45 / 45
番外編 ある日、無乃の講義
「――それで、君のここには生命の気が流れる二本の道があり、左右の腎は臍の下の膀胱に繋がる」
このあたりに腎臓が……、と探るように羅冴流の身体を撫でているときにはすでに、衣服は半分はだけ、分厚い身体はほんのりと赤く汗ばんでいた。
「腎でできた小便を尿道に伝えて、身体の外部へ放散させるのが下腹のさらに下、君の生殖器があるところ」
無乃の指先は悪戯に腰の下を辿る。
「君にも同じものが?」
止めようとしない羅冴流である。
無乃はにこりと微笑んだ。
「もちろん、あるよ」
腎臓も尿道も、生殖器も。
答えると、羅冴流の大胆な指先が無乃の臍のあたりをこらえるようにかすめた。
「君のものは、俺の物より小さいかも」
「うん?」
と無乃はのんびりと首をかしげて、
「君より大きいかもしれないよ」
と見栄を張る。
日に焼けた凜々しい顔が、無乃と目があうと途端に爽やかなものになる。さっぱりとした笑顔だというのに無乃は危うい物を感じてぱっと羅冴流から手を離す。にこにこと微笑んだ。
「さ、もう教えることはないのだから、君は晴れて私の門流となった。君の手腕を聞きつけた患者が各地から押し寄せるだろうね」
無乃は屈託のない微笑みをむけていう。梨花のように純粋で美しい笑みを向けられた羅冴流はたまらないというように柔らかく微笑んで、流れるように耳元に唇を寄せた。
「無乃先生……」と、脳髄に甘く痺れる羅冴流の声。その後に続く言葉は、まるで真っ赤な水飴でも舐めるような甘さ。意識を奪われた瞬間、
「 」
色気のある熱い吐息が艶美な言葉と供にそそがれた。
――!
驚きと恥ずかしさにハッと顔をあげた無乃の唇は、羅冴流にぱくりと食べられてしまう。
口の中に含んでおきたいと思わせるほど、無乃の唇は甘美な刺激を与え、うっとりと心を奪って離しがたいようだ。
舌先を重ね、息を絡ませ、甘い唾液や柔らかな唇を羅冴流は味わい尽くすように貪っている。
「まだ、教えが足りないようだ……」
名残惜しいという顔をして離れていく羅冴流に、無乃はようやく解放された。まるでしつけの足りていない犬に向けて言うようだったが、無乃は羞恥に襲われて真っ赤に乱れていた。
「分かった、なら特別だ。門外不出だからよく聞いて。……腹は、四肢百骸を養うと言って、丈夫な人は腹部が大きく、下腹に力がある。堅く、それでいて弾力があるのが、健康体だ」
「ああ、なるほど」
と今度は嬉しそうに微笑んで、羅冴流は無乃の下腹部に焼きつくほど熱い手のひらをあてがった。
「無乃、しかし服の上からでは、確かめようがない。どうしたら良いと思う?」
まさか、ひんむくつもりか? と無乃は冷や汗を背筋に流している。
おっとりと微笑みながら、
「君は臍のしまりがいいね」
と羅冴流の臍につんと触れた。先手を打ってしまおうと思ったのだ。
「心身共に、壮健だ。それに、臍が上を向いているし、深い。天運が強く幸福な人の象徴だよ」
と口早に言ってから、何も反応がない羅冴流に目をあげた。
まだ口づけの余韻が残る無乃の艶っぽい顔色に、羅冴流はあまりにも蕩けてしまいそうなほどの微笑を浮かべている。困った眉をしているのは、おそらく彼の内にある荒々しい衝動と冷静さの狭間で揺れているためだろう。無乃は心の中で額を覆って呆れかえった。
「……羅冴流、私は退出していようか」
「どうして?」
「私なりの気遣いだよ、言わせないでくれ。一人の方が集中できるだろ」
微笑む無乃に羅冴流は少し考えるそぶりをした。
