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第34話 思い出の回廊

 晴は一人、回廊を歩いた。  何度が左に曲がったと思う。廊下の長さは同じではないようだ。短い廊下を歩いてすぐ左に曲がったり、そうかと思えばやけに長く真っ直ぐな廊下を歩いたりした。 「景色も変わらないし、時間もわからない。ちゃんと進んでいるのかな」  不安になりながらも、晴は歩くのをやめなかった。 「あれ? 向こうに緑が見えてきた?」  一面白かった景色の向こうに、森のような色が見える。晴の足が急いて、走った。 「ここ、狭間の御厨があった森だ」  晴が毎日、神々の祠へ通っていた道だ。その道を、晴が歩いていた。 「あの子、僕? 僕は、ここにいるのに」  景色の向こうの晴と、自分自身を見比べる。 『うふふ、今日も夕暮の神様から嬉しい短冊をもらっちゃった』  晴が嬉しそうにしながら御厨に帰っていく。 (これって、時を遡っているの? 時の大社だから?) 「白瞑は、時が飛ぶって言っていた」  つまり今の晴は、狭間にいた頃の過去に飛んでいる、ということだろうか。  自分に向かって手を伸ばす。触れそうになった手は何も掴めず、すり抜けた。 「触れない。これは、映像みたいなものなんだ」  回廊の真ん中に過去の映像が現れているから、先に進めない。 「観ろってことなんだね。わかった」  晴は立ち止まって、自分の姿を見詰めた。  御厨に戻った晴は、自分の部屋で短冊を壁に貼り付けていた。 「白瞑がくれた短冊、僕の宝物」  カシャリと画面が切り替わる。幼い姿をした白瞑と御厨で料理をしている晴がいた。神世から落ちて神力を削がれていた時の白瞑だ。 「僕、とても楽しそう。あんなに笑ってる」  普段、一人で作っている時は、笑っていただろうか。今では思い出せない。少なくとも、笑いかける相手はいなかった。 (一人でも楽しかったけど、二人はもっと楽しいって、白瞑が教えてくれた)  蜜イチゴのアイスクレープを出した時の白瞑が、感動した顔をしている。  食べている姿を眺める晴も、笑っていた。 「あ……白瞑が、大人の姿に戻った」  白瞑の姿が光に包まれて、成長した。御厨で初めて見た時は驚いた。映像の中の晴も驚いた顔をしている。 「僕……白瞑の着物を握ってる」  ずっと白瞑の着物を握り締めている。この時は、まだ神世に行くのを戸惑っていたはずなのに。 「離れたくないって、思ったからかな。この時から僕は、白瞑と一緒が良かったから」  また画面が切り替わった。  湫憂に厳しい話をされて、溜まった短冊分の御饌を作ることになった時だ。晴は白瞑に寄り添っている。 「そんなつもりなかったけど、ピッタリくっ付いてる」  神世で御厨守をするため、神々に御饌を振舞った時。白瞑の屋敷の台所で一緒に料理を作った。あの時は楽しかった。  冬の神の屋敷に行く時も、過保護なくらい厚着させてくれる白瞑が、くすぐったくて嬉しかった。  映像の中の白瞑が氷魚と言い界の喧嘩を始めた。そんな二人を、晴はソワソワしながら見守っている。 「白瞑は氷魚様と仲直りしたのに、僕は嫉妬したんだ」  白瞑の目が自分以外に向くのが辛くて、泣いた。誰かを独占したいなんて、初めて思った。今でも思い出すと泣きそうだ。  また、場面が切り替わった。夜見と照陽が月の雫を持って、プレテストに来た時だ。 「夜見様……」  本気で白瞑を愛している夜見の気持ちに、正直に圧倒された。それでも、負けたくないと思った。あの時、はっきりと自分の気持ちを自覚した。 「僕、白瞑が大好き」  どうしてか、ポロポロと涙が零れた。 (いつの間にか、こんなに白瞑のこと、大好きになっていたんだ) 「どうして時の神様は、僕に思い出を見せるんだろう」  グシグシと涙を拭う。前に向き直ったら、映像が消えていた。 『晴……聞こえる?』  白瞑の声が聞こえた。  晴は、周囲をきょろきょろと見回した。回廊には誰もいない。 「白瞑……?」  今の声が本物の白瞑なのか、思い出の白瞑なのか、わからない。  晴は回廊の先に歩き出した。 『晴、こっち……早く、私に追いついて』  聞こえる声のほうに手を伸ばす。回廊の先に人影を見付けた。 「白瞑……!」  人影が光に変わる。まばゆい光で目が眩んだ。晴は思わず立ち止まって、目を閉じた。 『晴、目を開けて』  白瞑の声に促されるまま、目を開けた。視線の先に、大きな扉があった。 「ここが、最奥?」  一本道の廊下を、ずっと歩いてきた。途中に部屋があるとも聞いていない。きっと最奥の時の間なんだろう。 「……入ろう」  晴は胃を決して、重い扉をに手をかけた。

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