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第3話 ビアガーデンと決意

8月に入って小橋君が僕をお酒に連れ出してくれた。小橋君と奥さんのカオリさんと僕の3人で飲みに行こうということになった。街の通りがビアガーデンをしているそうだ。 小橋君の奥さんはあの駅まで迎えに来てくれた女性だった。改めて挨拶をすると小橋君が「微笑みかけるな」と無茶を言いながら彼女を後ろに隠した。 このビアガーデンはお酒は酒屋に料理は料理を売っているところへ買いに行くシステムだった。僕はお総菜の店で煮魚を買った。 酒屋のお兄さんに何でもそろってるよと言われたので、おすすめの日本酒を飲んでみることにした。 適当なテーブルに着席して皆で乾杯した。 初めての日本酒はおいしかった。おいしくて酔ってしまった。 「小橋君、こんなかわいい子をーどこで見つけたんですかー」 「幼馴染っすー友達の妹。ってか、色目使わないでくださいナオ君顔だけは良いんですから」 「小橋君のバーカ。顔だけって言うな。でも、小橋君は友達ほんとに多いですねーさすがコミュ力なんばーわん!」 「赤木さんも言う!それ!」 小橋君もお酒を飲んでいる。テンションはいつも通りだ。カオリさんは運転のためにウーロン茶を飲んでいる。 「僕らはねー…彼が隣の学校で1個上で…見に行ってー…むっちゃかっこいいじゃん!ってなってー 彼が入った大学名を聞いて同じとこ受験したんですー。んで、同郷だねって近づいてー仲良くなってー押して押して押して猛アタックの末付き合うことになってー結婚してーふふふふ」 僕は煮魚の小骨をひとつひとつはずしていた。 「ねーカオリさーんー小橋君の匂い好きですかー?」 「もちろんでしょー」 「小橋君にはー聞いてねー。カオリさーん!」 カオリさんは僕らが広げたお皿やおちょこをテーブルの隅に固めながらニコニコと僕らのやり取りを見ていた。 「大好きですよ、彼を好きになったきっかけが彼の匂いだったので」 恥じらいながら答えてくれる。小橋君がデレッとしてる。 「小橋君いまめっちゃ締まりのない顔してるよーデレデレだよ」 「カオリちゃんが大好きって言ってくれたらそりゃ、こんな顔にもなりますってー」 小骨が取れた煮魚をひっくり返してまた裏の方の小骨もとる。 「あー、僕も彼の匂いが好きでした、チューベローズって知ってますかーフレグランス系のお店に行くと魅惑の香りって言って売っててね。彼の匂いはそれに似てるんですよー。ぎゅっと抱き着くとちょうど彼の肩におでこが乗ってね、それで匂いを嗅ぐんですー大好きだ―って心で叫びながら」 この際だから言ってしまえ。今なら酔ってるから。 「僕もねー匂いが好きだった。彼の背の高さが好き。顔全体で笑う感じの笑顔が好き。耳の形が綺麗で好き。腹筋がねー割れてるのも好き。おへそがすごくかわいくてー、優しい話し方が好き。聞き取りやすい声の高さも好きー。真面目で嘘が付けないところも好きだったなーふふふ」 酔ってるから…。 「カオリさーん、でもね、アルファなところは大嫌い」 頭がふわふわする。 「浮気相手の子ねー女の子なんです…彼は高校までは女の子にしか興味がなかったーでも…大学でー…僕がー無理やりにー…押して押して押して……男と付き合うのは僕が初めてだって。でもやっぱり、男じゃ無理だったのかなー女の子が良かったのかなーオメガでも男なんて―ねー結婚までしたのに」 小骨をとり終えて食べやすくなった煮魚を一口食べる。 しょっぱい煮魚だ、構わず食べる。 「赤木さんにはバレちゃってましたねー。僕はねー、僕を消したい。でも、消したいのに死にたくないんです。彼のことは許せないのに、嫌いになれないんです。中途半端だなー」 カオリさんも小橋君も黙って聞いてくれた。 煮魚がしょっぱい。 「僕ちょっと……寝ます」 僕はそのまま顔を隠すために突っ伏した。 小橋君は僕の頭を撫でながら僕がほぐした煮魚をうまいなーって言いながら食べている。 ちょっとの間ほんとに寝てしまっていたらしい。テーブルの上はきれいに片付いていて。お水が置いてあった。僕はありがたく飲ませてもらった。 「あぁ、そうだ。小橋君。さっきポスターで花火大会が再来週だって見ました。僕、彼との面談はその日にしようかと思うんですけど。叶いそうですか?」 小橋君は任せとけって親指を立てた。 「うはーでじゃぶーですーそのポーズ!!」 笑っていたら眠くなった。 「僕はもう疲れたよー。なんだかとても眠いんだー」 なんて、天使は迎えにこなかった。 そして、本当に寝てしまったみたいだ。日本酒は恐ろしい、口当たりがよくすっかり酔ってしまった。 気づけば僕は部屋で寝ていた。小橋君は細いのにここまで連れてきてくれたんだ。さすがアルファって思いつつ申し訳なさでいっぱいだ。僕は彼の前で何度失態をさらせばいいんだろう。昨日の一言一句覚えている自分にも絶望した。 こういう時はさっさと仕事を始めよう。いくつかの仕事が校了となり、また、新しい仕事の依頼が来ていた。細々とだが切れずに仕事が続いていることに感謝する。 スマフォを開くと小橋君からアプリに連絡が来ていた。 “再来週土曜日10時6階の面談室で彼との面会をセッティングしました。そのあとは屋上でBBQしましょうね” 言った。確かに言った。そして、あっけなく決まってしまった。言えばすぐ叶ってしまうほど、彼は今 僕に会える日を待っていたのか。 …でも僕の思考がネガティブになる。 彼が帰ってこない部屋で待っていたのは。 約束した場所に現れない彼を待っていたのは。 彼の実家でいなくなった彼を待っていたのは。 冷えて行く晩御飯を前に泣いていたのは。 ヒートになった日何度も彼を呼んで待っていたのは。 …今までずっと待っていたのは僕だった。 冷たい感情が広がっていく。いやだ、僕は逃げてもいいだろうか。 気が付けばクッションを抱きしめて物思いに耽っていた。急ぐ仕事がないのがせめてもの救いだ。

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