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第9話 イチゴのアイスクレープ
この日は朝御饌の短冊が少なかったので、支度が早くに済んだ。お昼ご飯も早めに済ませた。
「時間もあるし、材料もあるし、作ろうかな」
晴は家の中に白瞑を探した。朝一番で干したシーツが乾いたからと、晴の部屋のシーツを変えてくれている。
「白瞑様、いる?」
晴は自分の部屋の扉を開けた。棒立ちになった白瞑が、壁に釘付けになっていた。
「どうしたの?」
晴の姿に気が付いて、白瞑がビクンと肩を揺らした。
「な、なんでもない」
白瞑がそそくさとシーツの交換を始めた。
「僕も手伝うね」
「晴は休んでいて、いいよ」
「二人でしたほうが、早いよ。一緒にやろう」
「……うん」
呟いた白瞑の顔が、俯いている。その頬が、心なしか赤く染まって見える。
「あのね、晴……そこの、壁の」
「うん? なぁに?」
顔を寄せたら、白瞑が思いっきり仰け反った。
「やっぱり、何でもない。古いシーツのお洗濯、してくるね」
白瞑がシーツを抱いて部屋を出て行った。
「え! 待って白瞑様。聞きたいことが……って、行っちゃった」
白瞑の姿は、廊下にすらなかった。
「甘味が好きか、聞きたかったのに」
晴は壁に貼っている短冊を眺めた。桃の薔薇ケーキを、夕暮の神は喜んでくれた。
「きっと、好きだよね」
晴は御厨に入ると、甘味を作り始めた。
「今日はアイスクリームメーカーを使って~フレーバーはフワフワバニラと蜜イチゴにして~」
歌うように独り言を呟きながら、デザートを作っていく。
「もちもちの熱々生地で、ヒンヤリトロ甘にしまーす」
独自配合のクレープ生地を薄く何枚も焼いていく。冷やした皿にドレープを描くように熱々のクレープ生地を重ねる。その上にバニラとイチゴのアイスを載せて、生クリープをホイップする。仕上げにアーモンドスライスとチョコソースをかけて、完成だ。
「可愛くて、美味しそうだ」
いつの間にか隣に白瞑がいた。
目を輝かせて皿の上のクレープを見詰めている。
「美味しそうでしょ? 白瞑様が好きかなって思って作ったよ」
「私にために……?」
「うん。白瞑様が食べてくれたら嬉しいなって思うデザートにしたんだ」
白瞑の目が輝いている。潤んでいるみたいだ。白瞑を椅子に促すと、目の前に皿を置いた。
「本日のデザートは、蜜イチゴとフワフワバニラアイスのもっちりクレープです。どうぞ、召し上がれ」
白瞑がクレープにフォークを入れる。熱々のクレープとひんやりイチゴアイスを、一緒にパクリとした。もぐもぐする白瞑の目が徐々に見開かれた。
「おっ……美味しい」
今までで一番の美味しいが白瞑から出た。
晴の胸に嬉しさが広がる。狸の尻尾が、ゆらゆら揺れた。
「えへへ。白瞑様が喜んでくれて、嬉しいな。それはね、お礼だよ」
「お礼?」
白瞑が首を傾げた。
「一緒にいてくれる、お礼」
「私は、居候の身だから。むしろ迷惑じゃないのかい?」
白瞑が顔を俯かせる。
「迷惑なんて、ないよ。狭間に来てから、僕はずっと一人だったから。誰かがいてくれるの、新鮮なんだ。一緒に料理できるのも、とても楽しいよ」
御厨守の仕事は、一人でも楽しい。二人だと、もっと楽しいと知った。
「二人は楽しいって、教えてくれたのは白瞑様だから。これは、そのお礼だよ」
クレープを切り分けて、バニラアイスを添える。
「はい、あーん」
差し出したアイスクレープを白瞑が恐る恐る、パクリとした。白瞑の体が光に包まれる。一際、強い神力が溢れ出した。
「うわ、眩しい」
思わず目を瞑る。瞼の裏まで明るい。
(これだけ神力が溢れたら、元に戻れるんじゃ……)
そう思って目を開けた。白瞑の姿は変わっていなかった。
「白瞑様って、今が元の姿なの?」
「いいや。本来はもっと、大人の姿だよ」
白瞑が、すぃと目を逸らした。
「そうなんだね。もっともっと美味しいもの、食べないといけないね」
晴は拳を握って気合を入れた。
「晴は……私が神世に戻ったほうが、嬉しい?」
「それは、ちゃんと戻れたほうがいいと思うけど……」
白瞑が、ぐっと唇を噛んだ。
「いなくなっちゃったら、淋しいかも」
ぽそりと、晴の口から言葉が零れた。俯きかけた白瞑の顔が上がる。
「でも、気にしないで。一人で御厨守をするのは、慣れているから。白瞑様は、ちゃんと帰るべきだよ」
微笑みかけたら、白瞑が泣きそうに目を歪ませた。
(どうしたんだろう、悲しそうだ)
晴はまたアイスクレープを切り分けて、白瞑の口元に持っていった。
「さぁ、もっと食べて」
「うん」
ぱくりと頬張る白瞑は可愛い。美味しい顔で食べる姿を見られるだけで、心が満たされる。
(白瞑様が嬉しそうだと、僕も嬉しくなる。悲しい顔は、見たくないな)
美味しい顔で食べているけど、白瞑にいつもの元気がない。少しだけ心配になった。
白瞑がナイフとフォークを晴から受け取った。
「自分で、食べるよ。とても美味しい」
「うん、どうぞ」
晴をちらりと見上げて、白瞑がイチゴアイスを口に運ぶ。
「危なかった……戻るところだった」
ぽそりと呟いた白瞑の言葉は、よく聞こえなかった。
アイスクレープを頬張る白瞑の顔が、徐々に笑みを取り戻す。
(元気になってくれたかな)
安心しながらも、晴の胸に何かが引っ掛かっていた。
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