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第12話 お父さんと告白

目が覚めた時、僕はちゃんと僕にと用意された部屋のベッドにいた。シーツも布団も滑らかな肌触りでふわふわで暖かくてとてもいい目覚めだった。だけど、昨夜の記憶はある。僕はどうして、お酒を飲んで乱れるのに記憶は無くならないんだろう。着替えた後、部屋を出てリビングに入った。起きていたのはお父さんだけでお父さんは朝ごはんの準備をしていた。 僕も手伝おうと近づくと、エプロンを付けてくれた。冷蔵庫を開けて何を作るか話し合う。僕は昨日のハムがあったのでジャガイモでガレットを作ることにしてジャガイモを千切りにしていく。 「ナオ君は昨日の晩のこと覚えてるの?」お父さんが何気ない風に聞いてくる。 「恥ずかしながら覚えています、ごめんなさい。悪いお酒でした」僕は正直に答えた。 「僕はベータだから良く分からないんだけどさ、ナオ君は大丈夫なの?べたべたするのは」その質問がじわじわと脳に沁みてくる。 「セ…セクハラですね、嫌われますね…あ――どうしようお父さん!!」僕はジャガイモの千切りをより細かくした。お父さんが笑う。僕はよりにもよって涼介さんを嗅ぎ倒してたのだ。 「嫌われたくないんだね、うんうん、これはナオ君と僕の秘密だね」お父さんが笑みを深くする。 おかげで千切りがすごいはかどった。ハムとジャガイモを混ぜてフライパンで焼く。 「どうしよう。また優しい涼介さんにつけこんでしまった」フライ返しでぎゅうぎゅうと押し付けながらジャガイモのガレットを焼く。 「僕が知ってる涼介はひねくれてて優しいなんて人から言われる子ではないけど、ナオ君には優しいんだね、ふうん」お父さんはウィンナーに切れめを入れながら笑っている。僕はブロッコリーに取り掛かる。包丁で房を分けて等分にしていく。洗ってザルにあげた。お父さんはガレットをひっくり返してくれた。綺麗なきつね色になっていておいしそうだ。 「どうやったら、忘れてくれると思いますか?」僕がうなだれると、お父さんは「忘れたくないだろうね」とうなずいている。一通り準備が終わったのでみんなが起きてくるのを待つことになった。 お父さんは冷凍庫からコーヒー豆を出してガリガリと挽き始めた。 「早起きしたナオ君と僕のご褒美だよ」そう言ってコーヒーを淹れてくれた。 挽きたての豆でドリップしたコーヒーは苦みがあとを引かず、さわやかな風味のおいしいコーヒーだった。 「このご褒美は癖になりそうです」僕はピンクのマグカップを両手で持って深く息を吐いた。 時計を見るとそろそろ9時になりそうだった、そこへお母さんが起きてきた。 「おいしそうな匂いがした」のが起きてきた理由だそうだ。 「朝ごはんにするからナオ君二人を起こしてきて、ナオ君の部屋の隣の部屋で寝ているはずだから」と言われたので僕は部屋に向かった。 こっちの部屋は泊まるための部屋なのか。家具らしい家具はベッドが2台あるのみでそれ以外はナイトテーブルとハンガーラックととてもシンプルな部屋だった。 それにしても、寝ている人を起こすというのはどうやるんだろう。ベッドのそばに立って悩んでいると後ろにグイっと引っ張られた、ぎゃっとそのままベッドに倒れこむといたずらが成功した顔をする涼介さんがいた。そのまま重さをかけて抱き込まれた。バタバタしているとやっと手を緩めてくれた。「ナオ君おはよ」と頭をワシワシかき混ぜられたのは昨日の仕返しかもしれない。僕はやっとのことで涼介さんのベッドから立ちあがったのだが、ふらついてしまって慎平さんのベッドの方に倒れこんでしまった。布団の下でぎゃって声が聞こえた。ごめんなさいと声をかけると「新妻がおこしに来た!」