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第13話 お母さんたちと甘え方
ほどなくして、涼介さんのお母さんたちがやってきた。
二人とも美人だった、裕子さんは目元が涼介さんに似て目力のある人で鼻も高く凛々しい印象を受けた。ショートカットが良く似合っていて牧野のお母さんと雰囲気が似ていた。真由美さんはボブにした髪と大きな目が印象的で口角が上がったように見える口元が涼介さんに似ている可愛い人だった。全体的に丸っこい印象だ。
玄関で二人を出迎えるとキャーと悲鳴を上げられた。
「初めまして、直哉と言います」とお辞儀をすると。
「直哉君、すごい。二次元から出てきたのかと思ったわ。すごいかわいい」裕子さんはキラキラした目でこちらを見てくる。
「我が息子ながら…面食いね」と真由美さんは僕を上から下まで見るのを2回してからぽそりとつぶやく。
そして、すごい勢いで撫でられた。やばいとか、癖になるとか言いながら牧野のお母さんを二人してバシバシ叩いていた。涼介さんは付き合い切れないという感じでさっさとリビングに行った。僕もお辞儀をして後を追う。
そのうしろを3人がキャッキャ言いながらついてきた。お父さんと慎平さんは慣れたものなのか。ソファでくつろいで出迎えていた。
そして僕はなぜか裕子さん真由美さんの二人に挟まれてソファに座っている。
「あのすみません。大事な息子さんに僕みたいなのが…」と言おうとすると、「ほんと涼介にはもったいないわ」と言い。「バツイチなんです」と言えば「直哉君くらい可愛かったら誰もほっとかないでしょ」と言い返されて。僕の方が圧倒された。ただ、何の偏見もなく受け入れられたのが分かった。
到着したお寿司をダイニングテーブルに並べてお昼ご飯を始める。お吸い物と卵焼きを並べて皆でいただきますをした。僕は初めての出前寿司に感動していた。苦手なものはないかと涼介さんが聞くので無いと言うと僕の分を取り分けてくれた。ありがとうを言って食べる。お店で食べるお寿司だ。感動していると涼介さんがお茶も注いでくれた。至れり尽くせりでふぅーっと息を吐いた。食卓を眺めるとみんな楽しそうに話をしていた。そして、隣を見上げると涼介さんが笑っている、僕と目が合うと笑みを深くする。
お父さんが卵焼きを褒めてくれた。僕が焼いた卵焼きだと聞くとお母さんたちがパクパク食べだしてほんとにおいしいと言って褒めてくれた。涼介さんは僕が鯛をおいしいと言ったら、桶の中の鯛を全部お皿にのせてくれた。
もし、あらたまった席を用意されて二人に会えと言われていたら僕は構えてしまったかもしれない。この人たちのおおらかなところもちゃんと見られずにいたはずだ。この急なタイミングで会えたからこそ涼介さんの両親の素敵なところをしみじみと感じることができた。気づけば自然と受け入れられている自分がいた。これがお母さんの気遣いな気がして持っている箸が震える。
本当にこれがここでの普通なんだなと感慨深く見ている。前触れもなく涙があふれる。涼介さんは周りから僕を隠すように抱きしめた。
「涼介さん、ありがとう」
「安心していい。ここにいるのはみんなナオの家族だ」
涼介さんはいつも一番に気づいてくれた。今だってそうだった。
涼介さんは真っ赤になっていたそうだが僕は腕の中なのでそれは見られなかった。
「やばい、涼介を初めて可愛いらしいって思った」とお母さんたちが興奮していた。
僕はようやく落ち着いて涼介さんの腕をタップした。ゆっくりと離れて心配そうにのぞき込む顔に笑顔を向けた。
「ありがとう、もう大丈夫。泣いたりしてゴメンね」
涼介さんは僕の顔に両手を添えると親指で頬に残った涙のあとを拭いてくれた。
「交際初日なのにこの甘さは何なの、ちょっと馴れ初めを話しなさいよ」
お母さんたちは涼介さんをまじまじと見ながら僕にも目線を送ってきた。
