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復讐のために⑤
クレーア城の中には綺麗に整えられた庭園が広がり、その真ん中を大きな川が流れている。恐らく、この川が生活用水になるのだろう。
庭園の脇では家畜が飼育されていたり、鍛冶屋にパン焼き小屋など、城の自給自足を支える様々な施設が並んでいた。
庭園にある荘厳とも感じる様式の噴水からは水が溢れ出し、キラキラと水しぶきをあげている。周囲にはたくさんの大木が植えられており、四季折々の風景を楽しむことが出来るようになっているのだろう。
しかし綺麗に手入れをされているはずの庭の花も、城まで続く芝も枯れ果ててしまっている。
ノアが見たこともないほど、広い庭園は、その広大さ故に、枯れ色の侵食がより色濃く見えてしまうような気さえした。
「可哀そうに……」
ぐったりと地面に横たわる花々の姿を見ると、ノアの心は張り裂けそうになった。
城の近くに植えられているオリーブの木々も、庭園を最も彩る存在だっただろう薔薇園も、見るも無残な姿をしている。
「これはひどいな……」
ノアはポツリと呟く。こんな風に城の庭園が荒れてしまっているなんて想像もしていなかった。
「全くだ。薔薇園の傍にある葡萄畑も、小麦畑もこんなありさまだ。このままでは、城の存続さえ危うくなってしまう」
「そっか……」
しかし、このような状況に拍車をかけたのは、ノアが生まれ育ったリリス村の援助を全て断ち切ってしまったからではないか? とノアは言いかけたが、その言葉を呑み込む。自業自得だ、と罵倒してやりたかったが、そんなことをすればさすがに殺されてしまうことだろう。
ノアは大きな溜息をつきながら、庭園を見渡す。
「あ? あれは?」
「ん? あぁ、あれは教会だ」
「教会……。ここにも、あるんだな」
「あそこにはダルメア教の司祭、ソフィアがいる。あの者も有能な花生みだ。其方ほどの能力は持ちあわせてはいないがな」
「へぇ」
クレーア城のすぐ脇にはレンガで造られた大きな教会が建っていた。それはノアが知っている教会よりも大きく、重厚感漂う佇まいが印象的だった。
外からでも見える窓には光り輝くステンドグラスが埋めこまれており、思わず溜息が漏れてしまいそうな程、静粛な雰囲気に包まれていた。
「……ん? あの人は? もしかしてあの人がソフィアっていう人か?」
「ん? あぁ、そうだ。あれがソフィアだ」
二人の視線の先には、城下町で暮らす商人と談笑している一人の青年がいた。
栗毛色の長髪を一つに束ね、長くゆったりとした洋服を纏っている。肌は蝋のように白く透き通っていて、一見するとまるで女性のように美しい青年だった。
「綺麗な人だなぁ。なんだか、天使みたいだ」
「そうか? 其方のほうがよほど美しいと思うがな」
そうさらりと言ってのけるイヴァンに、ノアの頬が急激に熱くなった。
そんな二人に気が付いたのか、ソフィアがこちらを向き、ゆっくりと頭を下げる。その所作の美しさにノアは思わず見とれてしまった。
「機会があったらソフィアのことを紹介する」
「……わかった」
「さて、城内へ参ろう。其方に見せたいものがある」
「…………」
馬から颯爽と降りたイヴァンに手を差し出されたノアは、その手を勢いよく払い除けた。「無礼者が!!」という騎士たちの叫び声が聞こえてくる。一斉にノアに向かい突進してくる騎士たちを、イヴァンが手で制した。
「手伝ってくれなくても、一人で降りられるから」
「そうか。それはすまなかった。ではついて来い」
イヴァンはそう呟いてから、ノアに背を向ける。それから先はノアのことなど振り返ることもなく、城内へと歩いて行ってしまった。
体格が全く違うノアは、イヴァンの後を必死に小走りで追いかける。ノアの息は弾み、息切れしているというのに、イヴァンがノアのことを振り返ることはない。
その態度はやはり冷たさが滲み出ていて、「やっぱりこいつが優しいはずなんてない」とノアは確信めいて、それでも今はイヴァンの後を追うしかなかった。
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