と布団越しに抱き込まれた。この人たちは朝からテンション高いな…とあきれているとその後ろから涼介さんがまたのっかってきた。もう、なんて子供っぽいんだ。 僕はそのままこの前やった枕投げのリベンジをすることにした。結果を言うと帰ってこない僕を迎えに来たお父さんに3人して怒られた。 キッチンに戻るとお母さんが朝ごはんの仕上げをしていた、メインはお母さんのカレーで副菜に僕のガレット、焼いたウィンナーとブロッコリーのサラダと言うメニューだ。 食卓に座っていただきますをしてパクパク食べた、朝から食べるカレーもおいしかった。みんなもおいしそうに僕のガレットを食べてくれる。お父さんと目線を交わしてニンマリとした。 片付けまで終わらせてソファに落ち着く。 膝の上に乗せたクッションをポンポンと整えてみる。ぎゅーッと抱き着くと良い弾力で押し返してくれる。 「シェルターに来て、僕が落ち込みそうになるとみんな僕を落ち込ませてくれないんだ。何度も救い上げてもらっている、こういうのは当たり前だって思いたくない、だから…」 僕は居ずまいを正して各々くつろいでいる皆を見回した。 「このメンバーでお泊り会って何か意味があるんですよね?」 落ち着いたので今しかないと思った、だって不自然じゃないか。 お父さんとお母さんは目を見合わせると背を伸ばしてこちらを見た。 お父さんは少し寂しそうな眼をしていた。 「僕たちは本当にナオ君がこのままずっとこの家にいて僕たちの家族になれば良いって思ったんだ。でも、ナオ君が望んでいるのはそれだけではないって分かっている」 「ごめんなさい」僕は小さくつぶやく。 「謝ることじゃないのよ、直哉が前向きである証拠なんだから。だから私たちもちゃんと直哉の幸せに向き合おうと思ったの。直哉の良いところをちゃんと見て心から信頼してくれる人。特措法でもそう言う人には出会えるかもしれない。だけどちゃんと直哉を見て直哉に寄り添いたいって言っている人間が近くにいたら直哉はどうする?」 お母さんの落ち着いた声に僕は視線をさまよわせる。 「一人候補がいるの。直哉がどう思ってるかが一番大事だからね。正直言うと許可をもらいに来た時はびっくりしたわ。だけど、直哉の気持ちを確認してからって…無理強いはしたくないと思って。だからまずは二人でいるところを見てから決めようって」 それを引き受けてお父さんが 「僕はね、性格はどうかと思うよ。ひねくれてるし、素直じゃないし。ねちっこいし、子供っぽいし、だけど顔は良いと思う、仕事もちゃんとしてる。ナオ君には親切にできているみたいだし」 そこまで言って分かった、少しずつヒントは落ちていた。朝でのキッチンの会話を思い出す、僕は気づいてしまった。 「僕はめんどくさい性格だし。今回のことでも迷惑かけてばかりで嫌な部分もいっぱい見せた。それにバツイチだし、僕にはもったいない人だ」 とてもじゃないがその人の方は見られなかった。だんだんと赤くなる顔を隠したくてクッションにうずめる。 すると、隣に重みがかかりソファが沈む。僕はクッションから顔を上げてみると涼介さんが隣に来てこちらを見ていた。余計に熱が顔に集まる。 「すみません、少し二人で話をさせてもらっても良いですか?」 涼介さんはそういうと僕を俵担ぎした。そのままお辞儀をして部屋を出ていく流れがスマートすぎて僕はされるがままだったのだけど。部屋から出る時、お父さんがすごくにこやかに手を振ってくれた。 僕の部屋のベッドに投げ出されて覆いかぶされらた。 「あの…涼介さん…話をするんじゃなかったのでしょうか?」 僕は涼介さんを見上げて尋ねる。涼介さんは肘をついてぐんと僕に近づいた。その表情は近すぎて読めない。 