そうして、ご飯を食べ片付けを済ませた後、また皆でソファに座って説明することになった。
そして、話が終わると二人はよく頑張ったねと褒めてくれ、僕らの急な婚約も祝福してくれた。
「涼介のお婿さんなら私たちにとっても子供だからいつでも頼ってね」と握手を交わす。
僕はこの人たちにどうやって返していけばいいのだろう。この幸せを感謝をどう表せばいいのだろう。向かいに座っているお父さんもお母さんも楽しそうに笑っている。涼介さんも僕の手を握って寄り添ってくれている。
「ちょっと寄り道したいから早めにお暇しようか?」涼介さんが僕の耳元に話しかける。僕がうなずくとさっさと帰り支度をまとめて両親に挨拶をする。
僕もお辞儀をしてエレベータへ二人で乗った。扉が閉まると涼介さんが僕をぎゅっと抱きしめてくる。ここでこんな風に抱きしめられるのは2度目だ。でも…僕は涼介さんの背中に手を回す。僕のおでこが涼介さんの肩の位置に収まる。
「ナオ、絶対幸せにするから」
「ありがとう、涼介さん、もしかしたらもうすごく好きかもしれません」
ちゃんと言えてなかったことに気づく。
僕は涼介さんの顔を両手で挟んで微笑んで見せた。じっと見ているとゆっくりと顔が近づいてきた。僕は少しかかとを浮かせてそれを受け入れた。
「俺はとっくに好きだった」
涼介さんがぽそりとつぶやくので僕からもキスをひとつを送った。
涼介さんの寄り道先はあの看板の小さなお店だった。
「俺が送ったチョーカーを付けてて欲しいんだ」
そう言って鍵付きの黒いチョーカーを見せてくれた。どうしたらいいのか迷って、今付けているチョーカーを外した。
「お願い、付けてくれる?」と言ってみた。
涼介さんは後ろに回ってチョーカーを首に掛ける。身じろぎもできず、じっとしているとうなじに唇が当たる感触がしてゾワっとした。そしてカチャリと留め具を止めた。どうやらお願いするのは正解だったけど、どうにも恥ずかしくてうつむいたままの顔があげられない。恥ずかしかったのは涼介さんもらしく僕の肩に頭を乗せて固まってしまった。
それがおかしくて今度は笑いがこみ上げてくる。
僕らは少しずつ二人で思い出を作っていく、全部こんな風に笑顔で埋め尽くされればいいのに。
シェルターまでの海沿いの道は夕焼けに赤く染まっていた。あっと言う間の二日間だった。落ち込む間もないくらい。それどころか…運転する涼介さんの横顔を見る。この前はちらりと盗み見たのだけど。今回はじっくりと見てみた。この気遣い屋で照れ屋な涼介さんが好きだ。
まさか離婚が決まってすぐ婚約者ができるとは思わなかった。
シェルターに入る道の前で車が止まった。涼介さんの方を見ると
「シェルターに入ってからだと話しづらいから、今日はありがとうこれからもよろしく」
そう言って頬を撫でられた、熱をはらんだ目でこちらを見ている。シートベルトを外して涼介さんの方に身を乗り出せばキスを返された。唇は離れたのに頬に添えられた手が離れないので目を開くと優しげな目をした涼介さんがこちらを見ていた。またゆっくりと目を閉じると、唇を何度も啄まれた。また離れていく気配に目を開ける。
涼介さんは僕の肩に手を置いて大きくハァーっと息をした。これ以上は我慢が利かなくなる。と言って親指で僕の唇をふにふに撫でる。
お互いシートベルトを締めた。シェルターまでの道は僕のドキドキが聞こえるんじゃないかと思うほど静かになった。涼介さんは駐車場に車を止めると僕をエレベーターの前まで送ってくれた。
自分の部屋に入って改めて深呼吸する。ベッドに乗り上げてバタバタしてしまった。冷静になってベッドの端に座る。スマフォをチェックすると、テル君からメッセージが来ていた。
テル君は無事水原さんと番の登録が終わったそうだ。連絡が卒業から5日かかったのはそういうことらしい。3年半の思いのたけをぶつけ合ったのだろう。テル君が幸せで良かった。
