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椿屋にやって来た湯の神⑦

 翌朝、目を覚ますと見慣れた天井が広がっていた。凪はいつの間にか椿屋へと戻ってきていたようだ。 「ん、朝か……」  閉じられた障子から、うっすらと朝日が差し込んでいる。近所の鶏が朝も早くから元気に鳴いている様子が聞こえてきた。  昨夜の出来事は夢だったのだろうか? 自分は本当に湯玄と口付けを……。  嫌にはっきりとその情景が頭の中に浮かんできたものだから、恥ずかしくなった凪は、頭から布団を被ろうとした。 「ん? なんだ?」  その時、凪は自分が温かなものに抱き締められていることに気付き体を強張らせた。凪は逞しい腕を枕に、その者の腕の中で今まで眠っていたようだ。  恐る恐る自分を抱き締める者の正体を確認すると、それは気持ちよさそうに眠っている湯玄だった。  ――なんで、俺は湯玄様と一緒に寝ているんだ?  困惑した凪はひとまず湯玄の腕から抜け出そうと体を起こした瞬間……力強くて、温かな腕の中に再び囚われてしまう。凪が湯玄の様子を窺うようにそっと顔を上げれば、そこには目を疑う程美しい男が自分を見つめて微笑んでいた。 「何をそんなに驚いているんだ? 其方を貰いに行く、と約束しただろう?」 「あれって、本当だったのか?」 「当り前だ。私は嘘つきなどではない。約束はきちんと守る主義なのだ」 「だからって、こんなこと……」 「ふふっ。照れている姿もまた愛らしい。さて、顔でも洗ったら、其方の両親に挨拶に参ろう」  そう言いながら湯玄は楽しそうに微笑んだが、凪にはこの状況が理解できていなかった。  着物は乱れていないから、きっと一線は超えていないはずだ。とりあえず凪はほっと胸を撫で下ろす。かと言って、自分の煎餅布団に湯玄と二人きりでいるということが、凪には理解することができないのだ。 「両親に挨拶って?」 「ん? 花嫁を貰いにきたんだ。両親に挨拶をしなければ、失礼に値するだろう?」 「そ、それって……」 「お宅の息子さんを私にください、と、頭を下げるんだよ」  ふぁ……と呑気に大きな欠伸をしている湯玄の顔を見て、凪は唖然としてしまう。  このとき気付いてなどいなかった。凪の運命が大きく動き出していたことに……。

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