「気遣いだというのなら、他の気の遣い方もある」
そしてわざとらしく無乃の太股を鷲掴み、そっと股の方へ撫で上げる。
「俺ではなく、君の方に火急の要事がありそうだな」
首筋に触れる唇が戯れるように柔く肌に吸い付いた。
丹田から込み上げるような快感に無乃は甘い吐息をこらえて壁にぐったりとよりかかる。
「君が今、火急の要事にしたんじゃないか」
あまりにも満たされないそこが疼いてたまらない。だくだくと溢れんばかりの体液に衣服に染みが滲んでいるのではないかと気が気でなかった。
「爽やかな顔をしておいて、結構意地が悪いことを知っているんだ。この間だって……」
解放されない熱が身体中に絡みついてあつくて仕方がなくて嫌なのに、羅冴流はそれを許してくれず、性器は無限に色情を催して後ろまでぐっしょりと濡れるほど。二度とごめんだ。
一夜を思い出す無乃に、羅冴流はやはり愛おしそうな目をしてみていた。
「意地悪?」
「そう、君は、意地が悪い」
「なら、どうすればよかった?」
「焦らされるよりは、すぐに入れてくれる方が――」
と、すぐさま失言したことに気づき、
何を口走って――
と咄嗟に羅冴流を見る。だが気づいたところでもう遅い。
「君がねだらないから」
身体を走る静脈に羅冴流が導かれるまま口づけを落とし、無乃のゆるんだ襟元から大胆にも手を突っ込んだ。感度の良い胸の先を、身体が跳ねるほどじれったく触れている。
交わりの快感を思い出させるその刺激。無乃は唇の端から艶めいた声をこらえることができなかった。
しがみつきたくなるのを必死に我慢して、羅冴流の襟を鷲掴みにする。その直前、羅冴流は無乃の背中に両腕を回そうとしていたところだった。それを、無乃は子猫を運ぶように引き剥がしたのだ。
「君のその、蛇のせいだ。それを見ると身体が竦むんだと思う。服を着てくれないかな、羅冴流」
「本当は欲しくてたまらないだろ」
無乃の瞳の奥を覗き込んだ羅冴流は狡猾にも見抜いている。無乃はハッとして後ろに体を反らした。
「無乃、興奮を隠すことはない。俺に全て預けてしまえばいい」
高ぶらせる羅冴流の指先に下腹部の熱は激しく引きずり出され、太く脈打つその熱の塊を羅冴流が徐に手に持とうとするのを、たまらず頭突きした。
股ぐらを、今羅冴流に触られたらとても耐えられない。
火花の散る痛みに羅冴流がくらっと頭を揺らす。無乃は石頭だ。うっ、と天井を仰ぐ羅冴流に無乃はしまったと手を伸ばす。しかしゆっくりと息を吐き出した羅冴流が、にっこりと腹の黒い笑みを浮かべて無乃を軽々と持ち上げてしまった。
「全裸になって、君の隣で子守歌でも歌ってやるよ」
口調は穏やかで爽やかだが、寝台に向かう足取りはぞんざいだ。
「私は寝付きが良くてね、子守歌なんていらないよ」
「俺に一人で寝ろっていうの? ……いや、素直になるよ。君、自分では気づいていないようだけど、ぐるぐる巻きにして頑丈な箱の中にでもいれておかないと、俺は君の色気にあてられて我慢できなくなるらしい」
羅冴流の悪態をつくような瞳だった。
「息も苦しく喘がせたい。尽きない快感を与えて淫らなものを味わわせ、狂わせたい」
爽やかな顔でそんな激しい欲望をあけすけにぶつけられた無乃は驚いた。大切なもののように丁寧に寝台に座らされると、乱れた襟をしゅんとした羅冴流が整える。
「……肺には空気がみちて動き、肝は右の脇腹にあり……」
顔を真っ赤にさせて喉を鳴らし、つばをごくりと飲み込む羅冴流はまるでご馳走を前に焦らされているようだ。
