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第26話 クローバー蜂蜜のミルクティ

 しばらくは白瞑の屋敷で御饌を作る日々が続いた。連絡がなくて不安を感じ始めた頃、湫憂から報せが届いた。 『ようやく準備が整ったようだよ。日の神と月の神が行くから、出迎えをよろしくね』  おしゃべりオウムが湫憂の伝言を告げる。  白瞑が口を引き結んで聞いていた。その横顔を見詰めて、晴は迷っていた。 (月の神様と日の神様は、白瞑と何かありそうな感じだった。聞いたら教えてくれるかな)  迷いながらも、晴は口を開いた。 「あのね、白瞑……」 「晴、実は……」  声が被って、互いに言葉を止めた。晴は白瞑と見詰め合った。 「きっと、僕が聞きたいことと白瞑が話そうとしてくれたこと」 「同じ、だよね」  二人同時に頷く。 「日の神様と月の神様と、何かあったのかなって思って」  晴は思い切って気になっていたことを聞いた。 「うん……実は昔、月の神に契りを申し込まれているんだ」  晴は息を飲んだ。 「契りって、伴侶になるってこと?」  白瞑が頷いた。 「断ったんだけどね。今でも時々、声をかけられて、流していたんだよね」 「どうして、断ったの?」  考えるより先に、疑問が口を吐いた。 「夜見が好きだったのは私じゃなくて、私の表面だけだから」  白瞑が悲しそうな顔をした。 「私が欲しい愛も伴侶も、夜見ではなかったんだ」  そう語る白瞑は儚げで、とても美しく見えた。 (白瞑はこういう顔をしている時、とても綺麗だ)  夕暮れを眺めるお務め中の白瞑も、とても美しい。 (きっと白瞑自身は悲しい気持ちでいる時なんだ)  憂いや儚さが美しいなんて、本人にとっては嬉しいものではないだろう。  白瞑の言葉が少しだけ理解できた気がした。 「今は晴がいるからね。さすがに何も言ってこないとは思うんだけど。ここまで来訪が遅れたのは少し気になるけどね」  白瞑が晴に手を伸ばした。晴の耳に、そっと触れる。 「何があろうと、晴に嫌な思いはさせないよ。だから、安心して」 「僕も、白瞑に嫌な思いさせない」  晴は、台所に飛び込むと、蜂蜜を持って戻った。 「これ、クローバーミツバチが集めた蜂蜜」  蜂蜜をミルクティに一匙垂らして、白瞑に差し出した。 「飲むと幸せな気持ちになれるんだよ。僕は白瞑の笑った顔が好きだよ」  白瞑がミルクティを眺めて笑んだ。 「晴と一緒だと、ずっと笑っていられるよ」  白瞑がミルクティを一口、含んだ。 「美味しい。晴が淹れてくれるお茶は全部美味しいけど。今日のは、いつもより美味しく感じるね」 「うん、美味しいね」  二人並んで幸せの蜂蜜入りミルクティを飲む。それだけで、ほくほく温かい気持ちになってくる。 「日の神様と月の神様、今までと同じように御饌でおもてなししよう。お二人が好きな御饌を準備しようね」  白瞑の手を握る。 「そうしよう。私も作るのを手伝うよ」 「うん!」  握り返してくれる手が嬉しい。この手を離したくない。  白瞑の気持ちが別のどこかに向くのが、怖い。だから早く、自分の中の覚悟を固めたい。  月の神より白瞑の気持ちのほうが気掛かりだった。

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