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第2話 神々の御饌
ユーリィン大陸、東の最果てにある国、中津公国。狭間はさらに東、海に浮かぶ孤島だ。
海の向こう側に神世があるといわれる。神々の祠は神世への入口だ。
「根菜の煮付けから仕込んで、フカを煮付けて、蜜菓子かな。今日の蜜菓子は何にしよう」
ワクワクしながら、晴は仕込みを始めた。神様の食事を作る時は、いつだって楽しい。
狭間の御厨守はたった一人だけれど、苦だと思ったことはない。むしろ、自由にできる環境が気に入っている。
「だけど、最後は僕が、食べられちゃうかもしれないんだよね」
狭間に残る言い伝えだ。
神様の御饌の最期は御厨守自身。
本当なのか、ただの言い伝えかは、わからないけれど。それだけが、少し怖い。
「ダメダメ、余計ないこと、考えない」
ペチペチと自分の頬を叩いて、晴は料理を続けた。
「よし、できた!」
それぞれの料理を更に盛り付けると、晴は机に向かった。
「えっと。土の神様へ。今日のビックリ根菜の煮付けは山科ごぼうとひょうたん人参とコロコロ里芋です。油揚げも入れました。食べる時の仕掛けをお楽しみに」
食事に添える短冊を認める。
「食べる前に花火が上がる仕掛け、楽しんでもらえるかな」
ビックリ根菜に使っている野菜は目を覚ますと逃げ出すから、食べる前に野菜を驚かす。そのための仕掛けは毎回、趣向を凝らす。今回は花火だ。
土の神は、いつもこの御饌を頼んでくれるから、きっと気に入っているんだろう。晴も毎回、仕掛けを考えるのが楽しみだ。
「それじゃ、次。蜜菓子だね。お饅頭の白餡にカナリア蜜を練り込みました。トロっとして甘いです……っと。花の神様と春の神様はお茶会とかするのかな。楽しそうだなぁ。うふふ」
カナリア蜜の濃厚な甘さをお楽しみください、と短冊に書き添えた。
晴は、夕暮の神の短冊を手に取った。
「うーん。僕と同じだと、変わった食事になっちゃうんだよね」
作り上げた食事を、晴は眺めた。今日の晴の食事は、お好み焼きとおにぎりだ。
晴の料理の師匠は、日ノ本という異界から来た人間だった。師匠が教えてくれる食事は初めて見るものばかりで、どれも美味しかった。
今でも大好きで、自分でもよく作る。けれど、中津国では一般的でない料理も多い。
「僕にとっては美味しいけど、夕暮れの神様も美味しいかな。気に入ったから注文してくれているのかな」
味も然ることながら、見た目も地味だ。他の神への御饌に比べたら見劣りする。それも気になる。
「神世の食材で作っているし、問題はないだろうけど」
神様の御饌は基本、神世から降りてくる食材で作る。常世にはない食材ばかりだ。足りない調味料は、晴が自分で手作りしている。
「せめて、夕暮の神様の分は、鰹節とマヨネーズ増し増しにしよう」
おにぎりの具材も、ちょっと贅沢にしてみた。
「今日の御饌は、僕のお師匠様の故郷にある料理です。美味しく食べていただけますように」
短冊に認めて、夕暮の神の食事に添える。
「さぁ、神々の祠に運ぼう」
作り上がった料理を御饌台に乗せると、晴は祠に向かった。
森の中に高くそびえる岩窟、その真ん中に大きな口を開けた洞窟に入っていく。
洞窟の中に光は届かない。鉱石のような光が青や赤、黄と輝いて美しく周囲を照らす。幻想的な空間で、美しい。
御饌台の戸を開いて、晴は両手を上げた。
「神様、御饌をお供えに来ました!」
晴が声をかけると、白い光の柱が天井から降り注いだ。御饌が淡い光に包まれ、ひと皿ずつ溶けるように消えていく。白い光が戯れるように踊った。
「光がぴょんぴょんしてる。喜んでくれたみたい」
白い光が消えると、洞窟内はいつもの鉱石が光る洞穴に戻った。
「これで終わりっと……あれ?」
ひらひらと、短冊が一枚、天井から舞い降りてきた。
『今日も素敵な御饌をありがとう。いつも楽しみにしています。夕暮の神』
じわりと、胸に温かさが広がった。晴は短冊を胸に抱いた。
「お好み焼きとおにぎり、気に入ってもらえたんだ。良かったぁ」
その場で静かにぴょんぴょん跳ねる。尻尾が自然と揺れた。こんな風に神様からお礼を言ってもらったのは初めてだ。
「嬉しいな、嬉しいな」
短冊を胸に抱いて、光が収まった天井を見詰めた。
「夕暮の神様、どんな神様なんだろう。お話してみたいな」
御厨守が神に会う機会はない。狭間から神世に入る方法を誰も知らないからだ。それでも、いつかそんな日がきたらいいと、心の中で願った。
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