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花生みの少年④
「城内にある畑の作物も、ついに全部枯れ果てたらしい」
「なんてことだ……。村長、村は大丈夫なのか? 何者かが作物を狙って攻めてくる、なんてことはないだろうか?」
ノアの家の前には先程から数人の村人たちが集まり、討論を繰り広げている。ノアはその会話にそっと聞き耳を立てた。
「大丈夫だ。そんな輩が攻めてきたときには、国王陛下と騎士団がこの村を守ってくれるという条約が結ばれている。だから心配することなんて何もない」
「そんな約束、ただの口約束だろう?」
「そんなことはない。なぜなら我々花生みは、今まで国のために一生懸命、城に作物や種を納めてきたんだ。そんな我々を国王陛下が裏切るはずなんてない」
必死に村人たちを宥める父親を見て、ノアは溜息を吐く。
――なんてお人好しなんだろう……。
そんな口約束を律義に守るのか? あの新しい国王陛下が? ノアは以前出会った、黒い髪の男のことを思い出しては、とても信頼する気になどなれずにいた。
そんなノアの予感は的中してしまう。
リリス村は変わらず自然に恵まれており、爽やかな風が村の中を駆け抜けていった。
もうすぐ春に植えた種が実をつけ収穫できる季節になる。大きく成長した人参は丸々としていて立派だし、小麦がまだ青い穂を実らせてずっしりと垂れ下がっていた。真っ赤に熟れたトマトも艶々としている。きっと今年も豊作だろう。
そんな光景を見れば、「作物が獲れない」といった話など、別世界のように感じられる。しかし、こうしている間にも飢えで苦しむ人々は確かに存在しているのが現実だ。
「わぁぁぁ! 何をするんだ⁉」
突然聞こえてくる耳をつんざくような叫び声に、ノアは読んでいた本から視線を外す。咄嗟に恐怖を感じたノアは息を潜めて辺りの状況を窺った。
それはいつもと変わらない、穏やかな午後のことだ。
「……なんだ?」
耳を済ませれば大勢の足音と、馬の嘶く声が聞こえてくる。
「一体……何が起きて……?」
胸騒ぎを覚えたノアはそっと窓に近寄り、カーテンの隙間から外の様子を覗き見た。
「ノア! 出てくるな‼」
「逃げて、ノア‼ キャァァァ‼」
今まで聞いたことのない父親の悲痛な叫び声と同時に、母親の悲鳴が聞こえてくる。
――これは、ただ事ではない……。
恐怖を感じてサッと血の気が引き、全身がカタカタと震え出す。呼吸がどんどん浅くなり、足に根が生えてしまったかのように身動きがとれなくなってしまった。
父親が言うように、きっと今の自分には危険が迫っているのだろう。本能的にそう感じた。そう頭ではわかっているのに、体が思うように動かない。どこかに隠れなきゃ——。そう思い息を殺しながら部屋の中を見渡した瞬間。
大きな音をたてて、突然家の扉が開いたのだ。ビクンと全身が跳ね、心臓が止まりそうなほど驚いたノアは、恐怖のあまり腰が抜けそうになるのを必死に堪えた。
――誰かが家に入ってくる? ……父さんと母さんは……?
必死に思いを巡らせても頭の中が真っ白になってしまい、考えなんてまとまるはずもなかった。ようやく動き出した足で、音をたてないようにそっと後ずさっていく。
本能が警笛を鳴らし続けている。
――逃げなきゃ……。
「待て‼」
「ヒィッ‼」
勝手口に向かい走り出そうとしたノアは一人の男に捕らえられ、いとも簡単に動きを封じ込まれてしまった。
「せっかく貴様に会いに来てやったというのに、逃げ出すとは随分と無礼な態度ではないか?」
「は、離せ……」
「ははっ。それは無理な願いというものだ」
その筋骨隆々な男は、ノアの腕一本を掴んでいるだけなのに、まるで全身を縄で縛られてしまったかのように身動きをとることができない。
激しく抵抗をして腕を振り払うことも、大声を出して助けを求めることさえできずに、ノアは目をギュッと瞑った。恐怖のあまり顔を上げることすらできない。奥歯を噛み締めて必死に恐怖と戦った。
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