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リヴィア教会のソフィア④

 イヴァンがいつも通りノアの元へとやってくる。それはもう毎晩の習慣のようになっ「ノアよ、今日はやけに上機嫌ではないか?」 「別に、そんなことはないけど……」  公務を終えたており、いつしかノアもイヴァンを心待ちにするようになっていた。 「アッシュから聞いたぞ。今日リヴィア教会に行ってきたようだな」 「うん。ソフィア司祭と話ができてよかった。ありがとう、許可を出してくれて」 「随分ソフィアと仲良くなったみたいだな」 「あぁ。俺、クレーア城に来てから、他の花生みとちゃんと話をしたことがなかったから、ソフィア司祭と話ができて本当に嬉しかったんだ」 「そうか、それはよかった」 「あの人の生み出すダリアは、とても綺麗だったよ」  ノアの喜ぶ姿に、イヴァンが嬉しそうに目を細める。 「農民たちが其方のベゴニアの花を蒔いたところ、立派な芽が出たととても喜んでいたぞ」 「そうなんだよ。最近は体調もいいから、そろそろ花を生み出してみようと思って」 「そんな、無理をする必要はないぞ。ゆっくり療養をしたほうが……」 「無理じゃない!」  ノアは自分を心配するイヴァンの言葉を遮り、窓の方へと歩み寄る。ランタンが灯されている教会のステンドグラスは淡い光を放っている。幻想的な姿は思わず溜息が漏れるほどに美しい。 「俺、ソフィア司祭が花を生み出す瞬間を見て、凄く感動したんだ。それに、俺のベゴニアを待っていてくれる人もいる」 「そうか。でも、まだバースレスが良くなっていないのだから、無理だけはしないように」 「うん。わかってる」  そう頷きながらノアは床に視線を逸らす。ソフィアが生み出した美しいダリアの花を見た瞬間、感動と共にもう一つ芽生えた感情があった。それは、心の中に影を落としたまま、ノアを憂鬱にさせている。 「なぁ」 「ん? なんだ?」  ノアは照れ隠しから、イヴァンから視線を逸らしたままポツリポツリと言葉を紡いだ。 「前、俺のベゴニアを食べたときに美味しいって言ってただろう?」 「あぁ。其方のベゴニアは本当に美味しかったことを覚えている」 「じゃあ、ソフィア司祭のダリアは?」  イヴァンは訝しげに眉を寄せた。 「ノアよ、それはどういう意味だ?」 「だから……ソフィア司祭のダリアも美味しかったのか聞いてるんだよ!」  ノアは耳まで真っ赤にしながらイヴァンに背を向ける。こんなこと聞くんじゃなかった……と、今になって後悔したって遅い。恥ずかしさのあまり、唇をきゅっと噛み締めた。 「わ、な、なんだよ」  教会を眺めていたノアは、突然背中からイヴァンに抱き締められる。ノアのお腹の前できつく組まれたイヴァンの指に、ノアの鼓動が途端に速くなった。 「お、おい、急にどうしたんだよ?」 「其方のそれは嫉妬か?」 「え?」 「だから、其方はソフィアに嫉妬しているのかを聞いているんだ」 「そ、それは……」 「もしそうだとしたら、私は嬉しい」  首筋に顔を埋めるイヴァンの吐息をくすぐったく感じたノアは、思わず肩を上げる。それでも、天邪鬼であるノアが素直に「ソフィア司祭に嫉妬した」などと、口が裂けても言えるはずがない。自分のお腹の前で組まれたイヴァンの両手をそっと握りしめた。 「其方のベゴニアより、美味しい花などこの世には存在しない」  イヴァンの低くて優しい声が鼓膜に響く。 「あとさ……。お前とソフィア司祭はブートニエールじゃないんだよな?」 「当たり前だろう。私のブートニエールとなる相手は其方だけだ」 「そっか……」  イヴァンの言葉にノアの胸が熱くなる。  ──本当にこの言葉を信じていいのだろうか?  素直に自分への思いを言葉にしてくれるイヴァンが愛おしいと感じると同時に、彼に心を許すことが怖くもある。 「早く、また花を生み出せるようにならないとな」 「焦るな。私は其方に無理などしてほしくはない」  イヴァンに抱き締められたまま顔を覗き込むと、苦痛に顔を歪めている。こんなイヴァンの顔など見たくはないと、ノアは思った。 「なら、今日もタッピングしてよ?」 「……勿論、喜んで」  イヴァンがノアの首筋に舌を這わせた瞬間「くすぐったい!」とノアが声を出して笑う。そんなノアを優しく抱き寄せてくれるイヴァンが、ノアは好きだった。  まるで揺り篭を優しく揺らされているようで、とても心地がいい。 「なぁ、明日もソフィア司祭に会いに行ってもいい?」 「そんなにアッシュをこき使ったら、奴が怒り出すぞ? 今日も子守が大変だったと立腹していたからな」 「でも行きたい。っていうか、ソフィア司祭に明日も来るって言っちゃったし。アッシュにお願いしておいてよ」 「……仕方がない。わかった」 「んッ、んぁ……」  イヴァンの唇が首筋から鎖骨に降りていく感覚に、ノアは甘い吐息を抑えることができない。 「ノア」  自分の名を呼ぶ声に熱が籠り、普段取り乱すことのないイヴァンが呼吸を荒くしながら自分を求めてくる。その美しい顔に欲情が浮かんできて──。ノアは夢中でイヴァンにしがみついた。

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