指先を震わせた羅冴流が衣服の上からたっぷりと優しく身体を撫でつける。これでは我慢をさせる方が、かわいそうか。
衣服の上からなら……と罪悪感を覚える傍から、無乃の吐息は熱く湿りを帯び、唇を、羅冴流の物欲しげな指がなぞっていた。
剣客の羅冴流、舟で百海を渡る幇主の羅冴流。それに比べたら薄くて白い腹と細い腰。けれど、体つきや喉には逞しい男らしさもあるのだから、それがまた羅冴流をたきつける。
その身体が女のように腰をしならせ男根を欲しがれば尚更……
「我慢ができなくなったら、手伝ってあげる。次は、胃に、腸があって、無乃、腸の繋がっている先はどこだったかな」
身体がつりそうなほど良いところをたっぷりと刺激された無乃が羅冴流の腕を咄嗟に力強く押さえた。
「何の、手伝いをするつもりなのかな……」
無乃はふぅっと苦しく吐息をかみしめる。また、正体を失って訳が分からなくなるのは嫌だ。気持ちが良いはずなのに、もっと刺激を求めたくて辛くて仕方がないのだから。あれが自分の中にあるなどとは思いたくもない。
そんな無乃の気持ちなど知らず、容赦なく衣服をめくり上げる羅冴流は理性などとっくに手放した。
無乃の性器は快感を捉えている。玉のような腿を強引に押し広げると、白くじんわりとこぼれる情液と、敏感なその先端を下穿きにさりげなくこすりつける無乃の破廉恥な動きに興奮した。
「無乃……もっと自分で動いてごらん。ほら、気持ちの良いところを、こうやって……」
無乃自ら激しく突き求めるようにいじめ抜く。淫らな声を漏してすでに限界だろうに、揺れてしまう腰を我慢強くこらえ、唇を結ぶ無乃のいたいけな姿がいけないのだ。
後の挿入口をヒリヒリするほど甘くなぞって、羅冴流はたまらなくかき立てられていた。
「無乃……色っぽいよ」
情欲に身を焦がす無乃の指先に羅冴流の手が縋るように重なっていく。必死にこらえる引きつったつま先の間を、羅冴流の太い膝が深く侵入した。
優しい愛撫に、無乃はひたすら快楽をあび続けている。とろとろになった中、もどかしくて乱れてしまうほどのそこを、羅冴流は決して奥まで突き上げない。浅い所を執拗に責め続けていた。
無乃は焦らさず入れろと言っただけで、その後をどうしろとは言わなかったのだ。最も感じる快感の秘部を力強く押しあげて解放させてあげたいのは羅冴流も同じ。けれど羅冴流は悶えるほどじっくりと、味わうように浅く挿入を続け、何度も熱い吐息を絡ませた。そのうちに、「駄目、嫌だ」と理性に雁字搦めになっていた無乃の下肢は力なくゆるみきり、「もっと、奥まで……はげしく……っ」と露口からしたたり満ちる雄液にぐっしょりと犯され、絶頂の縁をまた何度となく行き来しては淫靡な姿を強いられた。
無乃は心を震わせるほどのいやらしい声を、一晩中かき鳴らしていたことさえ何ひとつ思い出せなかった。
目が覚めてもしばらく朦朧として、けれど、春機のほとばしる兆しを羅冴流が知っていたにもかかわらず、中途半端に事を終わらせたことだけはわかっていた。
夜来の余情がいやらしくも身体に残っているのだから、また随分と激しくされたらしいと知る。
無乃は困っていた。その余情のせいだ。羅冴流の黒豹のように優美で精悍な瞳と目が合って、頑丈な雄々しい身体が近づくだけで思わずざわりと心が乱れてしまう。
爽やかな笑顔と抜けたような昼の青空が目に眩しい。
どこか身体を悪くしたに違いない。早く治さなければ、風邪は引き始めが肝心なのだから。
ともだちにシェアしよう!

