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第6話 旅行と前夜

赤木さんと相談することにした。僕の実家に離婚の報告をして、そのまま家族とも別れようと思う。離婚が確定した場合、オメガの保護管理者はまた親族に移ることになるのだが、僕は実家には帰りたくなかった。そのため頂いていた特別養子縁組の話を進めてもらうことにした。 実家に頼るより特措法のもと出会う人の方が希望が持てたからだ。 養子の話は急展開で進んだ。僕の前に養子縁組先として現れたのはなんとまっきーさんのご実家だった。 ご両親はお父さんがベータでお母さんがアルファだそうだ。まっきーさんのご実家は理美容系の老舗メーカーでドラックストアでもよく見かけるメーカーだった。 ご兄弟はまっきーさんの上に3人下に1人いて5人兄弟だった。ご兄弟の皆さんはすでに伴侶を得て子供もいるし、まっきーさんは独身だけどベータだったことで、僕が養子になっても問題ないと判断されたそうだ。 ご両親はパワフルな人たちだった。僕の境遇を聞いて是非と言ってくれた。お母さんは僕の話をじっくりと聞いてくれた。お父さんはお母さんの側に控えて優しい目で見てくれている。最後はふたりにがっしりと抱きしめられた。人の温かさは怖かったけど、嫌な感じはしない。むしろ、ホッとする。 手続きもトントンと進み必要な書類はあらかた揃い、あとはうちの実家に印鑑をもらうだけとなった。ここの職員さんはほんとに優秀だ。 あぁ、これで準備が整った。僕は実家を捨てる。 僕が見ようとしなかったものにもう一つ過去がある。 実家に行く日取りが決まった、付き添いは小橋君だった。 僕の実家はすごく田舎にある。公共交通機関を使ってもいいのだけれど、家族と縁を切るため心の整理をつけるため時間をかけてじっくり帰ろうという話になった。 早速、小橋君の愛車に乗って出発して駅でまっきーさんと涼介さんと合流した。 「シュン、お疲れ、ナオ君 おはよ」 「小橋、お疲れ。ナオ君ーおはよー」 小橋君って下の名前はシュンだったのか。と感心していると。涼介さんは助手席に乗り込んだ。僕はまっきーさんと後部座席に移動した。この3人で交互に運転するそうだ。 「すみません、皆さん。お店は大丈夫なのでしょうか?」 「普段はあんまり現場に立たないんだ、だからいなくても店は回るよ。気にしなくていいからね」 まっきーさんはすごく優しいしゃべり方をする人だ。 そして、なぜ涼介さんも一緒に行くかと言うと、なんと、涼介さんは弁護士さんだった。 俺の本業はこっちだからと、名刺を見せてくれた。本当らしい。 あの店はクライアントさんの店で匂い付けのついでに借りただけだそうだ。 涼介さんは僕が疑ってた目で見ていたのに気づいて半目でにらんでくる。 家のことを教えて欲しいというので僕は思い出を話す。 「僕の実家ものすごく田舎なので、小学校の時は片道2時間。中学校と高校は自転車で片道1時間半かけて学校に通ってたんですよ、隣の家までは山を越えなきゃダメだったので陸の孤島って言われてました、だから、ほんとに周り何もないんですよ」 3人が驚いた顔してる。実家の話になるとだいたいこういう反応だ。 「えっえっ、家業は?」 「両親は教育の仕事に就いていたので街に住んでいました。弟もアルファって判定が出てからはそっちに。僕は祖父母と生活していました。ネット環境はありましたし。食べるものは移動販売の車が週1できていたので、あと、畑もあってだから生活に困ることはありませんでしたよ」 だいぶぼかしたが、突っ込んで聞いてこないのは気を使ってくれているんだ。 「でも勉強しかすることが無かったから国立の四大に入ることができたし、しっかり体力も根性もついたので振り返ればよかったかな」 「ナオ君ってば只者じゃないね」 3人がしみじみ言った。