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第六話 リヴィア教会のソフィア①

「ノア様のバースレスは完治しておりません。まだ花を生むことは、お止めになられたほうがいいかと思われます。目の腫れも完全に治まっていませんし。無理に花を生み出すことは、花生みにとってかなりの負担になってしまいます」 「え? でも……」  毎日行われる医師の診察に、ノアは思わず体を乗り出す。それを隣で付き添ってくれていたイヴァンがそっと制止した。 「わかった。お前はもう下がっていい」 「はい。かしこまりました」 「いや、ちょっと待ってくれよ!」  イヴァンに命じられた医師が、箱庭から退出するのを見たノアは咄嗟に立ち上がる。追いかけようとしたが「まぁ、落ち着け」とイヴァンに腕を掴まれてしまい、仕方なく先程まで座っていたソファーに腰を下ろした。 「ノア、落ち着くのだ」 「でも、俺が花を生み出さなかったら、この国の作物も花も育たないだろう?」 「まぁ、そうだが……」 「じゃあ、なんで?」  悠長に構えているイヴァンを見ていると、段々腹が立ってきてしまう。ノアはイヴァンの洋服の裾を勢いよく引っ張った。 「俺は大丈夫だ。頑張れば花を生み出すことだってできる! だからやらせてくれよ!」 「しかし、昨日もベゴニアの蕾しか生み出すことができなかったではないか? しかも、かなり苦痛を伴っていた。あんな状態で花を生み出すのは無理だ」 「そうだけど……。でも何回か試しているうちに、花が生み出せるようになるかもしれないだろう?」  必死に食い下がるノアの手を、そっとイヴァンが握ってくれる。それからじっと見つめてきた。 「私は、バースレスに陥っている其方に、無理をしてまで花を生み出してほしくはないのだ」 「でも……」 「私は其方が大切なのだ。だから、其方が苦痛なく花を生み出すことができるまで待つさ」 「…………」 「今は大人しく静養していろ。まぁ、其方が大人しく静養できるとは思わないがな」  ノアの気持ちをほぐそうとしているのだろうか? イヴァンがおどけて笑って見せる。その笑顔を見ると悔しいが、ノアは何も言い返せなくなってしまうのだ。  ふと、イヴァンは何か思い出したかのように、そういえば、と続ける。 「其方はリヴィア教会に行ってみたいそうだな?」 「あ、うん。行ってみたいって思ってた」 「そうか……。アッシュから話を聞いた。しかし、其方をこの箱庭から出すのが……正直心配だ」  ノアは意外そうに目を丸くして、イヴァンを見つめた。 「心配? ……でも、いくら箱庭だからと言っても、閉じ込められているのに変わりはないだろ? ずっといると、息が詰まりそうになるんだよ」 「それはそうだが……」 「なぁ、頼むよ」  怪訝そうに眉を顰めるイヴァンの顔を覗き込む。  独占欲の強い花食みは、好いた花生みを箱庭に閉じ込めておきたいという思いが強い傾向にある。中には、花生みを監禁してしまうほどの花食みもいるらしい……と、ノアは聞いたことがある。もしかしたら、イヴァンは独占欲の強いタイプの花食みなのかもしれない。  しかし、渋々と言った様子ではあったが、イヴァンは首を縦に振って見せた。 「わかった。でも条件がある」 「条件?」  今度はノアが眉を顰める番だった。まさか無理難題を押し付けて、結局は箱庭に閉じ込めておこうというのではないだろうか? と疑いを抱いてしまう。 「アッシュが同行するのであれば、行っても構わない」 「アッシュが?」 「そうだ。アッシュと一緒ならば許可をしよう」  最近になりアッシュとも大分打ち解けてはきたが、どうもあの仏頂面が苦手なのだ。しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。 「わかった。アッシュと一緒にリヴィア教会に行くよ」 「ならば、私からアッシュに話しておこう」 「ありがとう!」  ノアの口角が自然と上がっていく。いつも、リヴィア教会とはどんな教会なのだろうか、と想像を膨らませながら眺めていた。きっと、素晴らしい教会に違いない。そう考えるだけでノアの胸は躍った。 「其方は、笑った顔もまた可愛いな」  そんなノアを見たイヴァンが、愛おしそうに笑いながら頬を撫でてくれたのだった。

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