいのだし、それにここは、おそらく北神にとってはあまり快い場所ではない」
風が尽きたために草も花も、木さえ生えていない。それに四百年が経ったのだから、痩せた剥き出しの荒野ばかりが広がっていると思っていた。けれど、枯れ果てた花の無残 な痕が一部に残り、同じく枯れ草が所々に目に付いた。
「ここで何か、あったんですか?」
「そうだね、あったにはあったよ……」
韶華 は唸って、ちらりと鶏明を見る。鶏明を拾ったのは、北神と決裂した後のこと。
鶏明はたずねておきながらあまり興味がなさそうに先をずんずんと進んでいく。本当に、彼は興味がないのだ。けれど、仕えている主の過去については知っておきたいのかもしれない。
「金神と呼ばれる、凶神がいたんだ」
韶華はゆっくりと谷を下りながら、暇つぶしに話すことにした。
「尤 も厭 うべき神、凶の神だ。彼は凶を司るから、同じところに居続けると禍をよんでしまう。神仙妖鬼は次第に彼を恐れた。排除しようとする動きが主流になってしまって、金神はここに封じられた」
「北神がここを嫌がる理由は、なんです」
鶏明の素っ気ない質問に韶華は苦笑う。あまり昔の思い出も覚えていない韶華が、なぜか当時のことはまだ、鮮明に語れるようだ。
「私と一緒に、北神も金神の封印を解こうとしていたんだ。けれど、私にやめるように言って、彼は先にここを立ち去った。そしてここに残り続けた私を盟神探湯にかけ、結果は、君も知っているとおり、私は悪で、善は偽で、邪悪、罪を犯した神になったわけだ」
「なら、金神は今もここに封印されているということですか?」
「そのはずだが……」
韶華はなだらかな谷をゆっくりと下っていく。
何十年、ここにいたのだろう。金神の封印を解くために力を注ぎ、居続けたためにこの荒れ地にも花が乱れた。
藤の蔦、凌霄花 の橙、鮮やかなきいろい山吹の花……
同じ神として、彼の神格を守りたかった。その思いにこたえるように、花々は要塞となり、金神を封じた玉に美しくまつわった。
甘い花の匂いと、決して解けない封印を前に、韶華は神性も危ういほどに尽くした。鶏明という雀を拾い、わずかな善行によってなんとかとりとめただけだ。
韶華はその昔の思いを胸に薄暗い洞へ入っていく。
「ここだよ」
封印は枯槁の谷の風や露を練り集めてできている。だから枯槁はこれほど味気ない姿に変わり果てた。
その玉に金神の魂と神性が複雑に絡まり、上から包み込む枯槁の山気が蓋の役目になっていた。元々大雑把に枯槁の谷に捨てられていたこの玉を、韶華が必死に探して見つけ、この洞まで運んだのだ。
枯れ果てた蔦の絡まる台に近づく。
散った花びらを払い、そこにあるはずの金神の封印を手に触れた。しかし、韶華は払ってから、おや、と気づく。風がないとはいえ、四百年朽ちない花びらが、あるだろうか?
「花神、これは、花びらではなく、暦帳の一部では……」
その疑問を真っ先に口にした鶏明が、細かくちぎられた紙片を見せた。そこに書かれた文字は確かに、牢獄の中で取り乱した韶華の文字だ。
暦帳を何者かがちぎってここに撒き散らしたらしい。一体誰が? すると鶏明が怖々と台にふれた。
「……花神、金神は、封印されているはずだと」
ともだちにシェアしよう!

