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第13話 立派過ぎるキッチン

 着替えて準備をすると、白瞑が屋敷の中を案内してくれた。 「この廊下の奥に風呂があるよ。晴の部屋を出て、一番近いのは中庭に続く縁側かな」  案内してもらった縁側は、とても広かった。 (僕が五人くらい横になって、ゴロゴロ転がったりできちゃいそう) 「私は夕暮の神だからね。空を見るのがお務めだ。昼と夜のあわい、夕暮れは黄昏や逢魔ヶ時ともいうだろう。魔性の者が湧きやすい刻限でもあるんだ。それらを取り除くのも、お務めの内だよ」  夕暮の神のお努めを初めて知った。 「この縁側で、空を見るの?」 「そう。いつも一人で見上げているよ」  白瞑が空を見上げた。その横顔を眺める。 (白瞑も、一人だったんだ。僕と、同じ)  ぎゅっと、胸の奥が苦しくなった。白瞑の手を握る。  気付いた白瞑が微笑んで握り返してくれた。 「台所もあるんだけど、見てみるかい?」 「あるの? 見たい!」  狸の耳と尻尾がピンと立った。台所は、とても楽しみだ。 「晴のために新調したんだ。使いづらければ作り変えるから、教えて」  白瞑が見せてくれた台所は、かなり立派だった。 「御厨より新しくて、広い」  代々、使い継がれている御厨は、全体的に古い。竈に火を起こして焼き物や煮物を作るし、米を炊く。 「炊飯器がある」  思わず触れて確かめた。 「そういえば、御厨は竈だったね。炊飯器、使ったことない?」 「師匠の所は、魔法動力の炊飯器だったよ」  形が似ているから、懐かしい。 「神世だと、この手の動力は全部、神力なんだけどね。この屋敷の中なら、私の神力が満ちているから、いつでも使えるよ」 「そうなんだね」  ワクワクする反面、ちょっとだけ竈が懐かしい。 (竈だとお米が立つし、おこげが作れたりして美味しいんだよね)  御厨守になったばかりの頃は、竈の扱いに慣れなくて戸惑った。あの頃を思い出して苦笑する。晴の顔を白瞑が覗きこんだ。 「竈のほうがいい?」 「え! えっと……炊飯器も懐かしいんだけど。今は竈に慣れているから、ちょっと寂しいなって思っただけだよ」 「それじゃ、竈も作ろうか」 「えぇ! そんなの贅沢だよ。白瞑が揃えてくれた物を使うから」  慌てて炊飯器を抱いた。 「遠慮しないで、何でも言って。揃えるよ」  ふるふると、晴は首を振った。 「これでいい。この台所で充分、満足」 「そう? じゃぁ、使ってみて不満があったら教えて」 「うん……」  晴は遠慮がちに頷いた。 (充分、立派な台所なのに。これ以上、贅沢言えない)  揃えてくれた台所でも充分な料理が作れる。これ以上の設備は必要ない。 (それに、僕はもう御厨守じゃなくなったんだろうから。前みたいに御饌を作る機会は、ないんだよね)  きっと、この立派なキッチンでも、白瞑の分を作るくらいだ。 (ちょっとだけ、淋しいな)  それを言ったら白瞑は、きっと困る。晴は本音を胸の内に仕舞った。 「御屋敷の中、他の場所も見てみたいな」  炊飯器を置いて、白瞑の袖を引く。 「台所は、もういいの?」 「後でじっくり見せてほしい」 「わかった。先に他の場所を廻ろうか」  白瞑が晴の手を握った。手を引かれながら、晴は台所を振り返った。 (僕には大きすぎるプレゼントだけど。折角、揃えてくれたんだもん。白瞑のために美味しい御饌を作ろう)  心に誓うと、晴は白瞑の手を握って歩いた。

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