「いつからって言われるとたぶん、一目惚れだった。綺麗な子だと思ったよ。でも、君は離婚調停中だったから気づかないようにはしてた。家族に憧れてるとこはかわいくて純粋な子だと感じた。オメガでもフェロモンに頼らず心のつながりを大事にしているとこは芯の強い子だと感じた。親しみやすい性格とか。君のことを知る度に君が頑張ってきたことを知った。好きなところなんて言い出したらキリがないよ。 まるっと好きだ。何もかも好きだ。俺じゃダメか? 離婚が成立した翌日に伝えるなんて卑怯だけど、俺はナオ君が好きだよ」 涼介さんからは柑橘の花の匂いが降ってくる。怒涛の告白に僕は身じろぎするのも恥ずかしくて固まった。涼介さんの表情を見ようとするが近すぎてかなわない。 僕はどうしたいんだろう。またグダグダ考える悪い癖が出そうになった。そうだ、僕は次こそ自分の気持ちを言葉にして行動にして相手に伝えようと思ったんじゃなかったのか。 もう一度見上げると涼介さんは少し震えている。僕はその震えを止めてあげたいと思った。 涼介さんの背中に手を回す、そして力をぎゅっと込めた。涼介さんは身を任せて抱き込まれてくれた。 「僕はいつも臆病だった、今だってぐるぐる言い訳を考えてた。でも、心臓はうれしくてドキドキ言っている。これが答えだと思ったよ。僕は…僕は涼介さんを受け入れる」 涼介さんが僕を抱きしめる腕に力を込めた。 「ナオ君は男前だな」 僕はフルフルと頭を振る。 「テル君と…同じオメガの男の子と話したことがあるんだ。オメガやアルファの匂いって何のためにあるんだろうって彼は目印だって教えてくれた。その目印を頼りに出会うんだ。一人にならない様に出会うんだって。僕は戦闘服をもらった時から涼介さんの匂いには安心した。懐かしくて好きな匂いだ、だから」 涼介さんの肩をタップすると涼介さんは離れてくれた。改めて顔を覗き込んだ、真っ赤になって可愛かった。僕は頬に手を当ててまじまじと彼の顔を見た。 「涼介さんはかっこよくて可愛い人だね」 「俺の好きな子は綺麗で強くて可愛い子だよ」 しばらく僕らはそのままでいた。涼介さんってばパジャマのままだ。それを指摘するとかっこつかないなってまた照れていた。 リビングで皆が心配してるかもしれないと言うと、涼介さんは少しだけ嫌そうなそぶりをして抱きしめている手に力を込めた。 二人でベッドに並んで座ったあとも最後に…といって手を広げてきたので僕も彼の足の間に立って抱きしめた。 「ナオ君、ナオ。愛してます。俺と付き合ってください」 「涼介さん。よろしくお願いします」 好きだとは言えなかったけど、これからきっと好きになるそんな予感がした。 二人で笑顔を交わすと、僕は連れてこられた時と同じように俵担ぎにされてリビングに戻された。 ただ今回はソファに座る涼介さんの膝の上に横抱きで座らされた。お父さんとお母さん、慎平さんも半目でこちらを見ている。僕は両手で顔を隠す。いたたまれないとはこのことか。 お父さんは一つ咳払いをした後。 「話し合いはうまくいったみたいだね、お赤飯を炊いた方が良いのかな」 「やめてください」僕は間髪入れずお願いした。 慎平さんがぼそっと 「ニヤついている涼介がムカつく、殴っていいかな」 「やめてください」僕は涼介さんの膝から下りて隣に座る。名残惜し気に手が追ってきたが逃げた。 「あの、問題はないのでしょうか…」おずおずと尋ねると。 「問題はないわ、ただそうね。まだ直哉はデータ上だとフリーのオメガになってるから。それを番候補のいるオメガにするために届け出が必要ね」 「それはどういった手続きを・・・」 「婚約するのよ」 僕らはアルファとオメガだ、まさかそんな風に涼介さんに責任を負わせることになるなんて。僕は一気に気持ちがズンッと沈んだ。 