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第15話 誕生日会と彼の家

誕生日会の当日のお迎えはお母さんだった。お母さんは真っ赤な外車で僕でも知っているエンブレムはキラキラと輝いていた。 到着した牧野家の駐車場は車でいっぱいだった。 僕とお母さんは応接室に入ると拍手で迎えられた。子供たちに手招きされてかがむと王冠をかぶせてくれた。見回すとみんな揃っていた。 口々におめでとうを言われた。ほんとにこの24年間分を一気に取り戻すようなおめでとうに。胸が震える。赤木さんとミカ先生が「私たちも到着して風船膨らませたのよ」とうれしそうに報告してくれた。ピンク色の風船がふわふわとたくさん飾られていた。「お祝いの準備ってほんと楽しいわ」とにっこり微笑んでくれる。 僕はエスコート係と言う役をもらった小学生たちにお誕生日席と言われる一番奥の席に座るよう案内された。椅子まで引いてくれて素敵なジェントルマンだ。 机の上にはごちそうが並んでいて、僕の好きなものを並べてくれている、鯖みそとお味噌汁まであってこれは赤木さんの提案だろうなと笑ってしまった。ホットプレートが用意されていてお好み焼きとパンケーキも焼くそうだ。これは小橋君と慎平さんと涼介さんと食べたあの鉄板焼きのお店と朝のビュッフェを思い出す。今日は手巻きずしも準備されていて。僕は初めてだったのでおたおたやっていると。小学生組のお兄ちゃんたちが僕の所へ来て巻き方を教えてくれた。 和気藹々としたムードが漂う。 ここにいるみんなは僕が半年前まで知らなかった人たちだ。この半年で仲良くなって友達になって家族になった。人とつながるのは時間じゃないんだなとしみじみ思う。 牧野家5兄弟が組み立てた特設ステージに僕は上った。 「プレゼントタ――イム」って小橋君がいつの間にか司会っぽく仕切っている。 牧野家一同からは温泉旅行をプレゼントされた。旅行すら行ったことが無いのに温泉なんてハードルが高い気がするがみんな力強くうなずくのでたぶん大丈夫だ。あとで、お母さんに教えてもらおう。 シェルターのみんなからは旅行用のピンクのスーツーケースをプレゼントされた。そう言われれば僕はシェルターに来た時も段ボールとカバンだけだった。旅行カバンなんて持ってない。カオリさんがニコニコとみている。きっと彼女の発案なんだろうな。 水原さんとテル君は水原さんの絵本に出てくるキャラクターのおおきなぬいぐるみをくれた。もちもちの手触りで抱き心地がよくてすごく癒される。二人らしいプレゼントだ。牧野の奥様たちがざわついて、水原さんを二度見している。きっと、彼女たちも今絵本作家の水原さんと認識したんだ。今日の水原さんはオレンジの髪にMA-1だ、かっこいい。 涼介さんの両親も駆けつけてくれていた。 大きなリボンのかかった小さな箱を手渡された。「部屋に戻ったら開けてね」と言われたので楽しみが増えた。 最後に涼介さんからだ。すごくカッコつけているのが分かる。目が合うと優しく微笑んでくれた。僕の前まで来るとゆっくりと跪いて12本のバラのブーケを捧げてくれる。僕が受け取るとビロードのケースを恭しく掲げた。ペアリングが収まっていた。 「ナオ、順番が逆になったけど、俺と結婚を前提に付き合ってください」 と。僕を見上げてくる。すごく優しい目をしてちょっと照れているのか目元が赤いのも可愛くて見入ってしまった。小橋君に「返事」っと促されるまで二人で見つめあってしまった。 「僕こそ、涼介さんが大好きです。よろしくお願いします」 一番最初の告白には言えなかった大好きという言葉を言えた。言ってしまうと胸がいっぱいであふれだしそうだった。涼介さんは立ち上がって僕の指にリングをはめてくれた。僕もビロードケースからリングを取って涼介さんにはめる。まるで結婚式みたいだ。にっこり笑う涼介さんと目が合った瞬間。視界がぐんっと高くなった。太もものところを抱えられて抱き上げられたのだ。涼介さんにしがみつくとまわりから指笛が響く。 もう抑えられなかった、あふれたものは涙に変わる。こんな風に祝われるなんて最高だ。 僕は辛いことや悲しいことには強かった。