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第3話

 ある日の夜中。  自室として与えられた部屋。そのベッドの上に、シャノンは座り込んでいた。  かすかに熱を帯びた鋭い視線の先には、銀製の貞操具がある。はだけさせた寝巻きの間から顔を覗かせているソレは、何者をも拒む鎧のよう。 『君が不貞行為を働いたら——』  主人の話を思い出すと、シャノンは両目を固く閉ざした。  今日まさに、フェリックスが案じていた事態を起こしそうになったからだ。  ランガスター家のメイドに、リスティナというのがいる。年はシャノンより下で、無垢な笑顔が可愛らしい。  出会った頃から、彼女のことを好ましく思っていた。仕事仲間としてだけでなく、友人としても仲良くなりたい……などと考えていた。  今日も何となく彼女の姿を目で追っていた。その時、体がジワジワと火照り、陰茎を強張らせてしまったのだ。  恋人ですらない女性に欲情した。その事実が、シャノンを自己嫌悪に追いやった。  貞操具を着けさせられてから二十日経っている。その間、洗浄のために何度か貞操具を外されたが、終わればすぐに装着させられてしまう。  シャノンも人間だ。それ相応の肉欲があり、夜な夜な手淫をすることもある。  貞操具によって自慰も禁じられた体は、切なさを覚えていた。仕事をしている時は性欲を忘れられたが、こうして1人だけの空間にいると、浅ましい欲望に駆られてしまう。  今日、欲望を他人に向けてしまった。 『ランガスター家の顔に泥を塗ることになるからな』  再び主人の言葉を思い出し、理性がキュッと冷える。それに反比例して、肉体は更に昂る。  シャノンは飢えを自覚していた。それを裏付けるように、ペニスの先はいつも湿っている。  意識の底に鎮座していた肉欲が、恐ろしい魔物と化し、牙を剥いた。  ほんの少しだけ強張っていた陰茎が、一気に膨張する。しかし貞操具に押さえ込まれ、完全に起立させられない。  恥肉が内部と擦れ合って、微弱な快感を覚える。まるで、ペニスの存在を忘れさせまいとしているかのよう。  呼吸を跳ねさせる。熱を帯びた貞操具を握り、自慰をするように擦る。しかし、貞操具によって、すべての刺激を拒まれる。  直接扱きたい。伸び伸びと起立した自身のペニスを、思うがままに弄んで、絶頂に至りたい。  もどかしさが、シャノンを浅ましい行為に駆り立てたさせた。  クッションのうちの一つにタオルをかける。それをベッドに置くと、うつ伏せになって、貞操具をグッと押し付けた。 「……ッ」  シャノンは眉間に深いシワを刻んだ。  ゆっくり、ゆっくりと腰を揺らす。性器を貞操具越しにクッションに押し付ける。すると、弱々しい感触が伝わり、えも言われぬ心地よさを覚える。  情欲の吐息を漏らす。ドクン、ドクン。と心臓が脈打ち、体がじんわりと汗ばむ。  ふしだらな行為によって得られる悦びに|縋《すが》る。まるで、溺れた人間が藁をも掴むように。  ……このような事をしていると知ったら、フェリックス様は失望するだろうか。  自慰のさなか。シャノンの脳裏をよぎったのは主人の顔だった。  主人であるフェリックス・ランガスターは、凛々しい青年だった。  頭髪はカラスの羽毛のように美しい。黒い瞳には青色が差していて、吸い込まれそうなほどの魅力がある。  昔、剣術を習っていたらしい彼の体は引き締まっている。  そしてあの声。上品でありながら、何者をも屈服させるような毅然とした声。生まれながらにして人々の上に立つことを運命付けられた彼だからこそだ。 「はぁ……はぁ……ッ」  従僕として、主人のことを想うのは当然のこと。  しかしシャノンは、忠誠心だけでなく、恐れを抱いている。  その理由は貞操具だ。従僕になるためとはいえ、性の一切を封じられることは、若いシャノンにとっては、あまりにも惨いことだ。  シャノンを悩ませる貞操具。その鍵を持つのはフェリックスだけ。 「ふぅ……ッ、う……」  体の一部を奪われたシャノンは、本能的な恐怖を覚えていた。決して彼に失望されてはならない。キャリアはもちろん、性の自由も奪われるような気がするからだ。  自慰を、いい加減にやめなければ……!  クッションに体をゴシゴシとこすり付けていたシャノンは、屈強な理性でもって、淫らな行為をやめた。 「んん……!」  ペニスの疼きを感じながら、シャノンはゆっくりと体を起こす。クッションと排尿用の穴を結ぶ銀の糸が、名残惜しそうにプツリと切れた。

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