「いや、ナオ…そこでその反応はおかしい。こういう時はうれしげに頬を染めてよろしくお願いしますだろ?」 涼介さんが慌てて僕をぎゅうぎゅうと抱きしめながら言い募ってくる。あぁ、呼び方が変わってるな。僕たち付き合い始めたんだなと思ったらつい笑んでいた。 「それだよ、ナオかわいい、もう婚約じゃなくて結婚しよう」 すかさずお母さんに頭を叩かれていた。 「涼介さんのキャラがおかしなことになってる」 「好きな人の前ではアルファなんてみんなポンコツになるのよ」 お母さんはふんっと息を吐く。お父さんがニコニコと笑いながら。 「ナオ君は難しく考えすぎなんだよ。涼介はね、ナオ君に他の誰かに出会って欲しくないんだ。このままにしておけばお見合いをする義務が生じる、ナオ君だって涼介が誰かと出会うなんて嫌だろ?」 僕はコクリとうなずく。 「これからゆっくりと気持ちを育てていくにしても、そういう憂いは晴らしたほうがいい。まずは形だけでも整えようとしているだけだよ。ナオ君、アルファの番の先輩として言わせてもらうと、彼らの行動は極端だ、振り回されることも多いと思う。大概の行動はそういうもんだと思ってあきらめて受け入れた方が楽しいよ」 そして、お父さんは涼介さんの方を見た、少し目を眇めて言い聞かせるように 「ナオ君がとても慎重な性格のなのは分かってるね、何でも二人で話し合うんだ、言葉や行動を惜しんではダメだよ。ことを進めるのもちゃんと確認して進めるんだよ」 最後にと言って咳ばらいをすると僕の目を見て 「アルファの理論はNO以外は全部YESになるんだ。しっかり自分を守れよ」 と言い切った、僕は思わず隣の涼介さんを見上げた。涼介さんはNO以外はYESかとにっこり笑っている。 「じゃあ私、ゆっこちゃんとまぁちゃんに連絡するわ。今日は日曜だから捕まるかもしれないし」 とお母さんが言う。僕がハテナを飛ばしていると、涼介さんが渋い顔をして。 「うちの親、裕子さんと真由美さん。アルファ同士の夫婦なんだ」 僕がぎょっとすると 「捕まったわ、お昼ご飯一緒にすることになったから、あと30分したら来るわ」 「ナオ君、どうだ。アルファは行動が極端だろ」とちょっと得意そうにお父さんが言った。 僕は怒涛の展開にびっくりしているとみんな立ち上がってそれぞれ準備を始めた。 慣れているのか皆の行動は早かった。いつものことなんだろうなと思うのと同時にちょっとついて行けるか心配になった。 パジャマだった涼介さんと慎平さんは着替えに行った。お父さんはお昼に出前をとると言って注文をはじめ、お母さんも身支度があると両親の部屋に入って行った。 僕はと言えば身支度と言ってもチノパンとチェックのシャツだ。これ以外持ってきてない、せめてジャケットとかがあった方が印象が良かっただろうか。 とりあえず、キッチンに入ってお父さんとお昼ごはんの相談をした、奮発してお寿司にしたよと微笑まれたので汁物はお吸い物にする。きのこがあったので具はそれにして。あとは卵焼きを焼いた。取り皿を洗ったり並べたりと忙しく動いた。 ダイニングには身支度が終わった3人が座ってこちらの観察をしている。 僕がそわそわと落ち着かないでいると涼介さんが手招きして隣に座らせてくれた。 「うちの両親はアルファで女同士の夫婦なんだ、子供は俺だけ。まあ、会ったら驚くと思う」 涼介さんは僕の手を握って話してくれた。驚くってどういうことだろう。 「変にナオ君を刺激しないで」お母さんが涼介さんをたしなめる。 「面白い人たちよ、直哉のこときっと気に入ると思うわ」そう言ってお母さんが時計を確認した。

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