でも、温かいものに触れるとこんなに弱く脆くなるんだと知った。 僕は少し気が大きくなっていた。人前なのに抱き上げてくる涼介さんの頬を両手ではさんでキスを落とす。ありがとうと大好きの気持ちを込めたキスだ。 より一層まわりの冷やかす声が大きくなった。 僕は抱きかかえられたまま誕生日席に座る涼介さんの膝の上に座らされた。いまさらになってすごく恥ずかしい。そう思うと涼介さんが頭にキスを落としてくる。うつむくなって言ってるみたいで恥ずかしながら顔を上げる。みんなの見守る顔が、会話を交わす顔が優しくて…ちゃんと見て記憶に留めておこうと思った。僕は小さく涼介さんに「ありがとう」と言う。涼介さんは「ん?」って言うけどにっこりと笑って返した。 眠くなった小さな子たちもいてお誕生日会はゆっくりとお開きになって行った。 テル君たちやシェルターのみんなもまたねと手を振って帰っていく。 最後まで残ったのは涼介さんのお母さんたちと僕らと両親だった。みんなで両親の家に帰ることにする。片付けはプロが来てするからとお母さんが言うので僕は風船と輪飾りを記念にもらう。宝物が増えた。 リビングに入ると僕はまた涼介さんのお母さんたちに挟まれる形でソファに座った。お母さんは僕に先ほどくれた小さな箱を開けてと僕の膝をポンポンと叩く。綺麗に結ばれたリボンを丁寧にほどく。箱にはピンクのクッション材が敷き詰められていて、見たことのない金色のカードが一つ入っていた。僕は良く分からなくてお母さんたちの顔を交互に見た。 「これ、いつか涼介と二人で使いなさい」 そう言うが、僕はそれを聞いてもピンとこない。だけど、涼介さんはピンときたみたいでみるみる顔が赤くなった。 「言っとくけどそれセクハラだからな!」と叫んで僕の手のひらからカードを奪う。まじまじと見ながら、「これあそこのホテルのかよ」とか言いながらポケットにしまいこんでしまった。ただ涼介さんがすごくうれしそうな顔だったので お母さんたちに「ありがとうございます」と深々とお辞儀をしてお礼を言った。 「うちの子のためでもあるからね、ふふふ」と意味深な笑いをしていた。 「あ、それより。涼介さん。リングのサイズぴったりだった。すごいどうしてわかったの?」 そう、今日もらったリングは僕の指にぴったりだった。涼介さんはすごいと褒めたかったのだが。 「寝てる間に計った」 と言われたのでたまらず顔を手で隠した。初日かあの夜か!涼介さんがニヤリと笑って 「結婚指輪は二人で選ぼう」 と言うので僕は両手で顔を隠したままコクリとうなずく。うなずいた後で意味をじっくり咀嚼してまたさらにうつむくしかなかった。僕の大好きな人はなんでこんなにかっこいいんだろう。 「アルファの囲い込みね。独占欲が隠せてないわよ」 「直哉君、監禁されないように注意しなさいね」 とお母さんたちが口々に言う。 「そうそう、道子さんも紘一さんを監禁したことあるし…ね?」 「あれは紘一さんがオメガの女の子に迫られてたのが原因よね」 「僕はずっと、道子さん一筋だよ」 お父さんは困ったようにニコニコしている。大人の男の人がのろけているのを初めて見た。素直に言葉にできているのはかっこいいと思った。 お母さんたちはひとしきり話をした後、帰って行った。そして僕らはまたそれぞれラグの上でゴロゴロしたりソファで読書をしたりと自由に過ごした。 僕はもらったプレゼントを部屋に飾ることにした。机の上に花を飾って、スマフォで12本のバラの意味を検索した。ベッドに乗り上げて枕の上のところに輪飾りを飾る。テル君たちからもらった大きなぬいぐるみを抱きしめて眺めていると涼介さんがやってきた。僕の後ろに回って抱きしめてくる。そのまま涼介さんの長い脚が僕を囲うように回されるので、ぬいぐるみは手放して三角ずわりをしておとなしく囲い込まれた。 「ナオ、余裕が無くてゴメン」 そう言って僕を横に向かせた後。あごをとってキスをしてくる。暖かくて柔らかな感触を唇に感じて目を閉じると、涼介さんの舌が僕の唇をノックする。おずおずと開いた口に涼介さんが舌を差し込むので舌先でチロチロと返すとキスが深くなる。いつもは優しい動きなのに今日は切羽詰まった感じがする。