きっと、褒められてるはず。 そのあとは街に出た時に行ったコンビニに感動した話や好きなお菓子の話で盛り上がった。 高速に入ってから3人の高校時代の話になった。3人は小中高と同じところに通った幼馴染で。田舎者の僕でも知っている有名な進学校出身だった。 「僕オメガだから修学旅行も宿泊研修も行ったことが無いんです、畑があったから家族で旅行もしたことが無かった。だから今日実家に帰るって決まった時、やだなーって思う気持ちもあったんですけど、旅行だーって浮かれる気持ちもあってなんか。楽しみだったんです」 まっきーさんと涼介さんが押し黙ってしまった。あぁ、楽しい空気だったのに。いらないことを言ってしまったかもしれない。 「いや、ですから。すごく楽しみで。すごく楽しいって言うのを伝えたかっただけなんです。すみません。お土産買ったり。枕投げしたり。恋バナしたりなんて言うんですか。旅行!たのしいなぁあーー」 僕は空回りをしながら最後はやけっぱちだ、自分でも何言ってんだと思っている。 「ナオ君、部屋は別々だけど枕投げしようか!今晩」小橋君が力強く言ってくれる。 「サービスエリアのご当地ソフト全部食べよう ね」まっきーさんが僕の頭を撫で始めた。 「ご当地ソフトっ!!」僕はその言葉にニンマリした。お土産類なら今どき通販で手に入るがそれは現地に行かないと食べられないやつだ。 「ナオ君揺れてる。めっちゃおもしろい。そんなに楽しみ?」涼介さんが笑うが気にしない。 「はい!もちろん!」 「お兄さんたちがおごってやる!好きなだけ食べなー」言質は取ったぞ。僕はまたニンマリして見せた。 走り出して3時間、休憩もかねてサービスエリアに到着した。平日の金曜なのにたくさんの車が止まっていてたくさんの人がいた。すごい、何でも売ってる。食べるものも。お祭りでもないのに屋台がある。さらにコンビニまであってちょっと負けた気分だった。 「なるほど、ここがいわゆる夢の国ですね」僕は感慨を込めてつぶやいた。まっきーさんがそれは千葉の方にあるやつって、すかさずツッコミを入れてくれていた。 シェルターのみんなへのお土産は帰りに買うから今買わないでと言われたので。手土産に大福を買った。両親とか弟はいるだろうか。僕が固まって悩んでいたのが手足の長い奇妙なご当地モチーフの人形の前だったようで勘違いしたまっきーさんがその変な人形を2個も買ってくれた。 お昼ご飯はそのサービスエリアで食べた。みんなががつがつ食べるのがすごく新鮮だった。ラーメンにカツ丼すごい量だ。僕はラーメンだけでお腹いっぱいだった。だけど、ソフトクリームはちゃっかり買った。牧場のソフトと言うのはこんなにおいしいのか。涼介さんが欲しそうな顔をしたけど。二度目ましての人に食べている途中のものをどうぞはできない。運転手は涼介さんに変わり僕の隣は小橋君になった。僕はさっきの人形を取り出して可愛いところを探した。 さらに3時間も進むと窓の外は山が深くなってきた。やっぱりこっちの緑は深いなと思う。インターチェンジで下りて下道を走りだすと道路を並走するように単線の列車が走っている、涼介さんが一両編成の電車にびっくりしていた。 泊まるホテルは市の名前を冠した地元では有名なホテルだった。僕にとっては一応地元なのだけど街を出歩いたことが無いため案内もできない。落ち込んでいると、小橋君がホテルの人に聞いてくれて鉄板焼き屋さんに行くことになった。自分で鉄板で焼くタイプのお店だそうだ。僕はまたひとりでに揺れていたそうだが誰ももう注意してくれなかった。 お店はホテルから歩いて行ける距離でおばさんが丁寧に焼き方を教えてくれた。やっぱりイケメンが揃うと女性陣が優しいなとひそかに思った。 「なんかでも、ナオ君て天然の小悪魔系かと思ったら。ただの幼稚園児だったわ」 涼介さんがビールを片手に絡んでくる。