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花生みの少年⑥
全てが信じられなかった。あの優しかった両親と、小さい頃からずっと一緒だったみんなが殺された……。一体それをどう信じろというのだろうか?
「たかが……。たかが、俺一人の能力のために、そんな惨いことを……?」
「たかが、ではない。今のクルゼフ王国には、貴様の能力が必要だ」
「だからって……みんなを殺すなんて……」
「貴様が大人しく言うことを聞いて城へ来ると言うならば、貴様の命だけは助けてやる」
「……なんだと?」
「何度も言わせるな。俺には決して歯向かうな」
「…………⁉」
「大人しく城へと来い。あまり手こずらせるな」
頭に血液が一気に集まり、髪の毛が逆立つ感覚に思わず身震いをした。これが武者震いというやつなのかと、ノアは頭の片隅で、そんなことを冷静に思う。
「城へ来るのか? 来ないのか? はっきりしろ」
「馬鹿が……行くわけないだろう?」
イヴァンの片眉が、ぴくりと動く。
「国王に向かって『馬鹿』とは……気が強いところもなかなかに魅力的だ。だが、そちらがそう出るなら、こちらも好きにさせてもらう」
「は?」
ノアは突然、イヴァンに抱き寄せられた。抵抗する間もなくイヴァンの腕の中に深く捕らえられる。それでも逃げ出そうと必死にもがけば、低い声で耳打ちされる。ノアは背中に悪寒が走るのを感じた。
「おい、貴様はタッピングの経験はあるのか?」
「……タッピング……?」
「そうだ、今日は特別に花食みである俺がタッピングをしてやろう」
嫌な予感がする。何をされるのかわからないのに、ノアの身体中は、イヴァンを拒絶していた。
「い、嫌だ。やめてくれ……」
「ほう、その反応からして、貴様はタッピングの経験がなさそうだな。実に初々しくて可愛らしいではないか」
目の前のイヴァンが艶っぽく微笑む。ノアは全身に力を籠めて抗った。
「ほら。キスをしてやるから目を閉じろ」
「嫌だ……嫌だ……」
「俺の体液はきっと美味いぞ?」
「嫌だぁ‼」
ノアは勢いよくイヴァンの体を突き飛ばし、咄嗟に近くの果物が入っていた籠に手を伸ばす。そこには鋭い果物ナイフが入っていた。偶然にも今イヴァンの近くに護衛の者はいない。
――今がチャンスだ。
果物ナイフを震える手で握り、「わぁぁぁ‼」と喉が張り裂けんばかりに叫びながら、そのナイフをイヴァンの首に突き立てようと勢いよく床を蹴った。
――許せない、こいつだけは‼
ノアは無我夢中だった。突進してくるノアに向かいイヴァンが身構えた、その時……。
腹部に鈍痛が走り、ノアは倒れ込んだ。
ノアの口から短い悲鳴が零れ、苦い胃液が一気に口内に込み上げてくる。
「駄目だ、いけない……」
ノアの耳元で誰かがそっと囁いた。
――……誰だ? 近くに誰もいなかったはずなのに……。
鈍い痛みと共に、意識が少しずつ遠退いていく。最後の力を振り絞り、自分に危害を加えた人物の顔を見ようと体を起こした。
「勝手に手を出すな」
「申し訳ございません。つい反射的に手が出てしまいました——」
目が霞んでイヴァンと話す人物の顔を見ることはできなかった。
「父さん……母さん……」
小さく呟いて、ノアは意識を手放す。最後の瞬間、瞼の裏に優しく微笑む両親の姿が浮かんだ。
「すまない、ノア」
「……え……?」
「すまない……」
薄れゆく意識の中で、涙に揺れるような、小さな呟きを聞いたのだった。
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