次の日の朝。10時きっかりに赤木さんは現れた。
「ナオ君。お疲れ様、報告聞いたわよ」
そう言って僕の肩をバシバシと叩いて椅子に座る。
「それより、まずは報告ね、吉田君と水原さんは無事婚姻届を受理され同時に番登録がすみました」
赤木さんは僕の手を一度ぎゅっと握って。
「ヨシヒロさんはご実家に帰られました。ナオ君が彼の帰る場所を作ったからよ」
僕はじっと赤木さんを見た。
「多分知りたくはないだろうけど、浮気相手の女性ですが今は国の保護下でアルファの方と生活されています。お子さんもネグレクトされていたので国で保護しました。お子さんはオメガの男の子だったそうです。ヨシヒロさんが女性の元に通われていたのも、そのお子さんが気がかりだったみたいですね」
僕は手をぎゅっと握って指先を見つめた。
「あの人がかわいそうなオメガって言ってたのは相手だけじゃなかったんですね」
赤木さんは膝をポンポンと叩いて
「それが免罪符になるとは思いませんけどね、離婚は成立しました。ここまでよく頑張ったわね。私はナオ君が誇らしいわ」
そして、コホンっと咳ばらいをすると。
「私分かっていましたよ、ナオ君が戦闘服を買いに出た時あれ?威嚇フェロモンを感じるぞ?となりました。そのあと、養子縁組の手続きでナオ君の実家に帰る時。普通はあそこまで付いて行って世話することなんてないんですよ。手続きだってすごい勢いで整えていくし。牧野さんのご実家に報告に行くのだって…一人で行けよと思いましたし…とにかくこいつナオ君に気があるなって言うのはバレバレでしたね…」
赤木さんは少し意地悪そうな顔を作ってみせる、僕は顔を覆ってうつむいた。
「僕が涼介さんを…好きになったんです」
赤木さんはぷっと笑って。
「そう言えるのね、良かった。ナオ君が幸せなら私はなんでも構わないわよ。婚約おめでとう」
赤木さんにはかなわないと思った。僕は真っ赤な顔のままだけど笑って見せた。
赤木さんが退室した後、少し仕事をして。そのあと教習所に行った。
午後の学科の授業が終わるとスマフォに涼介さんからメッセージが来ていた。
”迎えに行っていい?”
この人はちゃんと仕事ができてるのかと怪しくなるが、今日も会えると思うとニヤけてしまう。教習所の終わる時間を送った。
教習所からシェルターまでは車で20分、話しているとすぐに到着してしまった。シェルターの手前で車を止めると。涼介さんは紙を一枚見せてくれた。正式にアルファオメガの婚約手続きが終わったことの証明書だった。
「僕達ほんとにフィアンセなんですね」
証明書を見て涼介さんを見ると優しい顔をしてこちらを見ていた。
「もっとゆっくり口説いてナオを俺に夢中にさせてから指輪を渡して婚約したかったけど」
そう言って僕の手をぎゅっと握る。僕はその手を握り返して
「僕は涼介さんにちゃんと夢中です…よ?」
涼介さんはハンドルに突っ伏した後、手早い動きでシートベルトを外して僕にキスしてきた。目を閉じるのも間に合わず顔が近づくところを全部見てしまった。まつげ長いなとか。鼻高いなとか…唇が暖かくて柔らかいなと思ってじっと見た。
「年上なのに余裕が無くてごめん」
そう言って僕の肩に頭をすり寄せた。髪が耳に当たってくすぐったい。
涼介さんは気を取り直してシェルターの玄関に降ろしてくれた。
玄関に入るとちょうどミカ先生とばったり会った。ミカ先生はギャッと言う声を上げた後、僕を引っ張って診察室に押し込んだ。椅子に座らせるとバイタルチェックとフェロモンチェックの機材を準備してぴっぴっと計測を始めた。
「ナオ君、フェロモン値が正常値の上限だわ。何かあった?」
そう聞いて僕もぎょっとした。何もない、キスだけだ…思い出して赤面した。
「その顔は…うん、よほど相性が良いみたいね」
「相性が良い…」