ソフトクリームのことを根に持ってるのか。僕は今小橋君からへらを受け取ってお好み焼きを切るという作業に没頭していた。 「ギャップがね。綺麗な子だなと思ったけどさ。ツーブロックをメガネが掛けやすい髪型って言ったり。表情筋動かないけど、体揺れてるし。面白いよね」 まっきーさんまでのっている。割とうまく切り分けられたお好み焼きを皿にのせて配る。この話に乗らなかった小橋君には一番大きいのを渡す。 「わりとおばちゃんキラーよ。赤木さんとか、ミカちゃんとか商店街のおばちゃんとかはもうアイドル見るみたいな目で見てるよ。500円のTシャツに100円ショップのサンダルでもキラキラしてるの笑う」 小橋君が続いた。僕はいただきますをして、割りばしを割ったとこだった。思わず小橋君を見る。なんで、僕のサンダルが100円ショップのものって知ってんだ。 「僕がコミュ力低くて。表情筋が硬いのも私服センスが悪いのも生まれつきなので改善はあきらめてください」 「いやそんなことないよ。コミュ力はどちらかというとある方じゃない?誰と話してても物怖じしないし。表情筋もよく見てたら分かってくるよ」 「じゃあ、今僕が考えていることは何でしょう」 「「「楽しそうだよね」」」3人の声がそろう、仲良しだなぁ、少しうらやましくなる。 「正解!」僕もビール片手にお好み焼きを食べている。お店の人がサービスでホルモン焼きもくれたのでありがたくいただいた。 「このあとは、トランプして。枕投げして。恋バナだっけ?」涼介さんがからかい気味に言ってくる。 「正解!」 「じゃあ、コンビニ寄ってホテルに帰ろう!ナオ君にアイス買ってあげるよ~」 まっきーさんが僕を甘やかしにかかった。だが、甘んじて受けよう。 トランプは映画で見たポーカーとブラックジャックはルールが分かるがババ抜きは初めてだった。枕投げはなんかただの乱闘だった。顔で受けた枕はちゃんと痛かったので根に持ってやると心に決めた。 恋バナは小橋君ののろけだった。旅行の夜というのを堪能した。 10時には解散になって自分の部屋に戻る。ホテルに泊まるなんて初めてだ。シャワーとトイレが同じ場所にある。お風呂に入ったらトイレが濡れちゃうんじゃないかと少し悩みながら入った。 明日は祖父母の家に行く予定だ。会ったら何からしゃべろう。会話らしい会話なんてできるのだろうか。 今日はサービスエリアも、鉄板焼きも楽しかった。ババ抜きは帰ったらテル君にも教えてあげよう。そしたら、みんなで赤木さんとミカ先生とテル君と僕で遊ぼう。それまでに人をだませるように練習しよう。 僕が帰る場所はもうシェルターだ。なんだかホッとする。 ドアをノックする音が聞こえた。 廊下には小橋君がいた。 「ナオ君。明日朝ごはんは8時で食べ終わったら出発だから。ナオ君の考えてそうなことなんとなく分かるけど。無理はすんなよ」 そう言って水をくれた。その言葉に少し勇気をもらう。 「あの、小橋君。なんとなくではなくてちゃんと話したいです。聞いてもらっても良いですか?」 僕らは連れ立ってホテルの最上階のバーに行くことにした。 よく考えたらバーなんて初めてだ。頼み方が分からない…と思ってたら小橋君が僕にはウーロン茶を頼んでくれた。 「たぶん、明日家族に会えば驚くと思います。偏った考えを持った人たちなので」 僕は一口ウーロン茶を飲んで息を整える。 「僕の父方のひいじいちゃんたちがアルファとオメガでした。僕が6歳まで生きていました。両親にあまり構ってもらえなかった僕は度々ひいじいちゃんのところに預けられました。僕にとってひいじいちゃんたちは特別な人たちです。やさしくて厳しくて大好きな人たちでした。僕が運命の番に憧れるのは二人のことがあったからです」 また、一口飲む。 「明日逢う祖父はアルファですが祖母はベータです。子供は僕の父だけで父はベータでした。