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伝説の巫女⑤
翌日、和助が大きな箱に入れられた白無垢を届けてくれた。桐で作られた立派な箱には、金色の糸で編まれた紐が丁寧に巻かれている。その重厚感漂う雰囲気に、凪は思わず息を呑んだ。
「凪。届けていただいたばっかりだけど、今、開けてみる?」
「うん。そうだね」
心配そうに自分を見つめる母親を心配させてなくて、凪は大きく頷いて見せた。本当は心臓がドキドキして仕方がない。桐の箱に触れる手が小さく震えた。
「よし」
気合を入れて箱を開けた凪は、思わず目を輝かせる。
桐の箱には真っ白な糸で織られた白無垢が綺麗に畳まれて入っていた。
「綺麗……」
白無垢には文字通り「無垢」という言葉が含まれており、花嫁の汚れない純粋さを意味していると言われている。正
今凪の目の前にある白無垢は、真っ白な正絹 で織られていた。正絹は天然の絹で落ち着いた光沢があり、手触りがいいのが特徴だ。
真っ白で統一された白無垢は,一本一本の糸まで白で統一されている。白い打掛はかすかに薄桃色に染められており、姫椿の刺繍が施されているが、その精巧さは思わず目を奪われるほどだ。
「可愛らしい白無垢にしてほしい」。そう望んでいた凪は、想像以上の可愛らしい白無垢の出来栄えに、思わず溜息を吐いた。
「まぁ、なんて立派な帯なのかしら」
母親が目を細め、そっと帯に手を伸ばす。真っ白な帯には空色の糸がまるで流れる川のように刺繍されている。それは、湯滝村の真ん中を流れる温泉のようにも見えて……凪の胸は熱くなった。
「本当に、湯玄様の元に嫁に行ってしまうのね」
「え?」
「凪、結婚おめでとう。湯滝村の為に精一杯頑張ってくるのよ」
「……うん……」
目元を真っ赤に染めながら微笑む母親の姿を見ると、凪の胸は締め付けられるように痛む。届けられたばかりの白無垢を見て、浮かれてしまっていた自分が情けなくなってしまった。
「さぁ、お父さんにもこの白無垢を見せてあげましょうね」
母親が白無垢を整えて箱の蓋を閉めようとしているのを、凪は無言で手伝う。
凪の父親はあいかわらず体調が悪く、最近は起き上がることさえ難しくなっていた。どんな医者に見せても原因はわからず、父親を診察した医者たちは揃って首を傾げるのだ。
――この白無垢を着て湯玄様の元に行けば、俺は気に入ってもらえるだろうか?
不安から、心の中にさざ波が立っていくのを感じる。
――源泉が復活すれば、きっと父さんだって元気になる……。
凪はぐっと拳を握り締めて心を奮い立たせる。
もう迷わない。全ては湯滝村の為に。そして椿屋の為に……。
そっと桐の箱に手をのせて、凪は誓ったのだった。
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