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花生みの少年⑤
「久しぶりだな? ノアよ」
「…………!」
「俺は新国王のイヴァンだ。久しぶりと言っているのだから、俺の方を向け」
「……嫌だ……」
「何度も言わせるな。こちらを向けと言っているのだ」
ゾクッと背筋が凍るような冷たい声に、これ以上抵抗する気力さえも奪われてしまう。このまま抵抗を続ければ殺されるかもしれない……。
強い恐怖を感じたノアが恐る恐る瞼を持ち上げ、顔を向けると、そこには見覚えのある男が立っていた。歯がカタカタと震えて言葉を発することのできないノアを、威圧的に睨みつけてくる。ノアはその視線から逃れるために黙ったまま再び頷いた。
「近くで見ると想像以上に可愛らしいな。見た目は気に入った。体の相性が良ければ城に住まわせて、妃に迎えてやらないこともない」
男の大きな手が、ノアの顎を捕らえて強引に上を向かせる。視線を逸らそうとしても、そんなことが許されるはずなんてなかった。
「お前の花生みとしての能力が必要だ。今すぐ城に来て作物や花を育てるのだ。これは国王からの命令だ、背くことは許されない」
「な、なんで……?」
「前に会った時に、決して俺に歯向かうことは許されない、と言っただろう? だから、貴様は俺の命令に大人しく従えばいいのだ」
「……意味がわからねぇ。あんた何言ってんだよ? 俺はあんたの召使いにも、奴隷になった覚えもない……!」
「今すぐクレーア城に俺と共に行き、その抜きん出た花生みの能力で作物を育てるのだ。もう一度言う。これは王からの命令だ」
「命令……?」
「そうだ。貴様も知っているだろうが、この国はかつてない程の食糧難に陥っている。もはやこの村からの援助だけでは、補うことはできない程にな。もうすぐ城の作物も、底をついてしまうだろう。国民がいくら死のうが俺の知ったことではないが、我々王族が満足な食事をとれないことは、我慢ならない」
「な、何を言ってんだよ? あんた、めちゃくちゃだ……!」
「何を言う。当然のことだ。我々には貴様のその秀でた花生みとしての能力が必要なのだ。それなのに貴様の両親はお前を差し出すことを拒否した。生意気にも俺に歯向かってきた。だから殺した」
「……殺した……だって……っ⁉」
「そうだ。こんなにも優しい俺に向かって、貴様を城になどやったら『奴隷のように働かせられるに決まっている』と、ほざきやがった。俺は貴様を妃に迎えてもいいとまで言っているのにな? 馬鹿な両親だ」
「あんた、何言って……嘘だろ……!」
父さんと母さんが殺された。その事実を飲み込む前に、ノアの世界から一瞬で音が消えた。新緑がそよ風に揺れる音も、家畜たちの鳴き声も。その代わりに、村人たちの苦しみ耐える呻き声が聞こえてくるようだった。
どんなに奥歯を食いしばっても、全身の震えが止まらない。頭が貧血になったかのようにクラクラとして、少しでも気を抜くと意識を失ってしまいそうだ。
そんなの嘘だ……そう思いたいが、先程聞こえてきた両親の悲鳴を思い出し、強い不安が押し寄せてくる。
――二人は、本当にこいつに殺されたのか?
その言葉の意味を少しずつ理解していくうちに、どんどんと呼吸が速くなり、心臓が破裂しそうなくらい激しく拍動を打った。酸素を吸おうと一生懸命呼吸を繰り返すのに、息苦しさが消えることはない。意識が朦朧としてきて、滝のような汗が全身から流れ落ちた。それなのに、不思議と指先は凍えるように冷たい。
「どうだ? 俺の妃になるか? まぁ、貴様に拒否権などないがな」
片頬を持ち上げ厭らしい笑みを浮かべる国王陛下を目の前に、ただ震えることしかできない自分が情けない。
「村の、人達は……? まさかあんた……っ!」
「あぁ、殺した。所詮、平平凡凡な花生みが何百人集まったところで、貴様の能力には到底及ばないだろう。だから殺した」
「……嘘だ。だって城に作物を授ける代わりに、この村には一切危害を加えないって……この村を守ってくれるっていう約束をしたんだろう……っ?」
「だからどうした? 俺はそんな約束をした覚えなどない。身に覚えのない約束を、俺が守る義理はないだろう?」
その言葉を聞いた瞬間、ノアの中で張り詰めていた糸がプツン、と切れたのを感じた。まるで世界が、ガラガラと音をたてていく感覚に視界が真っ暗になった。
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