祖母は親戚からアルファを産めとプレッシャーを受け続けたことがトラウマでバース性に偏った考えを持つようになりました、嫁に来た母がオメガを産んだことに。祖母は自分の息子はオメガじゃなくて良かったと言ったそうです。祖母はオメガはベータ以下だと言ったそうです。ひいじいちゃんたちはそれを聞いて激怒しました。 ひいじいちゃんが別で暮らしていたのは祖母の偏見からひいばあちゃんを守るためでした。明日行く祖父母の家はひいおじいちゃんが建てた家です。オメガであるひいばあちゃんを守って暮らすために山の中に建てた家です。」 グラスにつく水滴を指でなぞってみる、なぞるとできた水滴はゆっくり滑ってだんだんと大きくなりコースターに染みを作った。 僕は一気に半分まで飲んだ。 「僕の家は代々学校法人を経営している家です。アルファとかオメガにこだわるのはそのためで。今は父と母が経営しています。 母と祖母は弟が生まれてアルファと分かった時に絶縁していました。ですが弟が5歳で僕が7歳の時、弟が僕をいい匂いがすると言ったそうです。母はオメガはアルファを匂いで誰彼構わず誘惑すると言う世間の言葉を真に受けて僕を絶縁した祖父母のところに預けました。母はアルファを産んだことで親戚間でも力を付けていたので祖父母は従うしかなかった。祖父母は追いやられる形で学校法人から距離を置いて山の家に僕を連れて住み始めました。僕の世界はそれからずっと祖父母と山の家と学校だけでした。運が良かったのはひいじいちゃんがネット環境とパソコンを残してくれていたこと。聞けないことは調べることができた。進学の時は特に助かりました。祖母はすぐにでも家から出してどこかのアルファに預けたかったみたいですが、僕はひいじいちゃんの”知識は財産であり武器だ”という言葉を信じて高校も大学もひたすら勉強しました。何とか進学できたのは学校法人を運営する家がオメガの進学を否定するわけにはいかないからです」 溶けた氷が高い音を立てた。 「離婚を決意した時あきらめたんだ。親子の縁は切れないと思っていたから。僕の選択肢は親が決めたどこかのアルファの道具にされるか国の第二性措置法で子供を産むために番わされるかなんだって。 でも、僕は欲が出たんです。 僕はテル君や小橋君、赤木さん、ミカ先生たちを見て僕にも心から信頼できる相手が欲しい。信頼してくれる相手が欲しいって思った。テル君と話をして第二性特措法は抑制剤を見つけるための法案じゃない。本当に出会える場所だって分かったから選べるなら両親とは縁を切って自分で選んで幸せになりたいって・・・牧野さんが養子縁組を申し出てくれたことほんとうに感謝しています」 残っていたウーロン茶をあおると小橋君を見た。小橋君は一口も飲んでいなかった。 「これからもお世話になると思いますが、よろしくお願いします。」 僕は小橋君の方に向き直って頭を下げた。小橋君は何も言わず頭を撫でてくれた。手が暖かくて少し泣きそうだ。 「ナオ君。ナオ君は幸せになるよ。俺が保証する。俺がしてやる。楽しみにしとけ」 「ナオ君!俺もついてるからな!」 「いまからお兄ちゃんって呼んでいいよ~!」 となぜか遠くから涼介さんとまっきーさんも来た。どこから聞いてたんだろう。 うれしすぎて言葉がでない。 「まぁ、でも今の話を聞いたら明日は万全で対応した方が良いかもね」 小橋君が少し考える風にあごに指を添えた。二人は軽くうなずいている。なんだか頼もしい。 「あ!ナオ君もう12時だ!早く寝ないと!!」 そう言って散会となった。今日一日でいろんなことがあったけど楽しい一日だった。今日一日体験した事を教えたい人がいることがうれしい。 ベッドに入って電気を消せばすぐに眠ることができた、夢も見ない深い眠りだった。

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