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第12話 神世での目覚め

 小鳥の鳴き声が聞こえる。瞼の向こうに朝を感じて、晴は目を覚ました。 「ここは、どこ?」  晴の部屋ではない。知らない部屋だ。窓から見える外の景色も狭間とは違う。 「何を、していたんだっけ」  ぼんやりと、ここに来る前のことを思い出した。 『伴侶になってほしい』  白瞑の言葉が、はっきりと頭の中で響いた。途端に顔が熱くなった。 「そうだ、僕……白瞑と神世に行くって」  急に胸がドキドキしてきた。 (伴侶になるって決められなかったのに、着いてきちゃったんだ。大丈夫だったかな)  白瞑と来たのなら、ここは神世なのだろう。 「でも、離れたくなかったんだ」  ずっと会いたいと思っていた夕暮の神に出会えた。会えたことが嬉しかった。一緒にいたら楽しくて、白瞑をもっと知りたくなった。 「一人も楽しかったけど、二人はもっと楽しい」  白瞑の隣は心地良いい。もう、知る前には戻れない。  ノックする音がして、扉が開いた。 「晴、目が覚めた。おはよう」  入ってきた男性をぼんやり眺める。  一瞬、目を疑った。晴の知らない大人の男の人だ。そう思って、気が付いた。 (そういえば、神世に来る直前に、白瞑様は元の姿に戻っていたんだ)  狭間にいた時は晴と同じくらいだったのに。今の白瞑は人間の年齢なら、二十五歳前後に見える。十八歳の晴と比べたら、ずっと大人の姿だ。 「おはようございます、白瞑様」  布団に半分、隠れながら挨拶する。白瞑がおかしそうに笑った。 「敬語はナシだと約束したはずだよ。晴は私の伴侶候補なのだから、敬称もナシだ。いいね?」  白瞑の指が晴の唇を押した。 「わ、わかったよ、白瞑……」  タメ口はまだいいとしても、呼び捨てはドキドキする。 「晴の準備が整ったら、屋敷の中を案内しようね。食事の準備も……」 「そうだ、食事! 僕が神世に来ちゃったら、神様の御饌は誰が作るの?」  晴は飛び起きた。 「晴が神世に上がったと知れば、中央が狭間に次の御厨守を送ってくる。今までも、そうだったろう」 「今まで……あ!」  これまでの御厨守の交換は、任期が終わるか、寿命か。それ以外なら、神様に食われていなくなったから、という理由だった。 (食べられるって、こういうこと……?)  今までいなくなった御厨守も、神様の伴侶になって神世に上がったのだろうか。 「本当にバリバリ食べられちゃったんじゃ、なかったんだ」  白瞑が、小さく吹いた。 「もしかして、神様の伴侶のこと? 常世では、そんな風に伝わっているのかい?」 「神様に食べられて、いなくなっちゃう御厨守がいるって」  白瞑が、考える顔をした。 「ある意味、間違っていないけど」 「え! やっぱり食べられちゃうの?」  ベッドの上で小さくなっていたら、白瞑に頭を撫でられた。 「食べないよ。私は晴に選んでほしいから、晴が嫌がることはしないよ」 「僕が、選ぶ……」  神様にそう言われると、気後れする。 「伴侶候補から伴侶になれるように、頑張るよ。この屋敷で不自由があれば、何でも教えて」 「うん、わかった」  考える暇もなく、晴の神世での生活が始まった。急すぎて、感覚が付いていかない。 「一応、誤解なきように伝えておくとね。これまで神世に上がった御厨守は、ほとんどが神の伴侶になっているんだ。食べられちゃったわけじゃないよ」 「そうだったんだね。良かったぁ」  自分もいつか食べられるのかと思ったから、安心した。 「神様は御厨守から伴侶を選ぶの?」 「皆がそうではないよ。伴侶を持たない神も多い。別の場所で見染めたり、神同士で添う場合もある。ただ、御厨守は特別かな」 「特別?」  ぴくぴくと狸の耳が動く。白瞑が晴の耳を愛おしそうに撫でた。 「神世には食事を作る文化がない。食事の頻度も人ほど多くない。だから御饌に頼る。美味しい御饌を作ってくれる御厨守は、神にとって魅力的なんだ」  耳をムニムニされて、ちょっとくすぐったい。 「そう……なの?」 「神々にとって御厨守が魅力的なのは、間違いないけど。私が晴を選んだ理由は、御饌だけじゃないよ。晴自身を魅力的だと思ったから、狭間まで会いに行ったんだから」  耳がパタパタする。晴は首を傾げた。 「会いに……? 神世から落ちちゃったんじゃないの?」  白瞑がビクリと肩を跳ねさせた。 「えっと、そうだね。偶然、落ちたんだったね」  白瞑が気恥ずかしそうに言い直した。ソワソワと部屋の中を見回す。 「えっと……そうだ。この衣装棚の中に晴の服が揃っているから、好きに着替えて。落ち着いたら、屋敷の中を案内するよ」  部屋に備え付けられた衣装棚には、ずらりと服が並んでいる。あまりの数に晴の意識が服に釘付けになった。 (たくさんのお洋服だ……僕が持っている服より、ずっと多い)  晴の手持ちと言えば、料理用の服とエプロンばかりだ。衣装棚の服は色とりどりで数が多くて、どれを選んでいいか、わからない。 「それじゃ、少し外すね。準備できたら、声をかけて」 「……わかった」  白瞑が部屋から出て行った。その後ろ姿を晴は呆然と見送った。

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