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リヴィア教会のソフィア⑥
その日は朝から城内が騒がしい雰囲気に包まれている。
不思議に感じたノアがある家臣を捕まえて事情を聴くと、「隣国がこちらに攻めてくるという噂が流れているのです」と真っ青な顔をしながら教えてくれた。
「ノア様がクレーア城に来てくださったことで、一気に作物が育ち始めた。もしかしたら、ノア様の噂を聞きつけたのかもしれません」
「どうか、ノア様。この箱庭から出ないでくださいね。どんな輩が貴方様の命を狙っているかわかりませんから」
「私たちのノア様に、何かがあったら大変です!」
口々に自分のことを心配してくれる家臣たちに、胸が熱くなる。
それと同時に、イヴァンがなぜアッシュと一緒の時ではないとリヴィア教会に行ってはいけないと、あんなにも厳しく言いつけたのかが分かった気がした。
「そうか。俺は命を狙われる存在なんだ……」
改めてそれを感じたノアは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「そのため、今日はアッシュ騎士団長も国王陛下と共に、国内を巡回されるようです。ですから今日はリヴィア教会に行くことができません。私どもが時々様子を見に参りますので、どうぞ箱庭から出ないでくださいね」
「あぁ、わかった」
本当なら今日もリヴィア教会に行きたいところを我慢しながら、渋々と頷く。
ノアに与えられた箱庭はとても広い。大きくて綺麗な噴水もあるし、世界から集められたたくさんの花々が咲き誇り、甘い花々の香りが部屋中を充満している。
高価な家具が置かれ、時間になれば食事やおやつまで運ばれてくる。そんな何不自由ない生活。しかし、一度大空を飛ぶことを知ってしまった鳥には、この箱庭は小さすぎた。
「教会に行きたいな」
ソフィアは昨日、今日はケーキを準備して待ってくれていると言っていた。一体どんなケーキだろうか? そう考えると、ノアの心は疼き出す。
最近は少しずつではあるが花を生み出すことができるようになってきていた。昨日、ティーカップ一杯分のベゴニアの花を生み出したとイヴァンに見せたところ「頑張ったな、ノア」と、とても喜んでくれた。
今なら、リヴィア教会の庭の草花を復活させることができるかもしれない。もしあの広い庭に美しい花々が咲き乱れたら、どんなに綺麗だろうか。きっとあの美しいリヴィア教会が更に華やかになることだろう。ノアは、美しい草花に囲まれたリヴィア教会を見てみたかった。
『いいですか、ノア様。誰にも見つからずあの塔から抜け出す方法をお教えします』
その時、ふとソフィアの言葉が脳裏を過る。
果たして、本当に誰にも見つからずにこの塔から出ることができるのだろうか。そう考えるとノアは心にさざ波が立つのを感じる。
「ちょっとだけ行ってみようかな。すぐ帰ってくれば、きっとバレないだろう」
そう思い立ったノアは、静かに箱庭の扉へと向かったのだった。
箱庭は外から鍵がかけられているわけではないため、出ることは容易だ。ノアは家臣たちがやってこないことを見計らい、そっと扉から顔を出す。キョロキョロと辺りを見渡すが、遠くから人の声がするだけで近くに人がいる気配は感じない。
「今だ」
ノアは逸る気持ちを抑え廊下を走る。
箱庭の廊下を少し進んだところに、子どもが通れるほどの小さな扉がある。そこはいつも鍵が開いているため出入りは自由のようだ。元々は非常時に使う脱出用の扉だったようだが今は誰も使っていない。そこから、塔を抜け出すことができる──。ソフィアはそう教えてくれたのだった。
扉は想像以上に小さかったが、華奢なノアはなんとか通り抜けることができた。
──誰かに見つかったら終わりだ……。
ノアは扉を閉める前に、もう一度辺りを見渡し、誰もいないことを確認しながら音をたてないよう扉を閉める。
下りても下りても続く、急な螺旋階段上の石段を「見つかったらどうしよう」と冷や冷やしながらも下り続ける。息が上がり肩で呼吸をし始めたころ、ようやく外へ続く扉が見えた。
「よかった」
ノアが恐る恐るその扉を開けると、眩しい日差しが差し込んできたものだから慌てて両手で目を覆う。爽やかな風が吹き、ノアの銀色の髪をさらさらと揺らしていった。
「ここからだと教会はすぐそこだ」
ノアは嬉しくなってしまい、勢いよく走りだす。
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