歯の裏や上あごをくるくると舐めて舌の付け根までべろりと舐めてきた。どちらのだか分からない混ざり合った唾液をコクリと飲み込むさらに強引な攻めたては続く。僕の舌裏をなぞって誘うように涼介さんの口内に誘い。僕の舌を甘噛みしたり、扱くような動きで翻弄してきた。混じった唾液を涼介さんがコクリと飲み込む音が恥ずかしい。翻弄される舌にびくびくと反応しながら受け入れる。キュンキュンとお腹にひびいて目元に涙がたまる。 なんとなくわかる、これは前戯のキスだ。 「ナオは分かってなかったけど、うちの両親が渡してきたのはヒート用のホテルのカギだ。次のヒートは俺を呼んで欲しい」 僕はぼーっとしていたけれどその言葉に覚醒した。先ほどのやり取りを思い出してさらに顔に熱が集まる。僕のおでこにおでこを付けて涼介さんは返事を待ってくれている。ピントのあった耳が真っ赤なのは見えた。 こんなに僕を求めてくれる人が僕が好きな人だなんて、僕はなんて幸せなんだ。ただすごく恥ずかしい、涼介さんが顔中にキスを繰り返す。 「あぁ、ダメだ」 涼介さんが固まる。僕は自分の失言を慌てて訂正する。 「いや、ダメって言うのは僕はなにもかも涼介さんに言わせてばかりいる。僕だって涼介さんを好きなんだ。僕が涼介さんと一緒にいたいんだ」 涼介さんが顔全体で笑顔になった。両手でその顔を挟むとチュッと音を立ててキスを送る。照れくさくて涼介さんの肩に顔をうずめるとぎゅうぎゅうと抱きしめてくれた。 「涼介さん、僕の側にいて、次のヒートは一緒にいて欲しい」 「ナオはちょこちょこ男らしい部分が出てくるね、そういうところがすごく好きだ」 涼介さんは僕を座らせると隣に座る。 「明日はうちに来ないか?」 僕は涼介さんの顔を見た。だけど…ミカ先生と小橋君の顔が浮かんだ。 「シェルターの規則内なら構わないはずだ」 涼介さんは僕の指にはまったリングをなぞる。 「楽しみにする…」 涼介さんはにっこり笑ってまた二人でリビングに戻った。 お母さんは観光雑誌を持って待ち構えていた。旅行なんて行ったことが無いと言うとぎゅっと抱きしめられた。準備は全部手伝ってくれることになった。 次の日の朝。お母さんのリクエストでフレンチトーストを朝食に用意していた。ベーコンともやしのスープはコンソメ味にして蒸し野菜を用意した。冷凍庫からバニラアイスをチルド室に移動させているとのっそりと家族がダイニングに集まる。 4人揃っていただきますをした。涼介さんがしっかり着替えを済ませて着席したのでお父さんが何かを察しているのが分かる。 「今日はナオに俺の家を案内します」 お父さんは涼介さんに帰宅時間の確認をして行っておいでと言ってくれた。お母さんは僕と買い物に行きたかったと唇を尖らせたが平日ならいつでも空いてると言うとスケジュールアプリを開いて予定決めていた。 食事の片付けをしているとリビングで涼介さんが僕の行動をずっと見ていた。大きな犬がマテをさせられているみたいで可愛かった。 エプロンをお父さんに預けてお待たせと言うと。嬉しそうに抱き着いてきた。 「もう尻に敷かれてるねぇ」とお父さんがぼそりとつぶやいたのは僕にしか聞こえてなかったみたいだ。 牧野家の5階建マンションと言う名の自宅は郊外にあったが涼介さんの家はそこから車で20分走った街中にあった。駅前らしくシェルターからなら電車でも来られるよと教えてくれた。このマンションは涼介さんのお母さん真由美さんが学生の時、親にもらったマンションを引き継いだらしい。僕はとりあえず見上げてみた。牧野家の家にもびっくりしたけど。涼介さんの家もびっくりだ。 エントランスに入るとコンシェルジュと言う人が出迎えてくれた。電話一本でなんでも叶えてくれるすごい人らしい。 セキュリティがしっかりしていて出入りも登録が無い人は入れないらしく。僕が一人で来ても涼介さんの部屋に入れるようにと登録することになった。 事前に身元確認等の手続きは済んでおり今日は指紋と顔写真の登録をした。これで本登録されたと言われて、手渡されたキーは金属のプレートで木下とアルファベットで書いてあった。エレベーターに乗ってもこの金属のプレートが無いと涼介さんの階には止まれないようになっている。 