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出来損ないの花嫁④
凪が気付いたときには湯花神社の神殿に立ちすくんでいた。
湯玄の温もりを確かに覚えているのに、そこに湯玄はいない。ただ、滝が流れ落ちる音だけが神殿の中に響き渡っていた。
「夢……? だったのか……?」
辺りを見渡しながらぽつりと呟く。提灯の心もとない明かりが照らす室内は、ひどく寂しく見えた。
「あ、これ……」
その時、凪は自分が何かを握り締めていることに気付く。そっと手のひらを開いてそれを確認すると、湯玄がくれた湯石だった。
あんなに熱かった石が、今は氷のように冷たいし、赤い光も放っていない。湯石を見た凪は、湯玄と再会したことが夢ではなかったことを確信した。
「一体これからどうしたらいいんだろう……椿屋に帰りたい……」
全身から一気に力が抜けた凪は、その場にぐずぐずと座り込む。ここに来る前に、母親が髪に刺してくれた姫椿の花が、音もなく床に落ちた。それを見た凪は、無性に悲しくなってしまう。
それでも、途方に暮れた凪は泣きながら家路についた。
湯玄に追い返された息子を、両親たちはどう思うだろうか? もしかしたら「恥知らずが!」と勘当されてしまうかもしれない。想像しただけで怖くなってしまい、椿屋が近付くにつれてどんどん足取りが重たくなっていく。汚れてしまった白無垢を引き摺るように、椿屋の暖簾をくぐった凪を、両親と祖母は優しく出迎えてくれた。
「凪、村の為によく頑張ったね」
そう言いながら自分を抱き締めてくれる母親の腕の中で、凪は全身の力が抜けていくのを感じる。
――よかった、俺には帰る場所があったんだ。
安堵した凪の瞳から、次から次へと涙が溢れ出した。
「ごめんなさい。俺、湯玄様に気に入ってもらえなかった」
「いいのよ。凪はみんなの為にこんなに頑張ってくれんだから」
「ごめんなさい……」
緊張の糸がこと切れてしまい、立っていられなくなってしまった凪は、母親に体を預けるように寄りかかる。ついには立っていられなくなり、床に倒れ込んでしまった。
「凪! 凪! 大丈夫か?」
心配そうに凪の頬を撫でてくれる父親の顔が、少しずつぼやけて見えなく なっていく。
――ごめん、父さん。俺、父さんの病気を治してやれなかった。
そう伝えたかったけれど言葉にすることができないまま、凪は意識を手放したのだった。
さらに月日は流れ、凪は十七歳になった。
大人へと成長した凪はあどけなさがなくなり、美しい青年へと成長したのだった。きっと、今なら「子供だから」という理由で、湯玄に追い返されることはないだろう。
「湯玄様、俺十七歳になったよ。あんたは俺を、欲しいと思ってくれるのか……?」
湯玄からもらった湯石を握り締めて、凪はそっと湯花神社を見つめた。
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