「そうやってうれしそうな顔をされると言いにくいのだけど、相性が良いアルファと一緒にいると抑制剤が効きにくくなるの。より強い抑制剤ってことにはできないからね。体に対する負担が半端ないんだから。ある程度慣れればこんな風に過剰に反応しないんだけど…」
ミカ先生はふーっと息吐いて。
「徐々に慣れるのが一番だけど、どうしても会うならできるだけフェロモンの影響を他に与えない密室でってなるわねぇ、私のナオ君が大人の階段上っちゃう、逆に危ないわねえ」
僕は真っ赤になってうつむくしかなかった。
「ふたりそろって診察室に寄るように言ってるって伝えて」
と言われてから僕は自分の部屋に帰された。
部屋に戻って手と顔を洗った。
明日は平日だし、週末でもいいのかもしれない。でも「頼って欲しい。甘えて欲しい」そう言う涼介さんの顔が浮かんだ。…スマフォで涼介さんにメッセージを送った。
早速スマフォには涼介さんから“ナオの方から連絡くれるのすごくうれしい。明日朝一で寄るよ”と返事が返ってきていた。
遠慮しなくてよかった。だけど、僕はまだ甘え方が分からない。でも涼介さんは全部受け止めてくれる人だと言葉と態度で示してくれる。きっと、少しずつでいいんだ。
次の日、朝一番に涼介さんと二人でミカ先生の診察を受けた。
僕のフェロモン値を見て「あらあらっ」と言い。涼介さんのフェロモン値を測って「うーむ」と言っている。ミカ先生はワザとらしくコホンッと咳払いをして。
「テル君はオメガ性の未熟な時期から水原さんに徐々に慣れてきたからね。こんな風に過剰にフェロモンが反応することはなかったの。だけど、あなたたちはもう十分成熟しているから、一緒にいるとお互いにフェロモンが刺激し合って数値が上がってる。このままだと、ナオ君を外に出す許可が出せなくなりそう」
ミカ先生はカルテをトントンと叩きながらうなる。
「僕はどうしたら…」
「慣れてないから反応が良いのよ。2.3日一緒に過ごせば落ち着くと思うんだけど…」
涼介さんがキランと目を光らせた…ように見えた。
「じゃあ、ミカちゃん外泊許可を週末まで出してくれ」
ミカ先生はうなだれた。カルテをトントンする音がすごく早くなる。僕はどぎまぎしながら二人を交互に見た。
「どこに泊める気?」
ミカ先生が睨むように涼介さんを見た、涼介さんは意に介さず
「俺の…家?」と答えて間髪入れず「許可できません!」と言い合いになっていた。僕は話の方向を見守っていると、最後には「じゃあ、まっきーん家は?」となった。
ミカ先生が顔を上げてすぐ電話をかけ始めた。涼介さんを見上げると嬉しそうに表情を緩めている。「ミカ先生と仲いいんですね」と言うと「妬いた?俺も幼馴染だよ」と言って頭を撫でてくる。
「はいはい、いちゃつかない。木下の緩んだ顔なんて一生見ることないと思ってたわ。牧野さんに確認と許可が取れました。3日したら帰ってくること。分かってると思うけど、これは医療行為だからね。シェルターの規則には従ってもらいます、分かってる?」
ミカ先生はまたもコホンと咳払いをして
「じゃ、木下さんはさっさとお仕事にお戻りください。ナオ君は牧野のお父さんが迎えに来るので」
そう言って診察室から涼介さんは追い出された。すごく悲しそうな顔をしたのに笑ってしまった。
よかった、仕事に支障がでることはなさそうだ。僕は手を振って見送った。
「ナオ君、いろんなことがどんどん急に決まってしまっているけど、大丈夫?困ったら相談するのよ」
そう言って、携帯用のフェロモンチェッカーの使い方の説明をしてくれた。いったん部屋に戻った、僕も仕事があるのでパソコンの周辺機器とパソコンをカバンに詰める。
何もかもがすごい勢いで決まっている。でも、苦痛に感じないのは僕にも選択肢を見せてくれるからだ。決められたんじゃなく決めていくんだと分かるから。
それにしても、慣れるって何をするんだろう。
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