エレベーターに乗ってプレートを扉近くの黒いパネルにかざす。するとエレベーターが勝手に動き出した。涼介さんの方を見て驚いて見せると頭を撫でられた。 涼介さんの後について玄関を入る。鍵も同じ仕組みで金属のプレートを差し込んで指紋を読み込ませると開くそうだ。 涼介さんが暮らす部屋は1LDKと言う間取りで玄関横にシューズクローゼットがあり。右手にトイレとバスルーム、奥に行くとリビングダイニングがあった。その隣に部屋が一つあってベッドルームだそうだ。普段は寝るだけにしか使っていないと言っていたが、生活感はあるものの綺麗に片付いていた。 リビングのソファに座るように促され座っているとキッチンから涼介さんが飲み物を持ってきてくれた。 「うちにナオがいるのが信じられない」 そう言ってソファに座る僕をじっと見てくるのでちょっと照れた。 涼介さんは動きを早くしてぐいぐいと僕とソファの背もたれの間に入ってきて僕を抱き込んだ。僕はどうしていいか分からずにじっとしていると涼介さんから柑橘の花の匂いがした。僕が鼻をひくりとさせたことに気づいた涼介さんは 「今日は抑制剤を少しセーブしたんだ、ナオがこの匂いが好きだって言ってくれたから」 涼介さんは僕の首筋をスンっと嗅いで。 「やっぱり、ナオはリンゴの匂いだ」 そう言って抱きしめてくる力を強くした。涼介さんの匂いに気持ちがふわふわした。 「ナオは良い匂いだな…」 涼介さんは体をずらして僕を向かい合うように抱えた。あごをくすぐられて顔を上げると涼介さんの唇が僕の唇に合わさった。僕は離れて欲しくなくて両手で涼介さんの頬を挟む。涼介さんの指がうなじのチョーカーの留め金を上下になぞる。さらに心臓がどきどきしてふわふわする。後頭部を支える手に力がこもる、それを合図に僕が口を開くと涼介さんの舌がゆっくりと入ってくる。いつもより甘く感じる涼介さんの味に舌が溶けてしまいそうだ。「ん…」と声が漏れる。 「俺はナオが好きだ。ナオは自分がどれだけ魅力的か無頓着だから怖いんだ。こうやって早急に周りから囲い込むようなやり方だって卑怯なのは分かってる」 そうやって一気にしゃべるとまた、口をふさぐ。ぬるりと口内をなめまわしたあと。 「俺は…一緒に暮らして、一緒にヒートを過ごして、番になりたい」 ぎゅっと抱きしめられると涼介さんの匂いが濃くなってくらくらする。 「僕はちゃんと涼介さんを愛せてる?僕はしてもらうばかりで今だってどうしたらこんなに好きなことを伝えられるのか方法が分からない」 「大丈夫、伝わっているよ」 その言葉の後、涼介さんの満開の笑顔を見たらふわふわが止まらなくなった。 だんだんと声も遠くなって僕はそのまま寝てしまった。 目が覚めた時。僕は涼介さんのベッドに寝ていた。涼介さんは僕の腰に手をまわして向かい合うように寝ていた。メガネが取ってあって視界はぼやけていたけど、間近にあった黒々とした長いまつ毛と鼻筋がきれいで見とれてしまった。 もぞりと涼介さんが動いたので慌てて目を閉じる。涼介さんが親指で頬を撫でるのでくすぐったくて笑ってしまった。 「ナオ起きたの…?」 ゆっくり目を開けると少し心配げな涼介さんがこちらを見ていた。 「うん…おはよう、僕…寝たね」 涼介さんは僕を引き寄せて胸に囲むと。 「寝てるナオも可愛かった。ごめん、俺がちょっと興奮してフェロモン出しすぎたみたいだ」 「大丈夫、僕涼介さんの匂い大好きだから」 それから僕らはお父さんとの約束の時間までベッドの上で未来の話をした。 子供は二人欲しいねとか。男の子なら涼介さんに似て女の子なら僕に似るといいとか。僕は女の子も涼介さんに似た方が良いと思うって言い返した。たまにキスをして。僕が小橋君にもらった浴衣のネタバラシも聞いた。来年はあれを着て二人で夏祭りに行きたいねとか。 こんな風に未来を描くことができるなんて。 時間通りに牧野家に帰った。 お父さんのフェロモンチェッカーは振り切っていて怒られた。二人してニコニコしていたら頭を乱暴に撫でられた。最後まではしていませんと言うと涼介さんはぶっと吹き出し、お父さんは微妙な笑顔だった。

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