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出来損ないの花嫁⑤

「よぉ、凪。湯玄様は迎えに来てくれそうか?」 「はぁ? あんたまだそんなこと言ってんの? さすが年寄りはしつこいな」 「そんなんだから、湯玄様に追い返されるんだよ。出来損ないの花嫁が。自分から志願したくせに、お粗末な結果だったよな」 「うるせぇな。俺の魅力がわからないなんて、湯玄様もたいしたことがねぇんだよ。いいから黙って消えな」  湯玄への嫁入りが失敗して以来、凪は村人から「出来損ないの花嫁」と陰口を叩かれるようになる。はじめのうちは、そんな言葉にいちいち目くじらをたてていたけれど、何年もそんなことを言われ続けていると、「そう言われても仕方がない」と諦めの気持ちのほうが大きくなってきてしまった。  それも仕方のないことだ。あんなに立派な白無垢をあしらってもらい、盛大に送り出されたにも関わらず、凪は追い返されてしまったのだから。  あの日、両親と祖母が温かく家へと迎えてくれたことが、凪にとって唯一の救いだった。  湯玄の花嫁となろうと白無垢を着た日のことを凪は一日だって忘れたことはない。それはいい思い出、としてではなく、苦い思い出として凪の脳裏に焼き付いているのだ。  凪の姿を見かければ、村人たちは口々に「出来損ないの花嫁だ」と後ろ指を指す。凪が聞こえないフリをしてその場を立ち去ろうとすれば、「この村の源泉が枯れたらお前のせいだからな!」と見知らぬ者から、突然罵声を浴びせられたこともある。  悔しくて、悲しくて……凪は泣きながら椿屋へと向かったのだった。  こんな屈辱を味わったのは生まれて初めてだった凪は、いつしか湯玄を恨むようになる。  ――よくも俺をこんな目にあわせてくれたな……。  凪は血が滲むほどに強く拳を握り締めたが、そっと力を抜く。そんな風に湯玄を心の底から恨むことができたならば、どんなに楽だろうか。でも凪にはそれができなかった。  あの憎たらしいほど綺麗な容姿も、温かくて逞しい腕も。傲慢なくせに優しいところも……。凪は何年たっても忘れることなんてできない。初恋の灯は、凪の心の中でいつまでも燻り続けているのだ。 「畜生。畜生……!」  湯玄を憎みきれない自分が情けなくて、目頭が熱くなった。  凪が湯玄の花嫁になることができず椿屋に戻った直後から、次の花嫁の話で村中は持ちきりとなっている。しかし花嫁に志願する娘なんていないし、「是非自分の娘を花嫁に……」という親もいない。新しい花嫁が決まらないまま、月日だけが過ぎていく。  だからと言って、湯玄が凪を迎えに来ることもなかった。  十七歳になった凪が、一人で源泉に行っても叱る大人はもういない。凪は湯玄への未練と比例するように、湯花神社へと足を運ぶようになった。  源泉の湯は更に減り、今は池のようになってしまっている。源泉から落ちる滝も細くなり、以前のような勢いもない。その光景を見ると、凪の心が締め付けられるように痛んだ。  ――俺が花嫁としての責任を果たせなかったからだ。  どうしても、そう自分を責めてしまう。  しかし、凪が源泉にくると湯玄からもらった湯石が赤く光り、徐々に熱を帯びていくのだ。その瞬間、源泉から湧き出す温泉の量が僅かに増える。それはほんの少しの変化だけれど、凪には救いのように感じられた。 「まだ大丈夫。この源泉は枯れていない」  そう自分に言い聞かせるように呟く。  空からは白い粉雪が静かに舞い落ちてきて、源泉の湯気で音もなく消えていった。

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