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復讐のために④
「ノアよ、もうすぐ着くぞ」
「はぁ……ようやく? 腰と尻がめちゃくちゃ痛ぇ……」
「すまん。本当なら馬車で迎えに行くべきだったが、私は馬車が苦手でな」
馬に乗り慣れていないノアは、腰を擦りながら顔を歪める。こんなにも馬が揺れる乗り物だとは想像もしていなかった。
「大丈夫か?」
イヴァンがノアの顔を覗き込みながら、まるで労わるように腰を擦ってくれる。その突然の行動にノアは思わずイヴァンの手を振り払った。
「な、なにすんだよ!? 急に触んな!」
「すまない。其方が辛そうな顔をしていたから」
申し訳なさそうに言葉を紡ぐイヴァンを見たノアは、拍子抜けしてしまう。
今目の前にいるイヴァンは、ノアが知っているイヴァンとは別人のように感じるのだ。まるで角が取れたような穏やかな印象を受ける。
村を後にした矢先──、ノアに向かい「大切にする」と言っていたイヴァン。ノアは、妙な違和感を覚えた。
今ノアの目の前にいるイヴァンと、平然とノアの両親を殺めたイヴァンは、本当に同一人物なのだろうか。そんな疑問が頭を過る。
いや……騙されるな。こいつが、あんなことを本音で言ったはずがない。俺の両親を殺しても何とも思わない、冷酷な男に違いないんだ──。
ノアは首を振り雑念を追い払う。今こうやって傍にいるだけで、反吐が出そうな相手なのだ。しらじらしい優しさを見せて、ノアを油断させているだけなのかもしれない。うっかり絆されてしまわぬように、気を引きしめようと改めて誓った。
気づけば目の前には大きな湖が広がっていた。見渡す限り広がる湖面はそよ風に揺れさざ波をたて、耳をすますと小鳥のさえずりが聞こえてきた。そんな湖の水を馬が美味しそうに飲んでいる。馬だって、長距離を休まず走ってきたのだから、さぞや疲れたことだろう。
湖の近くにはたくさんの花が植えられているようだが、どの花も枯れてしまっており力なく地面に倒れてしまっている。
「ここまで影響がでているんだ」
そんな光景を見たノアの心が痛んだ。
「見えるか、ノアよ。あれがクレーア城だ」
「え? あれが? ……すげぇ」
ノアの視線の先には、丘陵に建つ大きな城があった。城の周囲はぐるっと湖に取り囲まれ、石造りの重厚な外観をしている。いくつもの高い塔が天に向かって聳え立ち、その風貌は権力の象徴のように思えた。
有名な建築家たちが、長い年月をかけて築き上げた城だと、ノアは風の噂で聞いたことがある。
しかし噂で聞くクレーア城は、ノアが想像していた物よりもずっと立派で美しいものだった。その城は、まるでノアが幼い頃読んだ童話の中から飛び出してきたようにも感じられる。
今まで平凡な暮らしを送ってきたノアにしてみたら、まるで夢のような光景だった。
「よし、では行くぞ。しっかり掴まっているんだぞ」
「まだかかるのか?」
「いや、もうすぐ着く。あと少しの辛抱だ」
優しく話しかけてくるイヴァンにノアが戸惑いを感じる暇もなく、再び馬は物凄い速さで走り出したのだった。
イヴァン一行が城に着くと、見上げる程大きな跳ね橋がゆっくり下ろされた。金属が擦れる音と共に橋が下ろされると、馬は一気に城内へと走って行く。そのあまりにも厳重な要塞に、ノアは度肝を抜かれてしまった。
このまま逃げ出したい、という強い恐怖にも襲われる。このまま再び跳ね橋が上がってしまえば、自分は一生この城から出ることができないのではないか……。そんな不安に駆り立てられてしまう。
「嫌だ。やっぱり行きたくない」
そんなことを言う暇もなく、城門は重たい音をたてて閉じられてしまう。
──あぁ、これでもう引き返すことはできないんだ。
ノアの心の中に絶望の波が押し寄せたのだった。
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